The Losers


ザ・ルーザーズ  (2010年4月)

クレイ (ジェフリー・ディーン・モーガン) をリーダーとする米特殊工作チームの一団がボリヴィアで任務を遂行後、乗って帰るはずのヘリコプタに代わりに救出した子供たちを乗せたところ、ヘリが狙われ爆発炎上する。何者かがチームの殲滅を画策していたのだ。九死に一生を得た面々だが、さりとて彼らを狙っているマックスという人物の素性がわからない以上、死んだということにしておく方が都合がいい。そこへ現れた謎の美女アイーシャは米軍中枢部とコネクションがあり、彼らを棺桶の中に入れて米本土に送り返す。報復に燃えるチームの面々は徐々にマックスに対する包囲網を狭めていく‥‥


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「ザ・ルーザーズ」は、残念ながら興行的には惨敗とは言えないまでも、成功したとは到底言えない成績しか残せず、既に劇場から姿を消している。なんて個人的には普段はあまり気にしない興行成績から書き始めるのも、この作品、それなりに楽しませてくれるわりにはちょっと可哀想な気がするくらい受けてないからだ。批評家からも誉められていないし、観客からもほとんどそっぽを向かれている。


むろんそういう作品は毎年何本もあるが、自分が見てそれなりに楽しんだ作品がこけると、ちょっと擁護してみたくもなる。地元アメリカではこけたが、この文章が日本では少し健闘する一助にはなってくれるかもしれない。


何はともあれ「ルーザーズ」がこけた最大の理由は、これが来月公開予定の「特攻野郎Aチーム (The A-Team)」とかなりの部分印象が被るせいにあるのは間違いないんじゃないだろうか。実は正直言うとつい最近まで、私も「ルーザーズ」と「Aチーム」ををかなり混同していたのは事実だ。どちらも軍や秘密組織のはみ出し者から構成されるチームの活躍を描く、気のおけないユーモアを絡めたアクション作品だ。予告編を見るまでは、いや、両方の予告編を見たからこそなおいっそうこんぐらがった。 こちらはオリジナルのTVの「特攻野郎Aチーム」をよく知らないのだ。


しかしアメリカ人にとっては、クラシックTVと言っていい「Aチーム」が来月公開されると知っていたら、大半は似たような印象の「ルーザーズ」はパスして、「Aチーム」を見ようとすると思う。こんな一見して印象の似ている作品を同時期に公開しなくてもいいのに。関係ないが「Aチーム」の方には、こないだ「タイタンの戦い (Clash of the Titans)」で見たばかりのリーアム・ニーソンが出ている。「タイタン」の大成功や昨年の「96時間 (Taken)」のスリーパー・ヒットを見ると、ニーソンが出ている方が成功する確率は高そうだ。


一方、両作品では全体の印象は似ているとはいえ、出演者はそれぞれなかなか知名度のある俳優を起用しているので見紛いようがない。ではあるが、その俳優と映画が一致していないのでこんぐらがってしまう。「Aチーム」の主演は、たぶんブラッドリー・クーパーだろう。「ルーザーズ」はジェフリー・ディーン・モーガンだ。二人ともTVにも映画にも出ているが、クーパーがお茶の間の名前として定着したのは、ABCの「エイリアス (Alias)」,そして昨年の「ザ・ハングオーヴァー (The Hangover)」の大成功を抜きにしては考えられない。


モーガンも名が知られるようになったのは、CW (当時WB) の「スーパーナチュラル (Supernatural)」、および ABCの「グレイズ・アナトミー (Grey’s Anaotmy)」でのゲスト出演、そして昨年の「ウォッチメン (Watchmen)」と、人気TVから映画と活躍の場をシフトしてきたという,主演俳優の経緯も似ている。予告編を見ただけでも、「Aチーム」にはジェシカ・ビールという紅一点がいるし、「ルーザーズ」にもゾーイ・サルダナという紅一点がいる。かなり印象は似ているのだ。むろん「Aチーム」の方はまだ見ていないが、それでも見た後でも印象は似ていると感じるに違いないことは賭けてもいい。


「ルーザーズ」では、リーダーのモーガン演じるクレイを筆頭に、チームを固めるのは、ローグ (アイドリス・エルバ),ジャンセン (クリス・エヴァンス)、プーチ (コロンバス・ショート),クーガー (オスカー・ハエナダ) の計5人だ。これに謎の美女アイーシャ (サルダナ) が絡んでくるという展開だ。彼らを亡き者にしようと画策する敵方のマックスには、ジェイソン・パトリックが扮している。


クレイ率いるチームは,ボリヴィアで無事任務を遂行して帰途につこうとして、自分たちの代わりに助けた子供たちをヘリに乗せてあげる。しかしマックスの差し金によってそのヘリは爆破され、子供たちも全員死ぬ。九死に一生を得たルーザーズの面々だが,死んだものと思われた手前、のこのこと人前に姿を現せない。また、彼らは死んだものと敵に思わせといた方が、今後なにかと都合がいい。


そこへ現れたのが、謎の美女アイーシャだった。アイーシャはコネをつけてルーザーズをアメリカ本国に入国させると共に、敵マックスの情報を与える。しかしアイーシャにはまだ隠していることがあった。さらにルーザーズ内部でも、私的な仕返しにこだわるクレイに完全に承服できない雰囲気が、ローグを中心に燻りつつあった‥‥


「ルーザーズ」でこの種の作品としては最も他の作品と異なっている点としては、主人公クレイは白人だが、チームのメンツ、および謎の美女アイーシャと、主要登場人物6人中半分の3人が黒人であることが挙げられる。これは明らかに一般的なハリウッド映画の割り合いから言えば多い。さらにスナイパーのクーガーはスパニッシュだ。クレイを別にすると、たった一人の白人のジャンセンはコメディ・リリーフを受け持たせられている。演じるのはクリス・エヴァンスで、主要メンツが黒人の「ルーザーズ」で白人のコメディ・リリーフということで、かなり目立つ儲け役と言える。


これはほぼ監督は黒人だなと思って調べてみたら、半分当たりだが、半分はそうじゃなかった。監督のシルヴァイン・ホワイトは父が黒人のフランス人で、生まれも育ちもパリだ。ばりばりのアメリカ映画だと思っていた「ルーザーズ」だが、実はこれ、「96時間」、「タイタンの戦い」と,最近とみに注目されているフランス出身の監督によるハリウッド・アクション映画だったのだ。そうだったのか。


それを考えると、「96時間」、「タイタンの戦い」に続いて「ルーザース」も筋としてはヒットしてもおかしくなかったんだが、そうは問屋が卸さなかった。もしかしたらその理由は、主演に「96時間」にも「タイタンの戦い」にも出ているニーソンを起用できなかったからかもしれない。しかしニーソンは、ライヴァルの「Aチーム」の方に出てんだよねえ。とはいえいずれにしてもフランス人によるハリウッド・アクションは、なにやら一つのジャンルとして定着しそうな様相を呈してきた。








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