放送局: MSG+

プレミア放送日: 3/10/2008 (Mon) 19:00-23:00

実況: テッド・ロビンソン

解説: ジョン・マッケンロー


内容: 2008年3月10日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われたピート・サンプラスvs ロジャー・フェデラーのテニスのエキシビジョン・マッチ生中継。


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私は高校時代庭球部だったこともあって、今でも主要なテニス・トーナメントはだいたい見ているし、過去のビッグ・プレイヤーが出演したり関係したりしているTV番組もほとんど見ている。ジョン・マッケンローがホストを担当した深夜トーク・ショウの「マッケンロー」(CNBC) や、マーク・フィルポウシスがラヴ・インテレストとなった勝ち抜き恋愛リアリティの「エイジ・オブ・ラヴ」(NBC) なんてものも見てたりする。


それだけでなく、セリーナ・ウィリアムスがレース・ドライヴァーに挑戦したCBSの「ファスト・カーズ・アンド・スーパースターズ (Fast Cars and Superstars)」や、ゲスト出演者として演技にまで挑戦したNBCの「ER」、アンドレ・アガシがゲストとして出ていたABCの勝ち抜きリアリティ「オプラズ・ビッグ・ラヴ (Oprah’s Big Love)」なんてものまで見ている。これらはテニス・プレイヤー見たさというよりも、番組そのものを見ていたら単に彼等が登場していたものに遭遇しただけなのだが、それでも我ながらかなりのものを押さえていると思う。


とまれそういうわけで今でもテニス関係の番組をよく見ていたりするが、実際のゲーム自体は、実はグランド・スラム以外は最近ではほとんど追っかけていない。しかし、しかしだ、今回企画された、この「ネットジェッツ・ショウダウン」にはかなり興味を惹かれた。このテニス・マッチ、エキシビジョン・ゲームなのだが、なんとなれば登場するプレイヤーが、かのピート・サンプラスとロジャー・フェデラーという2大巨頭なのだ。


むろんテニス界にはこれまで数多くのスター・プレイヤーや天才プレイヤーがいたが、それでも歴代の有名プレイヤーの中で史上ナンバー・ワンを挙げろと言われた場合、サンプラスかフェデラーを選ぶファンはかなり多いと思う。これに近代テニスではビヨン・ボルグとジョン・マッケンロー、ジミー・コナーズ、イワン・レンドル、そしてアガシを足せば、まず史上ナンバー・ワンに挙げられるプレイヤーの9割は押さえられるだろう。


特にサンプラスは、グランド・スラム優勝14回という、テニスというスポーツ史上に燦然と輝くプレイヤーだ。クレイ・コートにだけは強くなく、フレンチ・オープンでこそ勝ててないが、それでも全英、全米、全豪のあと3つのトーナメントだけで14回優勝しているという記録のすごさをよけい際立たせるだけだ。一方のフェデラーは、最近ちょっとノヴァク・ジョコヴィッチに足元をすくわれがちで、たまさか格下プレイヤーにとりこぼしがあるとはいえ、現時点でやはりフェデラーの実力を疑う者はいまい。因みにこの二人、現役としては過去2001年のウィンブルドンの4回戦で一度だけ対戦しており、その時はフェデラーが勝っている。


話は変わるが、私は毎年地元クイーンズ開催の全米オープンに一度は足を運ぶのだが、一昨年だったか、ゲームを見る前に女性の知人と一緒になんとはなしにプレイヤーたちが練習するアーサー・アッシュ・スタジアムそばのコートで練習風景を見ていた。そしたらフェデラーが練習していて、その練習が終わった後、外に出てきて私の目の前30センチに立ち、他にもいたファンたちを相手に、「昨日のゲームは見てくれたか」なんていいながらにこにことリップ・サーヴィスしたりサインをしたりしていた。人間できているというか、世界のトップというのに全然お高く止まっているところがなく、私は知人と顔を見合わせて、ロジャー (いきなりファースト・ネイム呼び捨て) っていいやつじゃないかと、それ以来フェデラー・ファンである。


フェデラーは自家用機を持っており、サーキットを転戦する時はそれで移動する。もちろんサンプラスも現役時代はそうだった。今でもジェットは手放していないようで、たまさかシニア・サーキットやエキシビジョン等でプレイしたりする場合はそれで移動しているらしい。その二人が乗っているジェット機はネットジェッツ社製のもので、世界中の著名な金持ち、ビジネスマンやスポーツ・プレイヤーがその顧客だ。今回ネットジェッツがスポンサーとなって企画されたのが、このサンプラスvsフェデラー戦であるわけだ。


因みに現在、ネットジェッツの顧客で世界で最も知名度があるのは、実はフェデラーではなくゴルフのタイガー・ウッズだと思われるが、会場となったマンハッタン、34丁目のマディソン・スクエア・ガーデン (MSG) には、そのウッズが招待されてエンド・コートの観客席の真ん前に座っていた。ウッズとフェデラーは共にアメリカでは髭剃りのジレットのコマーシャルに一緒に出ており、フェデラー繋がりもあると思われる。ウッズはその翌日にはフロリダに (ネットジェッツで) 飛んで、アーノルド・パーマーがホストのアーノルド・パーマー・インヴィテイショナルに出場して劇的な優勝を収めるのだが、それはまた別の話。


このマッチはネットジェッツとMSGがかなりバックアップしており、一と月ほど前にニューヨーク・タイムズに一面の広告を見た時にはかなり驚いた。これは、と、一瞬、本気で生を見に行こうかとも思った。日程が月曜の夜という一週間で最も疲れている時でなければ、半々の確率で行ったと思う。因みにチケットの方は、下が50ドルから一番上のVIP席が1,000ドルだ。1,000ドルですか。50ドルならともかく、私がどんなに金持ちだったとしてもエキシビジョンにさすがに1,000ドル払おうという気にはならんと思う。


そんなわけで当日は早めにアパートに帰ってTV視聴に専念する。当然中継はそのMSGの同系グループのスポーツ専門ケーブル・チャンネルであるMSGチャンネルの、そのまた姉妹チャンネルのMSG+だ。チケットは売り切れ御礼といっているのだが、カメラが見上げると、最上階の方はかなり空席があるのが見てとれる。たぶん義理でチケットを買わされたはいいものの、会場には来なかった者が大勢いるか、あるいは最初から会場のキャパより少ない数のチケットが売りに出されていたのかもしれない。


実況はテッド・ロビンソン、解説はマッケンローという、USAチャンネルの近年のお馴染みのUSオープン実況/解説コンビがここでも起用されている。USA以外ではほとんど見ないロビンソンはともかく、近年は主要なテニス・マッチがあると、マッケンローに解説を頼むというのが定着している。私は別にマッケンローの起用に異議を挟むつもりは毛頭ないが、しかし、ごく一般的な視聴者にもわかりやすい解説という点では、マッケンローよりもその弟のパトリック・マッケンローの方が、当たりもいいし噛み砕いた解説でいいと思っている。ジム・クーリエも悪くないと思っているのだが、しかし、確かにマッケンロー (兄) には、その他の解説にはない華があるのも事実なのであった。こういうエキシビジョンだからこそ、マッケンローの解説が相応しいのかもしれない。


こういうかつてのランキング・ナンバー・ワン同士を戦わせるドリーム・マッチは、紙の上でとか、字義通りにそういうゲームを夢見るという点では確かに想像力を刺激するし、楽しい。とはいえそれはあくまでも想像上であって、それを実際に実現するとなると、にわかに居心地の悪い思いをすることになる。なぜなら、今回は特にサンプラスはかつてのピーク時のサンプラスとは別人であることがわかりきっているからだ。もちろん昔とった杵柄というものはあるだろうし、かつてほどではないだろうとはいえ、あのサーヴィスやガッツィなプレイをまた見れると思うと楽しい。


しかし、今回本気でサンプラスがフェデラーに勝てると考えているテニス・ファンはまずほとんどいまい。引退したプレイヤーが現役最強のプレイヤーに勝ててしまっては、はっきり言って非常にまずいのだ。だいたい、会場に姿を現したサンプラスの髪の生え際の後退の仕方を見ていると、なんか、これでどれくらい動けるのかと、かなり不安になる。ゲーム前のこちらの気持ちとしては、サンプラス、頼むから6-0、6-0で負けることだけは勘弁してくれというのが正直なところだった。


そのサンプラスのサーヴでゲームが始まると、いきなり何度もデュースを繰り返した挙げ句、フェデラーがブレイクする。印象としてはサンプラス善戦で、両者時折笑いながらのプレイとはいえ、サンプラスの勝負カンは特に鈍ってはいないようだ。その後フェデラーがサーヴィスをキープした後、サンプラスもサーヴィス・キープで1ゲームとり、これでフェデラー2-1サンプラスと、6-0、6-0の可能性はなくなり、ほっとする。サンプラスは思ったより動けており、サーヴィスもほとんど往時に匹敵する切れを見せる。速さという点ではさすがに昔ほどではないという気がするが、プレイスメントがいいために、随所でフェデラー相手にエースを奪う。結局第1セットはフェデラーが6-3でとるも、印象はサンプラスが善戦しているというものだった。しかも、さらに大きな驚きは、その後に訪れる。


第2セット、サンプラスも吹っ切れてリラックスできたか、さらに調子を上げる。二人共サーヴィス・キープでなんと第2セットはタイ・ブレイクに突入、しかもサンプラスが7-4でセットをとってしまうのだ。もしかしたらフェデラーが本気じゃなかったか、調子が悪かった、あるいはサンプラスを甘く見ていたという可能性も捨てきれないが、一番の可能性としては、現役プレイヤーとしてこの種の勝手の違うエキシビジョンで、うまく調子に乗れなかったというのが最もありそうだと思う。


実際、二人共これはエキシビジョンであり、観客あってのゲームということはよく理解しているものと見えて、フェデラーは途中でボールを観客のファンにトスしたり、一方のサンプラスは気に入らないコールにアピールしたりラケットをコートに叩きつけたりということを、観客サーヴィスでして見せる。極めつけはサンプラスがショットを決めた後の、タイガー・ウッズを意識したすり足アッパー・カット・ガッツ・ポーズで、これにはウッズが非常に受けていた。


いずれにしてもまったく予想外の展開に私も気が動転して、1セットが終わった後、まあサンプラス、善戦してくれればいいねと捨てゼリフを残して早々とバス・ルームにシャワーを浴びに消えた女房のところに馳せ参じて、サンプラス、2セット目タイ・ブレイクとったぞ、と大声で状況を報告する。その後、バス・ルームから出てきた女房は、まだゲームが続いているのを見て、えっ、まだやっているのと驚くので、だって、さっき、サンプラスがタイ・ブレイクとったって教えただろと言うと、てっきりタイ・ブレイクにまで持ち込んだだけで、本当にセットとったとはまるで思っていなかったという。私だってこの目で見ていなければまったく信じられなかったに違いない。


しかもなお怖ろしいことに、第3セット、フェデラーはいきなりサンプラスのサーヴィスをブレイクして2-0とリードしておきながら、その後連続してサンプラスがブレイクし返して連続5ゲームをとり、気がつくとこのセット、5-2のサンプラス・リードでフェデラーのサーヴィスを迎える。おいおい、マジかよ。まったく信じられない。なに、もしかしたら世紀の番狂わせかと一瞬、本気でぎょっとする。これはフェデラー、いくらエキシビジョンでも、負けたらシャレじゃ済まねえぞ、現役の同僚プレイヤーから突き上げ食らうぞ、どうすんの、と思っていた。


フェデラーはここから意地を見せてサーヴィスをキープした後サンプラスのサーヴィスもブレイクし、またまた第2セット同様タイ・ブレイク突入となった。そのタイ・ブレイクでもサンプラス先行フェデラー追い上げで、サンプラス5-3フェデラーとなり、ひえええ、やっぱりフェデラー首の皮一枚と思わせといて、そこからまたフェデラーが追いつく。最後はマッチ・ポイントを手にして前に出てきたフェデラーを相手にサンプラスの放ったパスがサイド・コートを割って、タイ・ブレイク8-6となってゲーム・セット。フェデラーが6-3、6-7 (4-7)、7-6 (8-6) でサンプラスを下したのだった。


エキシビジョンとはいえ、さすが世界の一流と思わせるショットを随所にまぶしたゲームは、それなりに見応えがあった。とはいえ、だからサンプラスがまだ現役として通用するかというと、それはやはり無理だろう。サンプラスは昔からスタミナだけはそれほどなく、それを練習と根性で補っていた。ゲームが長引くとイヌのように舌を出してはあはあ言いながらプレイしていたが、今回もたかだか3セットでぜいぜい言いながら、1ポイント1ポイントを休み休みプレイするという感じで、エキシビジョンだからいいが、これがツアー・サーキットなら対戦相手がクレームつけるだろうし、アンパイアがペナルティ与えるだろうし、なにより観客がブーイングするだろう。一方のフェデラーは全然表情を変えず、時々ちょっと汗を拭くくらいでクールなものだ。


サンプラスには、いつぞやの泣きながらプレイした全豪や、吐きながらプレイした全米、2002年の全米決勝の対アガシ戦等、印象的なゲームは数多くあるが、一昨年のアガシの全米での引退試合の感動には負ける。サンプラスは自分の力が目に見えて衰えてくる前に潔く第一線から身を引いたわけだが、今、人が覚えているのはサンプラスではなくてアガシの方だろう。サンプラスもアガシのゲームを見て、自分ももう一度プレイしたいと思ったに違いない。さもなければたとえエキシビジョンとはいえ、現役ランキング・ナンバー・ワンと勝負するなんて気は起こさないと思う。それが勝負としても面白い接戦になったのはなによりだ。







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ザ・ネットジェッツ・ショウダウン: ピート・サンプラス vs ロジャー・フェデラー   ★★★

 
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