「ザ・ミニチュアリスト」、邦題「ミニチュア作家」は、ジェシー・バートンの同名のベストセラーの映像化で、正確にはアメリカの番組ではない。実はこれは公共放送のPBSの「マスターピース・シアター (Masterpiece Theatre)」枠で放送されたもので、つまり英BBC番組だ。本国では既に昨年末に放送済みで、アメリカでは半年以上も遅れての放送になる。
とはいえちらと見た予告編でのアーニャ・テイラー-ジョイは、それだけではまっていて、見たいと思わせるのに充分だった。これまで「ザ・ウィッチ (The Witch)」、「モーガン (Morgan)」、「スプリット (Split)」と、ホラー、SFでしか見たことのないテイラー-ジョイが、今度は私の好きなミステリのジャンルで主演する。しかもやはり「ウィッチ」の時と同じく、17世紀とか18世紀とかいう時代の衣装が無茶苦茶似合う。
というわけで、いつもならアメリカ産番組じゃないということでパスしている「マスターピース・シアター」番組を、今回は、ま、いいか、たまには例外もある、と書くことにする。目の前に録画されているテイラー-ジョイをパスするなんて、到底できないのだった。
それにしてもミニチュア造型だ。最近ミニチュア造型というと、思い出すのはもちろん「へレディタリー (Hereditary)」で、主人公を演じたトニ・コレットの職業がミニチュア造型作家だった。「へレディタリー」では、ミニチュアだと思っていたものが実は実際の家の中だったりして効果を上げていたが、「ミニチュアリスト」でも、精巧なドールハウスが、やはりミステリアスな効果を増強している。
「へレディタリー」でも、あの精巧なミニチュアは、作るの大変だろうなあと思わせたが、今回も例外ではない。というか、「ミニチュアリスト」では、タイトルからしてミニチュア作家が前面に出ている通り、ミニチュア造型が重要なプロットを担っている。実際に弦を張って音楽を奏でられそうなリュートや、抽き出しを開けると出てくる鍵なんて、よくもまあこんなちまいものが作れるよなという精巧さだ。細かいものの製作は手先の器用な日本人の専売特許的な印象があるが、なかなかどうしてやはりドールハウスを生み出した欧米の職人もすごいと思わせる。
このドールハウスは、テイラー-ジョイ演じる主人公のネラが、夫のヨハネスからプレゼントされたものだった。商人のヨハネスは忙しくてネラをかまっている時間がなく、無聊をかこつネラが退屈しないようにと特注したものだ。ネラはこれに色々と手を入れようとミニチュア作家に新しいパーツを注文するが、でき上がって届けられたパーツはまるでネラの家を細部まで知り尽くしているだけでなく、外部の者がは知らないはずのものまで忠実に再現していた。さらにネラが注文していないパーツまでもがネラの元に届けられるようになる。果たしてミニチュア作家は何者なのか、いったい何が目的でこういうことをするのか。
というのが最も大きい謎なのだが、それ以外にも、謎めいた当主のヨハネス、厳格なヨハネスの姉マーリン、僕のくせに何考えているかわからないコーネリアとオットー等、不気味な面々がネラを取り囲む。いったいこの家に隠されている秘密は何なのか。それにしても「ファントム・スレッド (Phantom Thread)」もそうだったが、こういう旧家の当主にしっかり者の姉がいるというのは、どうやらお決まりのようだ。
番組の進行はゆっくりで、ミニシリーズという長さを充分活用している。というか、ミステリの体裁をとっているが、やはりこの番組はテイラー-ジョイの魅力を堪能するものという印象が強い。この時代のオランダというと、フェルメールに代表される淡い陰影を連想するが、その光の加減が肌理の細かいテイラー-ジョイの魅力を際立たせている。話自体も面白いが、やはりテイラー-ジョイ自身に目を奪われる。撮影監督は非常に楽しんで彼女を撮っただろうなと思うのだった。