The Kilborn File  ザ・キルボーン・ファイル

放送局: FOX (シンジケーション)

プレミア放送日: 6/28/2010 (Mon) 19:00-19:30

製作: キルボーン・プロダクションズ、20世紀FOX TV

製作総指揮: クレイグ・キルボーン

製作: ロン・ローセン

監督: ボブ・マキノン

ホスト: クレイグ・キルボーン

ハックルベリー・フレンド: クリスティン・レイキン


内容: クレイグ・キルボーンがホストのイヴニング・トーク・ショウ。


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クレイグ・キルボーンが帰ってきた。6年前、本人がやる気を示しさえすればまだまだ続いていたはずの深夜トーク・ショウ「レイト・レイト・ショウ・ウィズ・クレイグ・キルボーン (Late Late Show with Craig Kilborn)」をいともあっさりと辞め、そのままショウビズ界から姿を消すものと思われたキルボーンが、再び、もう一度トーク・ショウのホストを務めるために帰ってきた。あんた、だったらなんで辞めたの?


キルボーンが2004年夏に、惜しまれながらも「レイト・レイト・ショウ」を辞めた時の経緯は上記のページでも詳しく書いたので繰り返さないが、しかし、あの時の感触は、ショウビズにはもう未練はない、やりたいことはやった、もう引退してあとは好きなことをやって過ごす、みたいなノリだった。本人がほとんど半分以上その気でいたのは間違いないと思われる。


あれから6年、いったいどういう変節があったのか、またまたキルボーンがトーク・ショウのホストとして帰ってきた。しかも今回はこれまで馴染みのあったプライムタイムから深夜枠ではなく、夕方7時からの30分番組だ。確かにこの時間はネットワークにトーク・ショウは編成されていないが、しかし、7時台のトーク・ショウに人がいったいどれだけ興味を示すだろうか。


6年前にキルボーンが「レイト・レイト・ショウ」を辞めた時、本人にそういう意識はまったくなかったろうが、結果としてかなりの余波を後に残した。その最たるものが、キルボーンが辞めた後、後継者探しに躍起となったCBSが自社ホストの引き抜きにかかるんじゃないかと危惧したNBCが、当時絶頂期だったジェイ・レノの「ザ・トゥナイト・ショウ (The Tonight Show)」のホストを降ろしてまで、コナン・オブライエン残留に固執したことだ。


結局今では、あんなにしてまで引き止めたオブライエンにNBCは自ら引導を渡し、すったもんだの挙げ句、米深夜トーク界は地盤を揺るがしかねない大激震に見舞われた。その責任の一端、というか、端緒はキルボーンのこの時の辞任にある。あんたが気軽に辞めると言わなければ、その後業界があんなに揉めることもなかったのだ。それなのに、その激震の後遺症からやっと業界が回復しようとしている今になって、その原因となったあんたが、またのこのこ、しかも今度は夕方のトーク・ショウのホストとして復帰してくるのか。苦虫を噛み潰したような顔をしている業界人は、かなりいると思うぞ。


キルボーンは、よくも悪くもエリートだ。ESPNの「スポーツセンター (SportsCenter)」、コメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショウ (The Daily Show)」、そしてCBSの「レイト・レイト・ショウ」と、駆け足でキャリアの階段を上ってきた。その上長身でハンサム、スポーツができてユーモアを解するとなれば、特にかなり女性に人気が高いのは容易に想像できる。


「レイト・レイト・ショウ」の突然の辞任は、そういう、あまりにも簡単に出世できてしまった者に特有の、一種のバーン・アウトだったのではないかと邪推する。すべてがあまりにうまく行き過ぎたのだ。その一方で「レイト・レイト・ショウ」自体の人気は壁にぶち当たっていた。かといってどうしたらいいかはよくわからない。それまでキルボーンはその種の壁に遭遇したことはなかったからだ。だから、つまらない、やーめた、といって辞めた。キルボーンにとってはそこにはなんの後腐れもなかったに違いない。


もしかしたらキルボーンは一般的なホスト業を生業としている人種のように、最終的には「トゥナイト」か、あるいはデイヴィッド・レターマンの「レイト・ショウ (Late Show)」の後を継ぐことを最終的な目標にしていたのかもしれない。しかし、それはキルボーンにとってすら当時は見果てぬ夢だった。6年前には、レターマンの「レイト・ショウ」とレノの「トゥナイト」は、今後20年は安泰と思われていたのだ。それにレターマンはキルボーンの上司に当たる。後継者になるのも無理なら、反旗の翻しようもない。当時はまさかキルボーン自身、レノとレターマンの後釜に就くことを考えるほど自信家でもなかったろう。だから辞めたのだ。


そしたら皆が思っているほどレノの地盤は磐石ではなかった。レノは辞め、オブライエンが「トゥナイト」を継いだ。キルボーンも、「レイト・レイト・ショウ」を辞めてから何もせずにぶらぶらしているうちに、またぞろホスト業への未練がぶり返してきたのではないか。今さら「トゥナイト」のホストを継ぐのは無理だとしても、またやり直すことは可能ではないか。そして浮上してきたのが、シンジケーションにおける夕方午後7時台のトーク・ショウ案だ。


確かにこの時間帯はどこもトーク・ショウを編成していない。CBSとNBCは芸能ニューズ番組だし、ABCでは長寿クイズ・ショウの「ジェパディ (Jeopardy)」と「ホイール・オブ・フォーチュン (Wheel of Fortune)」という、それこそ不動の番組がここ何十年も居座っている。しかもFOXは、「ザ・シンプソンズ (The Simpsons)」やNBCの「ジ・オフィス (The Office)」の再放送だ。ここにならもぐり込めるかもしれない。まあ、そんなことを考えたのではと思う。


実際、私のような年代の男性にとって、7時台の上記番組はどれも特に見る気にならない。というか、その時間に既にうちにいてTVを見ている者はあまりいないと思うが、それでも、もしいる場合、それらの番組を見ようとはあまり考えない者の方が多いに違いない。その点、肩の凝らないトーク・ショウというのは、もしかしたらいい線行くかもしれない。


と思いながらつらつら番組を見てみた。番組第1回のゲストは、メイン・ゲストがジェフ・フォックスワーシー、番組内で討論をする「ザ・パワー・パネル」コーナーでは、マーティン・マルとセス・マクファーレンが顔を見せる。フォックスワーシーはつい最近までFOXのゲーム・ショウ「アー・ユー・スマーター・ザン・ア・フィフス・グレイダー? (Are You Smarter than a 5th Grader?)」ホストを担当していた。今は番組は「キルボーン・ファイル」同様、FOXが製作するシンジケーション番組として放送が続いている。


マクファーレンはやはりFOXで、「アメリカン・ダッド (American Dad)」、「ファミリー・ガイ (Family Guy)」、「ザ・クリーヴランド・ショウ (The Cleveland Show)」等の人気アニメーションを製作している売れっ子プロデューサーだ。要するにFOXが製作する番組関係のゲストを集めていることが知れる。ついでに他の番組の宣伝までちゃっかり行っておこうという腹だ。


また、スタジオ内にはキルボーンに合いの手を入れたりおしゃべりをする、共同ホスト、とまでは言えない程度のポストの女性、クリスティン・レイキンが控えている。一番いい単語は、助手、あるいは盛り立て役を意味する「サイドキック (Sidekick)」だろうが、キルボーンはレイキンのことを「ハックルベリー・フレンド (Huckleberry Friend)」として紹介しており、番組最後のクレジットでもそうなっていた。マーク・トウェインの「ハックルベリー・フィンの冒険」から来ているものと思っていたが、念のために調べてみたら、実は「ティファニーで朝食を (Breakfast at Tiffany’s)」の主題歌、「ムーン・リヴァー (Moon River)」の歌詞に、長年の友人を示す単語として登場するのだそうだ。まったく知らなかった。


番組第2回のゲストは、現在NBCの「ペアレントフッド (Parenthood)」に出演中のサム・ジェイガー、第3回ゲストはコメディアンのデイヴィッド・アラン・グリアー、第4回ゲストは「トワイライト (Twilight)」シリーズ、というか、私にとってはショウタイムの「ナース・ジャッキー (Nurse Jackie)」出演中のピーター・ファシネリといった布陣。30分番組ということもあり、音楽ゲストはいない。


レノが「トゥナイト」を辞めて「ジ・ジェイ・レノ・ショウ (The Jay Leno Show)」を始めた時、単なる「トゥナイト」の焼き直しに過ぎないことにがっかりさせられたものだが、「キルボーン・ファイル」を見ての感想も、実はほとんどそれと同じだ。つまり「キルボーン・ファイル」は、かつての「レイト・レイト・ショウ」と較べて、ほとんど違いが見受けられない。もうキルボーンの「レイト・レイト・ショウ」は細かいところまでは覚えていないが、それでも当時の「レイト・レイト・ショウ」と「キルボーン・ファイル」とでは、あまり大きな違いはないというのは言えると思う。


特にそのことを痛感させられたのが、ゲストに矢継ぎ早に五つのクエスチョンを出題する「5クエスチョンズ」のコーナーで、これって、私がキルボーンの「レイト・レイト・ショウ」で最も面白くないと感じ、時間のムダでしかないからこんなの早くやめた方がいいと思っていた「5クエスチョンズ」そのままではないか。なんにも変わってない。いまだにまったくつまらないことまで同じだ。なんでこんなコーナーを復活させてしまったのか理解に苦しむ。6年間進歩せずに停滞していただけか。


レターマンの「レイト・ショウ」でも、「トップ・テン・リスト」という、つまらない時の方が多いからこんなのやめればと私が思いつつも延々と続いているコーナーがあるが、要するにキルボーンがやっていることもそれと同じだ。定番のコーナーがあると、視聴者が親しみやすくなるし、自分たちもゼロから新しいことを始める苦労から解放される。自分のスタイルは確立する必要があるし、いったんある程度まで続けてしまったものはやめられないんだろう。しかし面白くないものは面白くない。


助手のレイキンがいることは、「レイト・レイト・ショウ」の時と較べて視覚的に最も大きな違いだと言える。確かに妙齢の女性が時々画面に映るのは、特にゲストが男性で男ばかりの時だと、眼休めにはなるが、違いはその辺止まりだ。


番組は6週間のテスト・ランを終え、現在一時的に休止している。その後も続いていくかどうかは、現時点では不明だ。近々のうちにレギュラー番組として編成されるかどうかの発表があるはずだ。私としては、まあ7時台にトークがあれば、うちにいさえすれば見てもいいと思うが、見れなくても特に残念には思わない。基本的に深夜トークで間に合うからだ。今秋、番組が本編成になって復帰してくる可能性は、五分五分といったところか。









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ザ・キルボーン・ファイル   ★★1/2

 
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