The Jay Leno Show

放送局: NBC

プレミア放送日: 9/14/2009 (Mon) 22:00-23:00

製作: ビッグ・ドッグ・プロダクションズ、ユニヴァーサル・メディア・ステュディオス

製作総指揮: デビー・ヴィッカーズ

ホスト: ジェイ・レノ

バンド・リーダー: ケヴィン・ユーバンクス


内容: ジェイ・レノがホストのプライムタイム・トーク・ショウ。


_______________________________________________________________


ここ数年のアメリカの勢力地図を塗り替えるべく凌ぎを削る深夜トーク・ショウの覇権争いにおいて、その最後の目玉番組と言えるのが、「ザ・ジェイ・レノ・ショウ」だ。むろん今後もネットワーク、ケーブル・チャンネル双方において新深夜トーク・ショウの投入は続くし、午後10時からというプライムタイムに編成される「ジェイ・レノ・ショウ」は、厳密に言うと深夜トークとも言い難い。


FOXはこの後、黒人コメディアンのワンダ・サイクスを起用した「ザ・ワンダ・サイクス・ショウ (The Wanda Sykes Show)」、コメディ・セントラルはラテン系のジョージ・ロペスを用いて「ザ・ジョージ・ロペス・ショウ (The George Lopez Show)」という深夜トークを始めることも既に発表になっている。しかしそれでも、ここ数年続いた深夜トーク界のつばぜり合いにおいて、「ジェイ・レノ・ショウ」の登場によってひとまず主要プレイヤーが出揃ったということに異論を挟む者はいまい。


思うに、アメリカ深夜トーク界がここまでもつれる最初の契機となった、2002年のABCによるデイヴィッド・レターマンの引き抜き未遂事件からここまで、事態は二転三転した。当時はコナン・オブライエンがレノの「ザ・トゥナイト・ショウ (The Tonight Show)」を引き継いだ後に「レイト・ナイト (Late Night)」の後釜に座るのが誰かなんて誰も予想もつかなかった。


そこにジミー・ファロンが収まり、レノが「トゥナイト」を降り、オブライエンが「トゥナイト」を継いで、本来ならそこでひとまず幕が引かれるはずだったが、そうは問屋が卸さなかった。昨冬、たぶん「トゥナイト」の後、ケーブルで自分のトーク・ショウでも持つのではと噂されていたレノが、そのクビになったはずのNBCで、プライムタイムに自分の番組を持つことが発表になった。


これには業界の誰もが驚いた。レノが2009年に「トゥナイト」を去ることが発表になって以来、レノはNBCをバカにするジョークを散々飛ばしていたし、自身もいたるところで「トゥナイト」を辞めた後、もう二度とNBCでは仕事しないと明言していたのだ。それが打って変わってNBCで、しかもプライムタイムに放送される番組のホストを担当するという。


要するに、NBCはレノの決心を揺るがす非常においしいオファーをしたことになる。実際レノのインタヴュウを読むと、プライムタイムに毎夜放送のトーク・ショウを編成し、そこにレノを据えようと考えたのはNBCの方だそうだ。実際、NBCはレノにクビを宣告したとはいえ、ホストとしてのキャリアに引導を渡したわけではなかった。「トゥナイト」を辞めさせることは決めたけれども、NBCから手放すつもりは毛頭なかった。レノの「トゥナイト」は、深夜トークで最も視聴率の高い番組なのだ。


NBCチーフのジェフ・ズーカーがまずレノにオファーしたのは、夜8時から30分のトーク・ショウのホストだった。これがレノによってすぐ却下された後、日曜夜のスロットはどうかと打診し、さらにNBC傘下のケーブル・チャンネルUSAに番組を持つことも検討、そして最終的にNBCがオファーしてきたのが、プライムタイムの10時台に毎夜編成のトーク・ショウだった。そしてさすがにレノも、これ以上おいしい話はこの世に存在しないことに当然真っ先に気づいた。それから後はとんとん拍子に事は運んだらしい。


レノは5月いっぱいで「トゥナイト」を退陣、しばし休養をとりながら新しい番組のアイディアを練り、そして新生「ザ・ジェイ・レノ・ショウ」は9月第3週から放送が始まった。「トゥナイト」のバンド・リーダー、ケヴィン・ユーバンクスもレノに同道、ただしバンド名はかつてのザ・トゥナイト・ショウ・バンドを名乗るわけには当然いかず、ザ・プライムタイム・バンドと名づけられた。


番組オープニングのタイトル・クレジットでは、いかにもこれがレノ一人の番組であることを強調するように、レノの幼い時からの写真がコラージュされる。そして幕が開いて、ではなく透明の自動ドアが手前に開いてレノが登場しての第一印象は、またえらく横に長いステージだなということだ。そのわりには奥行きはさほどでもない。また、ファロンの「レイト・ナイト」、オブライエンの「トゥナイト」と続く最近の流行りは、落ち着きよりデザイン重視の派手目のセットで、それはある程度「ジェイ・レノ」にも受け継がれている。「トゥナイト」の時より照明が20%ばかり明るいような気がする。


それらを別にするとセットという点で視覚的に最も変化があるのは、レノが座る椅子の前にデスクがないことが挙げられる。だいたい、デスクとその横に並ぶカウチというのは深夜トークの伝統のようなものだが、「ジェイ・レノ」にはそれがない。レノが座るカウチとゲスト用のカウチは、やや斜めに向かい合うような形でステージ上にそのまま置かれている。現在トーク・ショウでデスクがないというと、その代表は「ジ・エレン・デジェネレス・ショウ (The Ellen DeGeneres Show)」だろう。元々コメディアンでフレンドリーなキャラクターで売るデジェネレスの場合、ゲストを呼んだ時に二人の間になんの障害物も置かないことで、緊密な雰囲気を醸成している。レノが狙っているのもそれだろう。


番組進行に目を移した場合、最大の変化は、音楽ゲストのパフォーマンスが番組の最後ではなく、途中にあるということにある。また、その音楽ゲストのパフォーマンスも現時点では毎回あるわけではない。深夜トークに限らなくても音楽ゲストを呼ぶトーク・ショウは多くの場合、そのパフォーマンスは番組の最後にある。逆に言うと、視聴者はほとんど反射的に、音楽パフォーマンスがあると、番組はそれで終わりと思う。その流れを変え、番組でわりと人気のあるコーナーを番組の最後に据えることで、視聴者にそのままチャンネルを替えさせずにローカルのニューズに移行させようという算段に違いない。


栄えある番組第1回のゲストはジェリー・サインフェルド、音楽ゲストはジェイZとリアーナ、それにカニエ・ウエストだ。サインフェルドは第1回ということで蝶ネクタイで登場、そして話題作りという点では、ウエストの登場は大きかった。本来ならボーイフレンドのクリス・ブラウンに殴られてスキャンダルを提供したリアーナの復活パフォーマンス的なステージを意図していたはずだが、「ジェイ・レノ」プレミア放送の前日に中継されたMTVの「VMA (Video Music Awards)」で、この日シンデレラとなったテイラー・スウィフトが受賞の挨拶を述べようとした時にウエストがステージ上に乱入、スウィフトからマイクを奪って、あんたの歌はいいけれども、本当にいい仕事をしているのはビヨンセだとまくし立て、スウィフトにしゃべらせなかった。


ウエストはセレモニーが始まる前からロビーでアルコールをたしなんでいたのが目撃されており、どうやら既にでき上がっていたウエストによる掟破りの行為となったらしい。ウエストはいつぞやのVMAでも自分自身がノミネートされていながら賞がとれず、黒人にも賞を与えろと怒鳴っていたのがニューズになって、エミー賞でもおちょくられていた。よくよく自爆しやすい体質のようだ。


ウエストやVMAでもパフォーマンスしたジェイZはその翌日にNYからLAに飛び、「ジェイ・レノ」でパフォーマンスしたわけだが、レノはこの機会にウエストに釈明、というか謝罪するチャンスを与えた。さすがにウエストはしおらしいところを見せていた。因みにそのスウィフト、翌15日にABCの「ザ・ヴュウ (The View)」に出演、「ジェイ・レノ」ではともかく、彼女個人に対してはまだウエストから何の音沙汰もないと言っていた。


たぶんウエストの関係者は「ヴュウ」を見ていたのだろう、番組放送後にスウィフトにウエストから電話があり、そこでウエストはスウィフトに謝罪したそうだ。スウィフトはそれに応じ、この件は一件落着となった。いずれにしても、ただでさえ注目度の高い新番組の第1回にお騒がせ男のウエスト、それにリアーナ、ジェイZと有名どころを揃えたため、プレミア・エピソードの「ジェイ・レノ」の視聴率はかなり高かった。


上述したように、ジェイZらのパフォーマンスは番組の最後ではなく、最後のコーナーの前にあった。そして最後のコーナーは、「トゥナイト」でも人気のあった、新聞や広告のカン違い見出しミスを紹介する「ヘッドラインズ」で、そしてレノが最後にローカル・ニューズの案内をして番組第1回が終わると、そのままコマーシャルを挟まずにニューズがすぐに始まった。トップ・ニューズはガンとの闘病生活をおくっていたパトリック・スウェイジの訃報で、これだと確かに「ジェイ・レノ」を見ていたら、そのまま次のニューズもNBCにチャンネルを合わせたままにしそうだ。それにしてもやはり「ザ・ビースト (The Beast)」の第2シーズンはなかったんだな。


番組ゲストは第2回マイケル・ムーア、映画撮影中のトム・クルーズとキャメロン・ディアスはヴィデオ登場で、第3回ロビン・ウィリアムスとマイリー・サイラス (ヴィデオ)、第4回ハリー・ベリー、音楽ゲストはブルース・ホーンズビー/エリック・クラプトン、第5回ゲストはドリュウ・バリモア、ヴィデオ出演メル・ギブソンと、当然なかなかの布陣。クルーズやサイラスらは、新しい「テン・アット・テン (10 at 10)」と題する新コーナーへのヴィデオ出演で、要するに10時台にスターに10の質問をするというもの。


番組内容で驚いたというか、正直がっかりさせられたのは、基本的に番組は「トゥナイト」時代のレノの焼き直しに過ぎないということ。単純に新セットになって番組コーナーの順番が代わっただけで、基本はほとんど変わらない。ヘッドラインズやJウォークといった「トゥナイト」の人気コーナーは、ほとんど手つかずのまま「ジェイ・レノ」に移行している。


それに「テン・アット・テン」コーナーは、まったく面白くない。デイヴィット・レターマンの「レイト・ショウ (Late Show)」の今日のベスト・テン・コーナーと同じくらいつまらない。あんなくだらないインタヴュウ・コーナーを作るくらいなら、代わりに音楽ゲストを呼ぶか、新人コメディアンにチャンスを与えた方がまだまし。とはレノ側も考えたんだろう、「ジェイ・レノ」では、これまであまり知られていないコメディアンにわりと長い時間を割いて与え、芸を披露させている。


これはかつての大元のジョニー・カーソンがホストを担当していた時代の「トゥナイト」が、まだ芽の出ない芸人にチャンスを与える場としても機能していたことに由来すると思われる。実際それでそれまで知らなかった面白い芸人を発掘できるなら、それにこしたことはない。因みに第1回では今年最大のスリーパー・ヒットとなった「ザ・ハングオーヴァー (The Hangover)」にも出ていたダン・フィナーティが、ガス・ステーションで一般人相手に歌い踊り、なかなか笑えた。


現在、「ジェイ・レノ」への注目は一段落し、既に番組は安定期に入っている、というか、かなり視聴率は下がっている。それでも製作にあまり金のかからないこの手のトーク・ショウは、費用対効果という点では充分元はとれているそうだ。一方、番組自体は黒字でも、視聴率自体が下がれば、その後に編成されているニューズに悪影響を与えかねない。その辺のバランスをどこでとるかという問題がある。

さらに、ニューズを挟んでその後から始まるオブライエンの「トゥナイト」も視聴率ガタ落ちで、レノ時代には常勝だった「トゥナイト」が、今では裏番組のレターマンの「レイト・ショウ」に後れをとるという事態が続いている。それでも最初は若い層ではまだ「トゥナイト」の方に分があったのでオブライエン側もそれほど気にしていなかったようだが、現在ではそれも怪しくなってきた。


いずれにしても、これでネットワークのプライムタイム-深夜トークのメイン番組はひとまず出揃った。NBCだって、これだけ揉めた編成にこの後すぐにまた手を入れるなんてことはしたくないだろうと思う。しかし「ジェイ・レノ」と「トゥナイト」のアンダー・パフォーマンスが今後もずっと続くと、遅かれ早かれなんらかの梃入れをせざるを得なくなるという事態も当然考えられる。どうやらアメリカTV界深夜トーク改変の余震は、今後もまだしばらくは続きそうだ。








< previous                                    HOME

 

The Jay Leno Show


ザ・ジェイ・レノ・ショウ   ★★1/2

 
inserted by FC2 system