The Island   アイランド  (2005年8月)

近未来、人々は汚染された外部から隔絶された世界に住んでいた。そういう平和だが何の面白味もない世界で人々の唯一の願いは、抽選に当たって地上の楽園「アイランド」に行くことだった。高度に支配され、暴力沙汰などまるでない世界で、一人リンカーン (ユアン・マグレガー) はそういう生活に違和感を覚える。ある日彼はもうこの世界に生息していないはずの羽虫を見つけ、外部世界に至る。そこでリンカーンは「アイランド」行き抽選に当たった者が、実は殺され、臓器を摘出されるのを目撃する。実は彼らは全員クローンで、臓器提供を目的に生かされていたのだった‥‥


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アクション大作路線では既に大御所になった感のあるマイケル・ベイの最新作「アイランド」は、意外なことに、既に今夏、いや、ここ数年のハリウッド大作の最大の失敗作として評価が定着してしまっている。はっきり言ってベイ監督作が毎回特にいいできだとは思わないが、それでも、いかにもハリウッドらしいアクションという点ではツボを外さないベイの最新作が、まさかここまで大きくこけようとはまったく思ってもいなかった。


公開間近の宣伝攻勢はうんざりするくらいで、特にその時たまたまチャンネルを合わせていたMTVでは、こんなに見せちゃってもいいのと思うほどさわりのアクション部分を大サーヴィスで見せていた。しかもさすがベイと思える派手なアクション・シークエンスで、やはりそれなりに見せ場は心得ていそうだ、とはいうものの、これ以上さわりのシーンを見続けたら、もうそれで満足して見る気が失せてしまうと思って慌てて劇場に足を運んだのだが、このがらがらの場内はなんだ。


これはそんなに面白くないのか、口コミでもまったく人が入ってないではないか、しまった、今回に限ってはマスコミ評を少しは読んで前情報を仕入れとけばよかった。そしたら金を捨てたと思わなくて済んだのに、と思っても後の祭りである。願わくはせめてアクション・シークエンスはTVで見た予告編以上のものがありますように、と思いながら見た。


そしたらどうしてどうして、実はそれなりに近未来SFとしてまとまっており、全編を通してどこかで見たようなストーリー展開であるということさえ気にしないでいられるならば、はっきり言ってかなり楽しめる。ベイ作品として見るならば、積極的に彼がこれまでに撮った作品の中で1、2を争うできと言ってしまってもいいんじゃないか。


要するに、今回は、批評家や観客がもうそろそろアクション一辺倒のベイ作品にも飽きたと思い始めているところに、いかにも貶してくださいとばかりの、先の読める、特に何か新しい新機軸があるわけでもない、クローンを主人公とした近未来SFもの -- うーん、こう書いただけで、確かに普通ならほとんど見る気が失せそうだ。SFファンなら、これだけでストーリー展開を正しく予見できそうである -- を撮ったということが、ベイの失敗だったと言えそうだ。


しかし、だからつまらないかというと、決してそんなことはない。SFプロパーで、SFのことなら任しとけという人間なら、「アイランド」の欠点をいつまでもあげつらうこともかないそうだが、ごく普通の映画ファンなら、結構楽しく見れるのはまず間違いないと思う。「アイランド」が面白くないというならば、同じだけ「ロード・オブ・ザ・リングス」の欠点をリストにして見せることも可能だし、はっきり言って、「スター・ウォーズ」だって、私に言わせてもらえれば長所より欠点の方が多い (「スター・ウォーズ」の最大の魅力は、そういう欠点が長所のように見えるという、その点に尽きる。) 第一、ベイの作品にアクション・シークエンス以外の何を見に行けばいいというのか。


とまあ、普段はめったに擁護しないSF作品を擁護しようという気になるのも、「アイランド」があまりにも理不尽なくらい観客や批評家から総すかんを食らって、ベイが叩かれているからなのだが、いくらなんでもこれでは可哀想過ぎる。たぶん、タイミングが悪すぎたのだ。


それに、「アイランド」にはスカーレット・ヨハンソンが出ている。いつの間にやら美形系の女優としては (ヨハンソンが美形ということに異議を差し挟む者もわりと多いようだが)、シャーリーズ・セロンを凌いでうまくハリウッド大作とインディ作品の両方をこなすようになったヨハンソンは、実は現在、ニコール・キッドマンに次いで成功している女優なんじゃないかという気がする。


同じことは共演 (いや、こちらこそ主演か) のユアン・マグレガーにも言え、「スター・ウォーズ」にも「アイランド」にも「ビッグ・フィッシュ」にも「猟人日記」にも同じスタンスで出ることができるというのは、なかなか得がたい役者であると言えよう。後半、クローンではない本人の役をスコットランド訛り丸出しで嫌みたらしく演じるのを見た時には、ふうん、この人、嫌な男を演じても悪くないと思わせた。


とまあ、むしろ私としては大いに楽しんだ「アイランド」であるが、やはり作品としては、ちょっとSFをかじったことのある人間にならほとんど先が読める展開というのが、最大のマイナス要因であっただろうというのは否めない。うちの女房もまるで惹かれなかったようで、私に、一人で見に行ってと自分はパスし、帰ってきてから私が女房にストーリー・ラインを説明すると、こんなの知ってる? と、マンガ・フリークの彼女は、ほとんど最初は同じストーリー展開なのだが、実際にクローン内で培養された臓器の移植が行われ、その後でその臓器が本人の身体の中で造反を始めるという内容の、清水玲子の「輝夜姫」というマンガのあらすじを話し始めた。


聞いてみると、実際、そちらの方が進んでいるというか、面白そうである。日本でこういう話が既に何年も前から連載されているような時代に、たかだかクローン自体が本人に造反する話って、考えてみたらあまり芸がない。やはり「アイランド」が叩かれるのも無理ないかな、と思えてきた。しかし、ベイという名前とセットにさえなってなければ、「アイランド」がここまで叩かれることもなく、興行だってそこそこの成績を上げていたんじゃないかというのも、また、確かな気がする。要するに、ベイはここらで失敗作を一本撮っておく必要があったということなんだろう。ベイは私にとって特に好きな監督というわけではないが、むしろ、ベイが今後何を撮るかということにこそ、要注目という気がする。






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