The Mothman Prophecies

プロフェシー  (2002年2月)

同時多発テロのおかげで公開延期となっていたシュワルツネッガー主演の「コラテラル・ダメージ」、 同名タイトルのリメイク「ローラーボール」、ガイ・ピアースとジム・カヴィーゼル主演の「モンテ・クリスト伯」、ニコール・キッドマン主演の「バースデイ・ガール」と、結構アクション系のそれなりに面白そうな作品が続けて公開されているのだが、しかし何がなんでも見たいかというと、それほどでもない。ここんとこ見応えのある作品を続け様に見ていたから、ちょっと小品系が見たかったというのもあるかも知れない。


それで結局どれを見に行こうかなと考えながら家でもたもたしていたら、どれもこれも時間があわなくなってしまい、最初まったく予定していなかったリチャード・ギア主演のホラー、「モスマン・プロフェシース」を見るしかなくなってしまった。予告編を見る限りではなかなか面白そうに見えたし、共演がローラ・リニーにデブラ・メッシングとわりと曲者を揃えているし、もしかしたら結構いけるかも知れない。


ワシントン・ポストの記者ジョン・クライン (ギア) と妻のメアリ (メッシング) は車で自宅に帰る途中、運転していたメアリが何か得体の知れないものを目撃して運転を誤って事故を起こしてしまい、頭を強打したメアリは病院でそのまま帰らぬ人となる。2年後、仕事でヴァージニア州まで車で出かけたジョンは、夜中に車がエンストしてしまい、近くの民家に助けを求めるが、その家の主ゴードン (ウィル・パットン) はジョンが来るのはこれで3夜立て続けだという。しかも近くのモーテルにチェック・インしたジョンは、自分がなぜだかまったく予定もしていなかった町に来ていることを知る。町のシェリフ、コニー (リニー) は最近町ではおかしなことが立て続けに起きていると言い、巨大で、蛾の形をした謎の生命体のようなもの「モスマン」が至る所で目撃されいることをジョンに告げる。そのモスマンこそ、死ぬ間際のメアリが事故の際目撃し、ノートに何度も描いていたものに違いなかった。果たしてメアリの死と、今回の事件は何か関係あるのか。ジョンは調査を始める‥‥


「モスマン・プロフェシース」は、ウエスト・ヴァージニア州のポイント・プレザントで実際に起こったという説明のつかない一連の事件を映像化した作品である。結局事件そのものは今でも解決を見ていない。監督は「隣人は静かに笑う」のマーク・ペリントン。この作品、私は見逃したが、ハリウッド作品としてはハッピー・エンドに終わらないご都合主義ではない内容ということで、公開時、ちょっとした話題になった。ペリントンは役者としてもキャメロン・クロウ作品に出ている。


この種の作品の特徴として、総じて謎が謎を呼ぶ前半部の方が面白く、出来事に筋道が立てられる後半になると、段々興味を維持するのが難しくなっていく。「怖い」というのは理由がつけられない物事に対する本能的な反応だから、謎解きをしてしまうと怖くなくなっていくのはしょうがない。だいたい、ホラーのクラシックと目されているのは、ほとんどが理由もないまま人が殺されていったり、連続して起こる事件に説明がつけられない、というタイプの作品だったりする。その点では、最後まではっきりとした理由づけをせずに終わってしまう「モスマン」の構成は、別に悪くない。クライマックスの特撮は、ホラーというよりもよくできたアクションで、それもそれで悪くなかった。やっぱり、あと、もう少し、不気味さや怖さを出してくれさえすれば申し分なかったんだが。


しかしリチャード・ギアって主演作が途切れないよなあ。演技力とかいうよりも、とにかくいまだにセクシーな男優として女性には圧倒的な人気があるらしい。セクシーな男優って‥‥「アメリカン・ジゴロ」は既に20年以上も前の映画なんだが、依然としてギアという名前につく形容詞は、「セクシーな俳優」である。もう50歳を超えてんだけどね。最近の作品を見ても、「プリティ・ブライド」、「Dr. Tと女たち」、「オータム・イン・ニューヨーク」と、ハリウッドを代表する女優から惚れられる役ばかりである。まあ、確かに色男だとは思うし、わからんではない。最近そういう役が続いたから、ラヴ・ロマンスとは毛色の違う「モスマン」に挑戦したんだろうという気がする。ラヴ・ロマンスだろうがホラーだろうが、どんな種類の映画に出ても、あの、十八番とも言える微かに微笑む二枚目顔が必ず出てくるが、やはり女性はあの顔にやられるんだろう。


ギアの妻メアリを演じるデブラ・メッシングの出番が少なかったのは意外だった。予告編ではギアと共演という感じだったのだが、あれでは脇役でしかない。TVのシットコム「ウィル&グレイス」が忙し過ぎて、あまり時間が割けなかったか? 私は彼女は結構シリアスな役でもいけると思っているので、もうちょっと見てみたかった。彼女の出番がなくなった後に今度はローラ・リニーが出てくるのだが、それもリニーの実力からすれば、あまりぱっとしないなという印象の方が強かった。何がよくなかったかって、警官役のリニーの被るあの帽子がまったく似合っていない。「ファーゴ」のフランシス・マクドーマンドが被っていたような、あの帽子だ。


欧米の俳優で感心することの一つに、警官なら警官というような制服を着る役を演じる俳優が、その制服姿に実にしっくりと収まるということがある。警官の役をするとちゃんと警官に見えるのだ。実はそれは俳優に限らず、ごく普通の一般市民でもうまくそういう制服やスーツを着こなすのはまったく感心するばかりなのだが、あれはやはり体型のせいなのだろうか。まあ、その種の制服は元々欧米人の体型に合っているものを日本にそのまま輸入しただけだから、そういうのをとって日本の役者と比較したりするのはまったく筋違いなのかも知れない。


しかし、それなのに、今回はリニーの制服姿がまるで様になってなく、一目で彼女は根っからの警官ではないことがわかる。芸達者のリニーなのだが、警官役はできないというのがわかって、ちょっとこちらも意外だった。彼女の持ち味が生きてくるのは、後半、ギアと親しくなって、スクリーン上に私服で現れる回数が多くなってきてからであるが、それでも、彼女はやはりこういうハリウッド・アクションにはあまり向いてないと思う。演技力を要求されるような地味なドラマなんかだったりすると、実に映えるんだが。そういえば彼女は「真実の行方」でもギアと共演していたなあ。


あと気になったのが、謎の男?モスマンはギアを含め町の人間たちに電話をかけてきて何やらメッセージを伝えるのだが、なんでわざわざ人々に電話をかけてくるのかはよくわからない。この世のものとも思えない何者かが電話番号を押しているシーンを想像すると、なんか笑えてしまう。本当に、なんで電話なの? また、ギアが泊まっているモーテルの留守電にも何度も電話をかけてきてよくわけのわからないメッセージを残していたりするのだが、ギアは携帯も携行しているのだ。留守電にメッセージを残すより、携帯に直接かけた方がよくないか? それともなぜだか携帯の方の番号はわからなかったか? 製作者もその不可思議さには気づいていたが、それが事実だからそうするしかなかったのか。このあたりはやはり釈然としなかった。しかし「モスマン」って、そのまま日本語訳すると「蛾男」になって、ハリウッド・ホラーというより、「ウルトラQ」の世界って感じだよなあ。日本で公開する時の邦題はどうなるんだろう。「蛾男」も捨て難い気がするが。



追記 (2002年10月):

どういうタイトルになるか気になっていた「モスマン」、結局「プロフェシー」という当たり障りのない邦題で落ち着いたようだ。「蛾男予知事件簿」にはやはりならなかったか。ちと残念。







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