The Magdalene Sisters


マグダレンの祈り  (2003年9月)

1960年代、ダブリン。マグダレン修道院に3人の女性が入院する。従弟にレイプされたマーガレット (アン-マリー・ダフ)、男の子たちとお喋りしすぎの嫌いのある孤児院に住むバーナデット (ノーラ-ジェーン・ヌーン)、そして父なし子を産んだローズ (ドロシー・ダフィ) は、それぞれ世間体を重んじる家族から、あるいは風紀を重んじる孤児院から、体よく追い払われたのであった。そのような女性たちを矯正するための施設であるマグダレン修道院で、彼女たちは自由を奪われ、あたかも囚人のように朝から晩まで労働を強制されるのだった‥‥


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アイルランドの修道院を舞台とするドラマということで、実は私はそれこそ作品内で上映されるイングリッド・バーグマン主演の「聖メリーの鐘」のような映画かとばかり思って見に行ったら、非常に重い内容の人間ドラマだった。このような映画がロング・ランになっているのでびっくりした次第。


重い内容なのであるが、語弊があるのを承知で言うと、この映画は非常にエンタテイニングである。いわれなき罪でほとんど牢獄のような修道院に閉じ込められた3人が、辛い仕打ちに耐えながら毎日を生きている。鬱々とした日々を送りながらも時に脱出のチャンスを窺い、この世界から逃れる術を模索する3人。果たして彼女らがこの牢獄から無事出られる日は来るのだろうか。


つまりこの映画、囚人である彼女らと、彼女らを監視する刑吏たちとのつば迫り合い、騙しあいという観点から見ると、主人公が無事脱獄? できるかどうかを描くスリル&サスペンス・ドラマとして見れなくもない。ドン・シーゲル/クリント・イーストウッドの「アルカトラズからの脱出」を見ているかのような息詰まる葛藤が描かれるのだ。思わず手に汗握る。他にもマーガレットが、鍵を閉め忘れた裏庭のドアが開いているのを見つけ、一瞬するすると外の世界に足を踏み出すところなんて、アラン・パーカーの「ミッドナイト・エクスプレス」のラスト・シーンを思い出してしまった。あるいは、修道院と精神病院という違いこそあれ、厳重に監視された施設とその内部にいる者たちを描くという点では、「カッコーの巣の上で」とも似てなくもない。


主人公は冒頭で修道院に入れられる3人の女性なのであるが、他に重要な役として、既に収監? されているクリスピーナ (アイリーン・ウォルシュ) と、ブリジット院長を筆頭とするシスターたちの存在が作品を面白くしているのも見逃せない。主人公を盛り立てる癖のある脇と、鬼のような敵役はこういう作品には欠かせないと、既にほとんど脱獄ものとしてこの映画を見ているのであった。


やはり 「マグダレンの祈り」がロング・ランになっているのは、人間ドラマというよりも、エンタテインメントとして見てもよくできた作品になっているからという気がする。実話を基にしているそうで、それをエンタテインメントと言ってしまうと関係者から石を投げられそうだが、しかし「アルカトラズからの脱出」も「ミッドナイト・エクスプレス」も、共にやはり実話を脚色した物語だった。本人たちにとっては生き死にの問題であるのにもかかわらず、あるいはそういう内容であるからこそ、でき上がった作品は手に汗握るサスペンス・ドラマになるわけで、こういう極限状態に追い込まれた人間を描く作品は、観客が多様な見方をすることを受容する。


修道院に収容された3人も、真面目なマーガレット、すれたバーナデット、純なローズといった風にキャラクターがきちんと分けられているため、観客が誰に肩入れして見るかで、また違った角度から楽しめる。特に逃げるチャンスがあってもその後のことを考えて一歩足を踏み出すことができずにいるマーガレットと、後先考えずに脱獄を敢行し、捕まえられてお仕置きを食らっても懲りずにまた次の機会を窺うバーナデットは、紛失したクリスピーナの首飾りをめぐっていさかいを起こすなど、対極のキャラクターだ。辛抱強いマーガレットと我が強いバーナデットでは、最終的にどちらかが修道院から出られるのだろうか。あるいは、押しの強くないローズが、もしかしたら漁夫の利を得る可能性も、なんて考えながら見てたりする。それともまったく裏をかいて、3人とも獄中死とか?


ところで、マーガレットの家では、マーガレットを中心に、既に10代も後半と思われるほとんど青年となった弟とマーガレットが、同じベッドで寝ている。従弟にレイプされるという状況も尋常じゃないが、いい歳こいた姉弟が同じベッドで寝起きするという状態は、さらに考えられない。そこまで貧乏なようには見えなかったが、しかし考えると、歳は違うとはいえ、同じアイルランドを舞台とした「アンジェラの灰」でも、確か兄弟姉妹が一つベッドに寝ていた。しかも狭いベッドを有効に使うために、交互に頭と足の位置を違えて逆様に寝ているのだ。当時、毎日シャワーを浴びているとも思えないのに、目の前に誰かの足が来るのか、くっさーっと思ってしまった。血を分けた兄弟でも嫌だな、そんなの。しかしやはりそういう環境だから近親相姦というのも起こりやすいようで、作品の冒頭で歌われていた歌は、近親相姦のことを歌った歌なのだそうだ。やっぱり貧乏って嫌だ。


「マグダレンの祈り」という邦題は、場所と題材は違えども、どこにも出口がないと感じる女性を主人公としたピーター・ジャクソンの「乙女の祈り」を下敷きにしているんじゃないかと思わせる。牽強付会かもしれないが、ローズは角度によってはかなりケイト・ウィンスレットに似ていると思うし、バーナデットは体つきや性格がメラニー・リンスキーを彷彿とさせる。配給のアミューズの誰かが、きっと「乙女の祈り」を見ていたに違いないと一人で納得していたのであった。







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