燃え尽きた元NFLスターのクルー (アダム・サンドラー) は、酔っぱらってガール・フレンドのレナ (コートニー・コックス) のベントリーを乗り回した挙げ句事故を起こし、有罪判決を受けて刑務所入りする。テキサスのその刑務所のヘイゼン所長 (ジェイムズ・クロムウェル) は無類のアメリカン・フットボール好きで、待ってましたとばかりクルーをスカウトして所内チームの監督を乞う。クルーはそれを蹴り、最終的に全米に中継される中、クルーの率いる囚人チームと看守チームが戦うことになるが、もちろん囚人チームのメンツは一癖も二癖もある奴らばかりだった‥‥


__________________________________________________________________


1974年のロバート・アルドリッチの傑作スポーツ・ドラマ「ロンゲスト・ヤード」を、なんとアダム・サンドラー製作/主演でリメイク。ジェイムズ・ハンプトンが演じたケアテイカーを今回演じるのはクリス・ロックで、要するに、今回のリメイクはスポーツ・ドラマではなくてスポーツ・コメディ・ドラマだ。オリジナルで主演のバート・レイノルズまで担ぎ出して、滅茶苦茶やってるんだろうなあと、なんとなく見る前から既に見たような気にさせる。


とはいえ、これがどんなリメイクになったか気になることは確かだ。映画史上最大のスポーツ・ドラマの傑作は、私の意見では「ロッキー」でも「レイジング・ブル」でも「フィールド・オブ・ドリームス」でもなく、女子プロレス界を描いた「カリフォルニア・ドールス」なのだが、遺作でその傑作を撮り上げたアルドリッチが、それを遡る7年前に監督した「ロンゲスト・ヤード」は、「カリフォルニア・ドールス」にかなり近いところに位置する、これまたスポーツ・ドラマの秀作である。ちょっとセンチメンタルな「ドールス」より、男の世界に徹したこちらの方ができがいいと思っているスポーツ映画ファンは多かろう。そのリメイクがどんなものになったかは、映画ファンならずとも気になるところだ。


今回のリメイクでは、基本的な構成はオリジナルからほとんどいじられていない。多少の相違はあるが、基本的に両者はまったく同じストーリー・ラインに則って動いており、主要なキャラクターもまったく同一である。名前を変えることすらしていないということは、性格づけにも異同はないことを示しているのだろう。違う点といえば、ムショ仲間/チームメイツに多少の変動があるところくらいだ。特にゲイのムショ仲間が何人も登場するのが今回のリメイクにおいて視覚的に最も異なる点と言えるが、これは時代というものを考え、さらにコメディの味付けを施したい場合、ほぼ当然の変更と言えるだろう。


とはいえ、基本的な骨格にほとんど変動がないのにもかかわらず、これだけ徹底して両者の手触りが異なるのは面白い。オリジナルの「ロンゲスト・ヤード」はどこから見ても男の世界を描くスポーツ映画であった。時として挟まる笑いは、笑わせることを意識しているというよりは、武骨なオトコオトコした世界を描いているために生じる自然発生的なものだった。なんてったって舞台は刑務所なんだし、女の出る幕なんかない。いざ舞台が刑務所の中に移動してからは、オリジナルでは唯一、所長の秘書であるトゥート (バーナデット・ピーターズ!!!) がセリフのある役をあてがわれているのみだが、それもコミック・リリーフ的な役どころで、つまり、より男の世界を強調するための刺し身のツマ的なものでしかない。しかもそのシーンはコメディ的な味わいがあるといっても、そのシーンを見て特に笑えるというわけでもない (笑いはその後に用意されている。) しかしリメイク版ではそのオンナオンナしていた秘書が年増になり、よけいにギャグを強調するキャラクターとして利用されている。


結局主役がサンドラーで準主演と言えるケアテイカーをロックが演じているのだから、どこからどう見てもこの作品がコメディになるのはわかりきっている。実際の話、私は最近ほとんどコメディ映画は見ていないとはいえ、これだけ笑わされたのは久し振りで、コメディ作品としては充分元をとらしてくれるという気にさせる。その上スポーツ映画としても、オリジナル作品が高い水準を示しているだけに、その骨格については手を入れずにオリジナルに忠実にリメイクしたことで、それなりのものにはなった。幕切れだとかあまりにもオリジナルそのままなのでもうちょっと手を入れてもいいのにと思ったほどだが、要するにその辺をいじってしまうとバランスが崩れて収拾がつかなくなってしまうことを怖れたものと見える。おかげでそれなりにまとまりがついたのは確かであり、こういった冒険をしなかったことを不服と見るか当然と見るかは観客に因るだろう。


私は、サンドラーはともかく、気になったのはロックの方で、元々ロックはスタンダップ・コメディ、つまり漫談で出てきたコメディアンだから、どうしても口の方が先に出るというのはわかる。しかし、それでもほとんど一人だけ、視覚的なギャグよりセリフで笑いをとるのがこれだけ多いと、なんとなく浮いている印象を与えてしまうのは否めない。それが彼の持ち味であるというのはわかるし、それはそれで実際笑えるのだが、今一つしっくり来ないなあと思ったのは私だけだろうか。あるいは、彼が特にオリジナルのケアテイカーと印象が異なったからというのはあるかもしれない。


サンドラーは意外にも、昔はまったく演技とは無縁のところにいたくせに、こういうドラマ部分にも力を入れたドラメディ的路線が板につきつつある。もっとも、今でもそれが演技ではなく、本人の持っている味に近いところで勝負しているという印象の方が強くはあるが。歳とって多少落ち着きが出てきたのと、近年、「パンチ-ドランク・ラブ」や「スパングリッシュ」等で、ポール・トーマス・アンダーソン、ジェイムズ・L・ブルックス等の一線級の監督と一緒に仕事をしているのが役に立っているのかもしれない。


また、「ウェディング・シンガー」や「50回目のファースト・キス (50 First Dates)」でのドリュー・バリモアとの共演で、コメディとはいえ恋愛もので多少の人情の機微も出せるコツを覚えたのも大きいかもしれない。あまりにも下手クソというのでNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」をクビになったのはよく知られているところだが、意外に芸幅の広い役者として今後も堅調に活躍を続けていくと思わせる。その点、同じ「SNL」出身のウィル・フェレルと意外なところで共通点がある。監督は「NY式ハッピー・セラピー (Anger Management)」(邦題捻りすぎ)、「50回目のファースト・キス」に次いでこれがサンドラーとは3回目の仕事となるピーター・シーガルで、よほど相性がいいようだ。






< previous                                      HOME

The Longest Yard   ロンゲスト・ヤード  (2005年5月)

 
inserted by FC2 system