本当のところを言うと、今シーズン、私が最も気になっていたコメディは、マンハッタンの動物クリニックを舞台にしたNBCの「アニマル・プラクティス (Animal Practice)」なのだが、既に視聴率不振でキャンセルされてしまった。プレミア・エピソードの冒頭の、男に注目されない女性が溺愛する飼いネコが、それが重荷で高層ビルから飛び降り自殺を図るというつかみはとてもよく、ドップラー効果でぎゃあああんと鳴きながら落ちていく描写は、久しぶりに声を出して笑った。むろんコメディであり、飛び降りはしたけれどもつい本能でひねりを加えて着地しようとしてしまい、足の怪我だけで済んだというオチも、描写自体はないがちゃんとついている。
「ザ・ニュー・ノーマル」の場合は、ABCの「モダーン・ファミリー (Modern Family)」を睨んでの番組ということは間違いなかろう。「モダーン・ファミリー」は、ゲイ・カップル、子育てに迷うカップル、初老の男性と子持ちの妙齢女性のカップル、それに人種や養子問題等、現代アメリカが持つ様々な家庭の問題や今の状況を描いて評価、人気、共に高く、現在のアメリカを代表する人気コメディだ。
「ニュー・ノーマル」も、主要登場人物であるデイヴィッドとブライアンのゲイ・カップルが、子供を養子にとろうと決心する。彼らの場合は、既に生まれてくる子を養子に引き取るのではなく、最初から自分たちのタネを精子バンクに保存し、代理母に産んでもらおうと考える。
その候補者として応募してきたのがゴールディだ。彼女はまだ幼い娘を持つ母親だが、夫はほとんど働かず、彼女がウエイトレスをして家族を養っているようなものだが、ある時、予定外で家に帰ったゴールディは、夫が別の女性とベッドにいるのを発見する。ついにプッツンしたゴールディは、とるものもとりあえず娘を連れて一路LAに向かう。頼る伝手もなかったが身体だけは健康、それで卵子を提供して子供を産む代理母のエージェンシーに登録する。そこで出会ったのが、デイヴィッドとブライアンだ。
とはいえ、実は主人公格の彼らより、出演者で最も知名度があるのは、ゴールディの祖母のジェイン役のエレン・バーキンだろう。まだまだ若く見え、58歳というのが信じられない。最初ゴールディの母親役だとばかり思っていたら祖母役で、まったくおばあちゃんという風には見えない。いまだに充分色気があると言えるところがすごい。番組はその後、デイヴィッド、ブライアン、ゴールディ、彼女の娘のシャナイアと祖母ジェイン、そして生まれてくる予定の子を中心に展開して行く。
実は今シーズン、男に騙されたり愛想を尽かしたりで、まだ幼い娘を連れてシングル・マザーとして働いているまだ若い女性が主人公のコメディがもう一本ある。それが「ベン・アンド・ケイト」だ。ケイトは学生時代に娘を身ごもってしまい、卒業間際で中退、今はバーテンダーとして働いて娘を育てている。
ケイトには、いまだ大人になりきれないという感じの兄ベンがいる。プレミア・エピソードでベンの初恋の人が他の誰かと結婚してしまい、結局まだ独り身を続けることになる。それで子育てにきりきり舞いのケイトの家に越してきて、一緒にケイトの娘のマディを育てていこうと提案する。
「ニュー・ノーマル」のシャナイア、 「ベン・アンド・ケイト」のマディは共に5歳くらいの女の子なのだが、男に騙されやすく、苦労している母を見て育っている。そのため、まだ幼いくせに母親 よりも大人びているところがある。こういうキャラクター設定がほとんど一緒で、惑う母と達観する娘というのが最近の流行りのようだ。
去年のネットワークのコメディは、CBSの「トゥ・ブロウク・ガールズ (2 Broke Girls)」、NBCの「ホイットニー (Whitney)」、FOXの「ニュー・ガール (New Girl)」等、「元気印の女性」がキー・ワードだった。「ニュー・ガール」主演のゾーイ・デシャネルは男に振られたために他の男たちと共同生活を始める羽目になり、「2ブロウク・ガールズ」の片割れキャット・デニングスも恋人に浮気されていたが、それでも持ち前の明るさとエネルギーで前向きに生きる女性たちという印象を強く受けた。
しかし今シーズンの女性たちは一人で問題に立ち向かうことができず、まだ年端も行かない娘の助けが必要だ。昨シーズンはそういうヘルプが必要なのは男性の方だった。今年はまた少し女性が弱くなったようだが、しかしそれを助けるのは女の子というのは、やはり女性の方がクレヴァーということなのだろうか。しかし彼女らの母親はそもそも男に騙されてんだが。女性は強くなっているのか弱くなっているのか賢くなっているのか、それとも実はそれらは男性の陰謀だったのか。もしかしたらハリウッドのゲイの策略か。