The Magnificent Seven


マグニフィセント・セブン  (2016年10月)

西部劇を最後に見たのは、と考えて、はたと躓いてしまった。いつだったっけ、本当に。自分が書いてたのをチェックしてみると、コーエン兄弟の「トゥルー・グリット (True Grit)」が既に6年前だ。それより最近だと3年前にクエンティン・タランティーノの「ジャンゴ 繋がれざる者 (Django Unchained)」とゴア・ヴァービンスキの「ローン・レンジャー (The Lone Ranger)」があるが、なんかちょっと、両者とも正統派西部劇とは言いかねる気がする。「レヴェナント: 蘇えりし者 (The Revenant)」だと、明らかに西部劇とは言わないだろう。


むろん西部劇というジャンルは、衰退してはいるが今でも連綿と製作されており、たまさか忘れた頃にぽっと顔を出す。私が見てないだけというのもある。日本の時代劇ほど西部劇がアメリカ人のDNAに根付いているというわけでもなさそうだが、それでも完全になくなるということはない。


今回の「マグニフィセント・セブン」は、クラシックもクラシック、黒澤明の「七人の侍」をリメイクした「荒野の七人 (The Magnificent Seven)」の、そのまたリメイクになる。そういや「トゥルー・グリット」も「ローン・レンジャー」もリメイクだった。ジャンルとしては西部劇は、いわゆるレパートリー・ドラマの範疇に入っていると言ってもいいかもしれない。要するに古典だ。時代が変われば衣装を纏い直してまた我々の前に現れる。


今回のリメイクで前回と最も異なるのは、やはり7人のガンマンの人種の多様化と言っていいかと思う。「荒野の七人」でも、キャストに幅を持たすためにラテン系がいたりしたが、今回はラテン系がいるのは当然、主人公は黒人で、ガンマンの中にはアジア系もいればネイティヴ・アメリカンもいる。


これまで西部劇というと、多くの場合、敵はインディアン、つまりネイティヴ・アメリカンだったわけだから、最初から堂々とネイティヴが主人公側にいるというのは、かつては考えられなかったことだ。もし10年後か20年後だかに再々度リメイクが製作されるなら、今度は女性のガンマンがいるのは確実、もしかしたらゲイかトランスのガンマンもいるかもしれない。今回のヘイリー・ベネットの描かれ方を見るに、女性が銃を持って男性と対等に立ち合うのは時間の問題だ。ついでに言うと演出のアントワン・フクワも黒人だ。


話は逸れるがポーリーン・ケイルが「真昼の決闘 (High Noon)」で、主人公のゲイリー・クーパーがヒロインのグレイス・ケリーに助けられることを嘆かわしいと断罪していたが、今回の「マグニフィセント・セブン」でも似たようなことが起きる。もし男のガンマンが女性ガンマンに助けられることが嘆かわしいのが西部劇というジャンルだとしたら、今後女性を取り込んでいかなければならないはずの西部劇は、いったいどこへ向かうのだろうか。


さて、「マグニフィセント・セブン」オリジナルの「七人の侍」も、「荒野の七人」も楽しめる娯楽作だが、両者とも完璧というわけではない。「七人の侍」の欠点は、娯楽作としては長過ぎることにあるかと思う。むろん娯楽作が長くて悪いこともないが、しかし多くの者が肩の凝らないチャンバラ娯楽作を期待して見に来ている場合、前後編3時間半というのは、やはり長過ぎると感じるだろう。しかもそれまでの「椿三十郎」や「用心棒」等の黒澤時代劇に慣れた者なら、なおさら長く感じるのは確実だ。


ただし、長くしたことで、話としては前半部で最も面白い人集めの部分を丁寧に描き込むことはできた。私見ではこの部分こそが肝なので、長いのは欠点と言う気は実はあまりならない。しかしニューヨークの確かシンフォニー・ホールで「七人の侍」がかかった時、チケット売り場の横に立っていた私のそばで、売り子に上映時間を訊いて、3時間半、と言って絶句していた白人のおばさんがいたことも事実なのだ。3時間半は、ちょっと時間が空いたからといって気軽に見れる長さではない。


一方「荒野の七人」の方も、こちらは「七人の侍」ほど長くもないが、実は覚えているのは話の内容よりも、あの印象的なエルマー・バーンスタインのテーマ音楽ばかりだ。絵としてはハゲ頭のガンマンのユル・ブリンナーを筆頭に、スティーヴ・マックイーンやチャールズ・ブロンソン、ジェイムズ・コバーン等、一瞬の場面場面は覚えていても、細部の方はさっぱりだ。話を思い出そうとすると、頭の中で大音量であのテーマ音楽が鳴り出して、記憶を引っ張り出そうとするのを邪魔してしょうがない。とはいえこの音楽だけでも、歴史に名を残したとは言える。


そして今回の「マグニフィセント・セブン」は、片仮名タイトルが示している通り、はいからになって、人種問題にも目配せして、現代という時代に即したものとなった。今回ガンマンたちをまとめるのはデンゼル・ワシントンで、彼の下で働く者たちに、クリス・プラット、イーサン・ホウク、ヴィンセント・ドノフリオ、イ・ビョンホン、マヌエル・ガルシア-ルフォ、マーティン・センスマイヤーの面々が扮している。


思わずにやりとするのが、かつて「トレーニング・デイ (Training Day)」で悪徳刑事の主人公ワシントンと組まされたホウクが、再度ワシントンの配下になること。ま、今回は大義が立っているから道義的なジレンマに陥るわけではないが、それでも今度は銃が撃てなくてやはり逃げ出そうとする。「ジュラシック・ワールド (Jurassic World)」で主人公プラットに隠れて策を練り、金儲けを企んだドノフリオは、今度はちゃんとプラットと共闘だ。ピーター・サースガードの悪役振りも楽しい。「ザ・ナイス・ガイズ (The Nice Guys)」で切れた殺し屋だったマット・ボマーが、ここでは真っ当な人間として割りを食う。などなど、なんやかやと肩も凝らずに楽しめる上映時間は2時間10分、西部劇としては王道と言えるかもしれない。


あの印象的なテーマは今回も使われるのだろうかと思っていたら、「荒野の七人」ほど前面に出てくるわけではないが、それらしくアレンジされてちゃんと使われていた。あれまた聴きたいと思う者は多いだろうが、かといってあまりにもストレートに使うと芸がないと思われるだろうし、その辺のさじ加減が音楽のジェイムズ・ホーナーの腕の見せ所だろう‥‥と書いてて、えっ、と思う。ホーナーって、確か今年のアカデミー賞授賞式の時、昨年物故した映画人として追悼されてなかったっけ?


調べてみると、やはりホーナーは既に故人となっている。残りはもう一人音楽としてクレジットされているサイモン・フラングレンが仕上げたんだろう。合掌。作品も、音楽も、こうやって次の世代に繋がって行くんだな。



追記: (2016年11月)

上で最初に西部劇を最近見ていない云々のことを書いていて、再度自分のサイトを見直して、2年前にトミー・リー・ジョーンズの「ザ・ホームズマン (The Homesman)」を見ていたことを思い出した。これなら西部劇だ。何も常に銃をどんぱちばかりしていれば西部劇というわけでもない。











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1879年西部。悪徳事業家のボーグ (ピーター・サースガード) は鉱山の麓の小さな町を自分のものにしようと、ならず者を集めて町に押し入り、立ち退きを要求する。夫を殺されたエマ (ヘイリー・ベネット) は、助けを求めて近くの町に行き、そこで連邦直属のサム・チゾルム (デンゼル・ワシントン) に遭遇する。かねてからボーグを追っていたチゾルムは、ギャンブラーのジョシュ・ファラデイ (クリス・プラット)、かつて射撃の名人として鳴らしたグッドナイト・ロビショー (イーサン・ホウク)、ナイフの達人 ビリー・ロックス (イ・ビョンホン)、野性的ハンターのジャック・ホーン (ヴィンセント・ドノフリオ)、コマンチのウォリアー、レッド・ハーヴェスト (マーティン・センスマイヤー)、そしてメキシカンのガンマン、ヴァスケス (マヌエル・ガルシア-ルフォ) の6人のガンマンたちをリクルートし、町を守るために立ち上がる‥‥


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