The Nice Guys


ザ・ナイス・ガイズ  (2016年6月)

基本的にアクションでもコメディ系にはそんなには惹かれないが、「ザ・ナイス・ガイズ」の場合、ラッセル・クロウとライアン・ゴズリングという、これまでほとんどコメディとは無縁に近いシリアス系作品が主体の俳優の共演というのが気になった。


クロウは最近もNBCのコメディ・ヴァラエティ「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live: SNL)」で、初めてホストを担当するという意外な面を見せていた。特にコメディ・センスがいいわけでもないなと思わせたが、そのことはアダム・ドライヴァーが出た時も思ったし、ジャヌアリー・ジョーンズのようにコメディにはまったく使えないと思わせるほどひどいできでもなかったので、まあまあ及第というところか。


考えたら、そういや一方のゴズリングも、既に昨年SNLでホストを経験済みだ。ロマンスものや「ドライヴ (Drive)」「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ (The Place Beyond the Pines)」のような作品の印象が強いので、一瞬クロウよりもシリアスな俳優という気もするが、実は思い出すと結構身体を張ってギャグをかましていた。クリストファー・ウォーケンがSNLに出た時のように、シリアスに見える俳優であればあるほど、実はハマった時は超笑える。


とはいっても、「ナイス・ガイズ」がコメディというわけではない。せいぜいコメディ・タッチのドラマというくらいで、そうそう何度も笑わせてくれるわけでもない。TVの予告編でゴズリングが銃撃戦の最中に銃をクロウにパスしようとして明後日の方向に投げてしまい、窓ガラスを破って飛んでってしまうというシーンは、むしろTVで見たその一瞬の方がおかしく、映画の中のワン・シーンとして見ると、別に特に笑えるわけではない。


私としては、にやりとしたのはこの作品に出ているとは知らなかったキム・ベイシンガーが登場した時で、おお、実はこれは「L.A. コンフィデンシャル (L.A. Confidential)」のパロディだったか、と一人納得する。もしかして端役でガイ・ピアースがカメオ出演してないか、そうすれば完璧なのに、と、つい後ろのエキストラの中に見知った顔を探してしまう。片や1950年代、片や1970年代という違いはあるが、要するに、これは警察を辞めて雇われ用心棒になって、不摂生したせいで腹の出てしまった元刑事を描く話なんだろ?


実際の話クロウは、「L.A. コンフィデンシャル」でも「ナイス・ガイズ」でもくたびれたという感じの人物造形だが、今回はかなり腹が出ている。50年代から70年代という20年の間に、さらに自暴自棄になる体験があったと思われる。しかし撮影が終わってだいぶ経っているはずのSNLでも依然として腹が出ていた。本気でコメディへの道を模索しているのか。それとも「インサイダー (The Insider)」の道に進むつもりか。


クロウ、ゴズリング以外に、司法省上級職のベイシンガーも、殺し屋として登場するマット・ボマーも、考えたらこれまでコメディ系統の作品をほとんど思いつかない。ここでのボマーは、切れてていっそ笑えるシーンもないこともないが、ベイシンガーは、滑って転んでもやはりいつものベイシンガーという感じで、特に笑えるわけではない。というか、それこそベイシンガーの持ち味という感じなので、特に文句はない。


つまりは「ナイス・ガイズ」は、わざとコメディアンじゃない俳優ばかりを起用して、コメディを撮ろうとした試みと言える。それはそれで悪くはないと思うし、アクションとしてもそこそこの線を行っており、なかなかプロットも考えられているが、全体として見るとどこか消化不良という印象を受けてしまうのはなぜか。やっぱりコメディ専門じゃない俳優でコメディを撮ろうとしているからだろうなあという堂々巡りみたいな思考の循環に陥る。どこかしっくり収まらないのだ。でも、まあその収まりの悪さみたいなものが、なかなか気になる点でもある。脚本/演出は「アイアンマン3 (Iron Man 3)」のシェイン・ブラック。


そう言えば! とここで気づく。「アイアンマン3」には、ピアースが出ていた。もしかしたら「アイアンマン3」から「ナイス・ガイズ」までを含めての「L.A. コンフィデンシャル」のパロディになっていたとか。「アイアンマン3」でピアースを起用したことから、「ナイス・ガイズ」のアイディアが膨らんだのかもしれない。あり得ない話ではないと思うのだが。











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1977年LA。幼い娘のいる私立探偵のホランド・マーチ (ライアン・ゴズリング) は、事故死したポルノ女優のミスティが生きていると言い張るおばから、ミスティを探してくれと頼まれる。ミスティが失踪中の女性アメリア (マーガレット・クアリー) と関係していることを知ったホランドは依頼を受けるが、アメリアはそのことを好まず、ジャクソン・ヒーリー (ラッセル・クロウ) を雇ってホランドを痛めつける。一方、ジャクソンも暴漢に襲われ、さらに何者かがアメリアを探していることを知る。ホランドとジャクソンは手を組んでアメ リア探しに乗り出すが‥‥


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