放送局: ブラヴォー

プレミア放送日: 1/6/2002 (Sun) 21:00-22:00 (30 min x 13)

製作: ザンジバル・プロダクションズ、ブラヴォー

クリエイト/製作: デイヴィッド・クレア、ローレン・フライドランド、ニコール・トーリ

製作総指揮: デビー・デモントルー


内容: ニューヨークに住む役者志望の12人の若者に密着して、彼らが役者として無事デビューできるかを追うリアリティ/ドキュメンタリー・ショウ。







左から: P. J. ミハフィー、ネイサン・ウェザリント、ミランダ・ブラック、ミケラ・コンリン、ラターシャ・ローズ、ケヴィン・ブーラ、キャスリン・ウィニック、ジミー・スマギュラ、ゴッドフリー、クイーン・エスター、デイジー・イーガン、チェルシー・ラゴス


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番組の冒頭に流されるテロップによると、ニューヨークに住む役者志望の人間は10万人もいるそうだ。その中で現在、俳優としてそれだけで食っていけているのは、そのうちの2%に過ぎない。あとの9万8千人は、今に大きな役を掴んでブレイクすることを夢見ながら、バイトやら何やらをしながら糊口をしのいでいる役者予備軍である。「イット・ファクター」はその中から12人を選び、果たして彼らが望み通りに役者としてチャンスをつかみ、その世界に足を踏み入れることができるかを追跡するリアリティ・ショウだ。因みにこの番組、昨秋放送予定だったのだが、舞台がニューヨークということもあり、同時多発テロの影響を鑑みて放送が延期されていたものである。


「イット・ファクター」 のプレミアは、この番組に出演する役者の卵を選ぶオーディションの模様をとらえる。オーディションを受ける様を見せる番組に出るためにオーディションを受けるわけで、彼らも大変だ。そのオーディションにも数百人もの役者予備軍が殺到し、何をするにせよ、競争率は非常に高い。2次面接ではいきなり何かモノローグをして見せてくれと言われ、皆とっさにアドリブで何か喋るわけだが、黒人のゴッドフリーは「モノローグ、モノローグだって!? そんなこと聞いてない」といきなり怒り出し、面接を担当している者たちに向かって癇癪を爆発させるのだが、その直後に「ほーら、びっくりしただろう」とそれまでのは全部演技だったところを見せ、強烈に印象を残すことに成功する。なあるほどね、色々と皆プレゼンテイションを考えてるなあと感心した。もちろん彼は合格、12人の中の一人となる。


そして第2回目からはいよいよ選ばれた12人が日々オーディションに出かけ、役をとりそこね、苦しむ日々をカメラが追いかけるわけだ。第2回でフィーチャーされるのは、番組のオーディションで最も印象を残したゴッドフリーと、ミランダ、それにデイジーの3人で、最初にゴッドフリーが登場するのは、当然すぎるほど当然。誰だって、皆、彼が今後どうなるか知りたいだろう。彼はスタンダップ・コメディアンとして舞台に立っているのだが、もちろんそれだけで終わるつもりは毛頭ない。今日は玩具メーカーのコマーシャルのオーディションに出かけ、そして落とされて帰ってくる。明け方、舞台を終えて帰宅する彼の両肩も下がり気味だ。


デイジーはなんと10年前にブロードウェイ・ミュージカルの「秘密の花園 (The Secret Garden)」で子役ながら主演を勤め、トニー賞の主演女優賞を獲得したという、役者予備軍と言うよりは、既に確立した女優のように見える。番組内では今は亡きオードリー・ヘップバーンが当時11歳のデイジーにトロフィーを与えるという、彼女がトニー賞をとった時の映像が流れる。それを見て私は、あ、彼女知ってる、このシーン、見た見た! そうか、彼女がそうだったのか、と改めて記憶を新たにした。確かに今もその時の面影を残している。そのデイジーが、今は仕事にあぶれ、日々オーディションを受けまくっては落ちまくっているのだ。今日もクッキーのコマーシャルのオーディションに出かけ、そしてやはり役をとりそこねる。過去の栄光は現在の仕事獲得には何の役にも立たないのだ。何というシヴィアな世界。


いつぞやのアカデミー賞の授賞式で、シャーリー・マクレーンが「受賞した人はおめでとう、受賞しなかった人も気落ちしないで、賞をとろうがとるまいが仕事の獲得には何の役にも立たないから」というようなことを言っていたが、本当にそうなのだ。たとえ過去にいい仕事をしたからといって、それが将来の仕事獲得の保証にはまったくならない。いつでも今現在にどんな仕事ができるかが重要なのだ。


他人の容姿のことをとやかく言うと自分は何だと言われそうだが、自分のことは棚に上げといて言ってしまうと、デイジーが役をとれないのは身長が低すぎるからという気がする。彼女は結構顔はでかいのに背が低く、その上今ではわりと肉もついたぽっちゃり型に近い。はっきり言って、あの体格でドラマやシットコムに出演するのは難しいだろうという気がする。ハリウッド製作の番組を見たらわかる通り、少しでも肉のついた女優がちょい役以上の役を得るのは難しい。デイジーの場合、顔がわりと美人系のため、よけいにその体型と違和感がある。演技力があるのはほぼ間違いないのに、もったいない。


第2回でフィーチャーされる3人目がミランダで、彼女はクリーニングのサイド・ビジネス (現段階ではこちらが本業だ) をしながら、やはりオーディションに出かける毎日だ。彼女の今日のオーディションはNBCの「サード・ウォッチ」の端役で、セリフが一言しかないドラッグ・ジャンキーという役柄。実際、パンクっぽい服装を着るといかにもという感じであり、その役には向いているかもと思わせる。ミランダは無事その役を射止め、嬉しさのあまり、道を歩きながらそのたった一言しかないセリフ、「アー・ユー・シュア? (Are you sure?)」という言葉が何度も何度も口をついて出る。アー・ユー・シュア? アー・ユー・シュア? アー・ユー・シュア? とイントネーションを変えて何度も何度も言いながら、感極まって涙がこぼれてしまう。よほど嬉しかったんだね、ミランダ、うん、あんたが出る回の「サード・ウォッチ」は私も見ることを約束しよう。


しかしもちろん、事はそう簡単には運ばない。ミランダは翌日、その役が脚本から削除されたことを知る。ミランダの不運はそれだけに留まらず、その後もオーディションを受けては落ち、クリーニング・ビジネスの税金関連でIRS (アメリカの税務署のことだ) から追徴金の通知を受け、オーディションに遅れそうになってタクシーの中で着替えては急停車のために膝をぶつけ、出演予定のインディ映画のクルーは集合場所に現れないなど、その度に感情の起伏の激しい彼女は泣いたり笑ったりせわしない。しかし、彼女が見ていて最も飽きないのも事実だ。私はすっかり彼女のファンになってしまった。


その他の皆も、皆それぞれがそれぞれの問題を抱えながらも夢を諦めずに日々努力しているのだが、ほとんどがものにならない。ネイサンはLAまで行ってオーディションすら受けられずにゴルフ練習場で打ちっぱなしをして帰ってくることになり、ミケラは三菱のコマーシャルのオーディションを受けるがやはり落とされ、カナダ在でテコンドーと空手の黒帯のキャスリンも、ほとんど寝ないで車を運転して自宅とニューヨークを往復してCBSのソープのオーディションを受けるが、やはり役は手に入らない。TVを見ながら、ただ可哀想に、なんて思っているうちはいいのだが、ふと我に返ると、彼らの置かれた状況の厳しさに気づいて、何か暗澹たる気持ちになってしまう。


多分、彼らの中で将来俳優として成功するのはせいぜい一人か二人、もしかしたら全員だめかも知れないのだ。リアリティ・ショウとはいえ、これはゲームではなく、本当に彼らの将来がかかっているのに、優勝賞金100万ドルどころか、多分ほとんどが一銭ももらえず、ものにならないまま終わってしまう。ゲイのP.J.はアンダーグラウンドのゲイ・パフォーマンスにほぼ毎晩出演しているのだが、それでもらえるギャラは一晩たったの50ドルである。週6回公演としても月1,200ドルにしかならない。時々マチネーがあったりしても、月1,500ドル以上は稼げないだろう。今、マンハッタンのアパートで月1,000ドル以下の物件を探すのなんてほとんど不可能なのに、これでいったいどうやって生きていけというのだ。


番組は毎回毎回、今日も役をつかみそこねた出演者を映して終わることになる。しかし、それでも彼らは今度こそ成功することを夢見て挑戦を諦めない。若さと情熱ってすごいなあと思うのは、私が歳とった証拠だろう。「イット・ファクター」は、既に次回LA編が製作されることが発表になっている。ハリウッドか‥‥ニューヨーク編にも増してタフな状況になりそうだ。



追記 (2002年2月):

上にも書いた通り、「イット・ファクター」は当初、昨年9月にプレミア放送が予定されていた。しかしニューヨークが舞台ということもあり、9月の同時多発テロ直後では何かと視聴者に及ぼす影響が懸念され、放送が延期されていた。また、テロ事件が番組の出演者に与える影響が、今度は番組としても面白くなると考えたプロデューサーの判断にもよるのだろう、番組は夏頃までの出演者の様子を追うのではなく、テロ事件後の彼らの活動を追うところまで収められた。テロはニューヨークに住むすべての人々に影響を与えたし、それは番組に出演する彼らにおいても例外ではない。


クイーン・エスターはグラウンド・ゼロで救助活動に勤しむ消防隊員のための無料の慈善公演に出演し、ブロードウェイで「フル・モンティ」に出演するチャンスを得たジミーは、タイムズ・スクエアで撮影された、全ブロードウェイの出演者が集結し、事件後客足が大きく鈍ったブロードウェイへの人々の再訪を呼びかける、ニューヨーク市が主催のTVコマーシャルに出演する。バーナデット・ピータースやグレン・クロース、マシュー・ブロデリック、ブルック・シールズ等のビッグ・ネイムに混じって、後ろの方にちゃんと警官の格好をしたジミーの姿も見える。


一方で、地道ながらも着実に地歩を固めつつある者たちもいる。ゴッドフリーは7Upの全国区のコマーシャル出演という大役を射止め、そのギャラで新しいアパートメントに引っ越す。キャスリンもチーズ・メーカーのCMガールとして、等身大の模型 (というんだろうか、段ボールでできた販促媒体だ) が製作される。それでもまだそのような役をつかんでない者の方が多いが、ミランダのように、常時オーディション巡りを欠かさず、絶対に夢を諦めない者もいる。


たかだか半年強追っていったに過ぎないが、なんか、もう、成功する者、ドロップアウトする者という両者を分ける線が引かれつつあるように感じる。番組の最終回は、出演者を全員セントラル・パークに再集合させ、わいわいがやがやと彼らを談笑させるシーンで終わる。まだまだ彼らの人生はこれから二転三転としていくに違いない。彼らの1年後、10年後がどうなっているか、その時に「イット・ファクター」番外編を作れば、また面白い番組ができるに違いない。







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The It Factor

ジ・イット・ファクター   ★★★

 
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