こないだ、Netflixの「ザ・ボディガード (The Bodyguard)」を見る時も迷ったのだが、今回の「ザ・リトル・ドラマー・ガール」も、同様に迷った。なんとなれば「リトル・ドラマー・ガール」も「ボディガード」同様英BBCとの共同製作で、やはりBBC1で先に放送されているからだ。わざわざ私が書くまでもないか。
ところがどっこい「リトル・ドラマー・ガール」は、BBC1は一時間番組 x 6エピソードとして6週に渡って放送しているが、アメリカではAMCが2エピソードを一回分として3夜連続で放送した。そのため、英国では第1話は10月28日、最終回は12月2日に放送されているが、一方アメリカでは11月19、20、21日で一気に放送され、始まったのは英国より一と月近く遅かったのに、終わったのは英国より一週間以上早かった。アメリカの視聴者が得した気分になったのは言うまでもない‥‥か? いずれにしても、これで私も安心して負い目なく書ける。
「リトル・ドラマー・ガール」は、ジョン・ル・カレ原作の映像化だ。ル・カレ作品というと、近年では「誰よりも狙われた男 (A Most Wanted Man)」や「裏切りのサーカス (Tinker, Tailor, Soldier, Spy)」があったが、考えたら徹底した書き込み型のル・カレ作品は、2時間で終わる映画より、シリーズ化できるTVの方が合っているかもしれない。
しかも「リトル・ドラマー・ガール」の場合、スパイ教育を受ける主人公チャーリーが、徐々に別の人格になりきっていく様を描くのが話の骨子だ。つまり、長い話が向いている。実は「リトル・ドラマー・ガール」は1984年にジョージ・ロイ・ヒル演出、ダイアン・キートン主演で一度映画化されている (私は未見) が、詰め込みすぎて消化不良という話を聞いたことがある。それが今回は6時間を使って、スパイとして成長していくチャーリーを綿密に書き込むことができる。
さらに今回演出を担当するのは、韓国のパク・チャヌクだ。かつて「オールド・ボーイ (Oldboy)」等のアクションで名を馳せ、近年は「イノセント・ガーデン (Stoker)」や「お嬢さん (The Handmaiden)」等でエロティシズム演出にも新境地を見せるパクが、「リトル・ドラマー・ガール」を演出する。
女性が、男性の命により他の女性になりすますというのは、アルフレッド・ヒッチコックの「めまい (Vertigo)」や「あの日のように抱きしめて (Phoenix)」でも描かれているように、倒錯した愛情表現に他ならない。その上にスパイ・スリラーの「リトル・ドラマー・ガール」では、かなりのアクションも期待できる。考えただけでなかなか面白そうだ。
主人公のチャーリーに扮するフローレンス・ピューは私は初めてだったのだが、そういう、あまり知られていない女優というのが、役にはまっている。チャーリーの教育係のベッカーに扮するのが、アレグザンダー・スカースガード。昨年HBOのミニシリーズ「ビッグ・リトル・ライズ (Big Little Lies)」でエミーやゴールデン・グローブ等、TV関係の助演男優賞を総なめにしていた。こちらは今が旬という感じ。そのベッカーに指示を出すモサドの上司クルツに扮するのがマイケル・シャノンで、相も変わらず胡散くささ全開で話を進める。基本的にこの3人が主要登場人物だ。
実際、番組が面白いのは事実であるが、 しかし個人的な感想を言うと、多少テンポがスロウ過ぎるかなという気もしないでもない。そういう意見はル・カレの原作でもあるようだし、チャーリーのスパイ教育の部分を徹底して書き込むことこそが話の要諦である時に、長過ぎるとかスロウ過ぎるというのは当たらないという意見も、これまた原作でも今回の映像化でも耳にする。というわけで、ここはこういうもんだと付き合って、その後のカタルシスを待つ。
そして最終回のクライマックスのアクションは、実際、期待を裏切らないできだ。「ボディガード」でも最終回にテンション・マックスのアクションを見せたが、「リトル・ドラマー・ガール」もなかなか。もうちょっとこのアクションを見せてくれてもいい。ヴァイオレンスもアクションもエロティシズムも好きなだけ演出できて、パクも満足に違いない。