The Muppets


ザ・マペッツ  (2011年11月)

ウォルターは大の「マペッツ」ファンだったが、彼には一つ普通の人間とは異なる点があった。彼もマペットだったのだ。兄のゲアリ (ジェイソン・シーゲル) はなにかにつけウォルターのことを気にかけてくれていたが、背も伸びずガールフレンドもできないウォルターは、世をはかなみがちだった。ゲアリにはガールフレンドのメアリ (エイミー・アダムズ) がいたが、メアリはメアリで、いつも二人だけのことではなく、間にウォルターを入れてしまうゲアリに多少の不満がある。今回もLAに二人きりの旅行だと思っていたら、ウォルターも一緒にマペット・シアターに連れて行くというのだ。しかも実際に行ってみると、マペット・シアターは閑古鳥が鳴いており、カーミットは地上げ屋のリッチマン (クリス・クーパー) に脅されたも同然で、所定の期日までに1,000万ドルを集めることができなければマペット・シアターを取り壊す契約書にサインしてしまっていた‥‥


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思い立ってちょっと調べてみたら、ジム・ヘンソンが創り出したマペッツのそもそもの発祥は、1954年にまで遡るそうだ。すでに半世紀以上が経過している。マペッツが登場したTV番組や映画の数はそれこそ数知れずで、国民的キャラクターであったことが知れる。もちろんアメリカ人なら誰でも知っている。人形・着ぐるみキャラクターとしては、公共放送のPBSの「セサミ・ストリート (Sesame Street)」のキャラクターと、知名度では双璧と言える。「マペッツ」は、その、誰でも知っている、という点を逆手にとった話だ。


「セサミ・ストリート」は今でも連綿と放送されている。教育番組だから、人気云々を取り沙汰されることはあまりない。一方、「マペッツ」は、対象視聴者として大人も視野に入れた娯楽番組だ。民放での放送であり、権利元はディズニーだ。


民放である以上、人気がなくなって視聴率がとれなくなるとキャンセルされる。それは唯一無二の「マペッツ」とて例外ではない。もちろんダイ・ハードのコアのファンがいるから、その度に模様替えして復活してきてはキャンセルされ、また新しい体裁で再登場する、ということをこれまでずっと繰り返している。


その「マペッツ」も、さすがに最近では人気が廃れ、かつての人気キャラクターたちも一人去り、二人去りして散り散りになっていった。しかし、ここに一人、かつての「マペッツ」の栄光に憧れ、英雄視する一人のマペットがいた、というのが、今回の「マペッツ」の舞台設定だ。


元々「セサミ・ストリート」や「マペッツ」においては、マペットや着ぐるみキャラクターのは、普通の人間と差異なく存在している。むろん見かけは異なるが、同じようにしゃべり、同じように生活しているという暗黙の了解事項があり、誰もそのことに今さら疑義は挟まない。マペットの存在は初めから肯定されている。


とはいえ、だからといってそのマペットと人間が血が繋がった親兄弟同士という設定は、これまでなかった。いくらなんでもそうしてしまうと、どうしてもそこに多少の違和感が生まれるのは否めない。無意識のうちに肯定できる地平から逸脱してしまうのだ。だいたいあんたら、そばに操る人間がいなくて、自力で立つことができるのか。そういう疑問を無視して堂々と当然のこととして設定してしまう大胆さに驚かされる。


考えると、マジに考えるとこんなのあり得ないという決まり事は、映画にはいくらもある。一番代表的なのが、ミュージカルというジャンルだろう。普通に生活していて、人がいきなり歌って踊り出したら、気が狂ったとしか思われない。しかしその設定を、一部の人間を除いて概ね人は受け入れている。


「マペッツ」はそのミュージカルであり、さらに人間ではないマペットがさも当たり前のように人間として行動しているという、二重の人工的な構造になっている。それでも特にこの構造についての不満や疑問が聞こえてくるわけでもないところを見ると、人というのは実はかなり順応性が高いようだ。それとも何にも考えずにただ話を追っているだけとか。


いずれにしてもこういう無理目の構造のため、人間世界に住むマペットの主人公ウォルターには、普通のマペットとしてなら問題とならない、成長しないということが重く難題として肩の上にのしかかる。マペットでいた方が何倍もましだったのに。だいたい昔から、人魚姫にしても妖怪人間ベムにしても、人間じゃないものが人間に憧れたり人間化していいことがあったためしがない。マペットと人間が兄弟というのは、それだけで実は悲劇の序章を予言している。ピノキオがハッピー・エンドで終われたのは、人間になった時点で物語を終えたからで、それ以上話が続いたら悲劇になったのは間違いない。


一方、マペットとしてだけいることも、それはそれで楽じゃない。成長しないということはいつまでも同じ外見を維持し続けるということで、人気者である時はともかく、落ちぶれたら目も当てられない。ただただ場末に流されていくままだったりする。そして現在のマペット・シアターがそうだった。既にわざわざマペッツを見に来る奇特な者なぞいなくなって久しく、今でもシアターを訪れるのは、田舎者の観光客と相場が決まっている。ウォルターこそその一人であり、そして訪れたマペット・シアターで、よからぬ謀略が企てられていることを知る。


マペットではない人間としての登場での主人公ゲアリに扮するのはジェイソン・シーゲル。CBSの「ママと恋に落ちるまで (How I Met Your Mother)」で、プレイボーイのバーニー役のニール・パトリック・ハリスと対置される、どちらかというとボケ役に近いマーシャル役で人気が出た。実際の話、歌って踊れるハリスと比較すると、こちらは人柄で勝負、みたいな感じがする。「マペッツ」でのキャラクターもほとんどその延長線上にある。


そのガールフレンド、メアリに扮するのがエイミー・アダムズ。特に出番があるわけではなく、ちょっともったいない使われ方。悪役のリッチマンに扮するのはクリス・クーパー。演出は「ダ・アリ・G・ショウ (Da Ali G Show)」、「ザ・フライト・オブ・ザ・コンコーズ (The Flight of the Conchords)」と、HBOと関係が深いジェイムズ・ボビン。









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