The International


ザ・バンク -堕ちた巨像- (ジ・インターナショナル)  (2009年2月)

インターポールのサリンジャー (クライヴ・オーウェン) はニューヨークの検察のホイットマン (ナオミ・ワッツ) と共同で、大きなマネー・ロンダリングの疑いのある巨大銀行IBBCをヨーロッパで内偵していた。しかしベルリンでサリンジャーのパートナーが目の前で殺され、内通者も謎の死を遂げる。IBBCとの会見も不首尾に終わり、電話も盗聴され、 サリンジャーも身の危険を感じる。一方、ホイットマンはクレメントの妻からイタリアのコンゴロマリット経営者のウンベルト・カルヴィーニと会うよう示唆される。ミラノに飛ぶホイットマンとサリンジャーだったが、そのカルヴィーニを狙う銃口があった‥‥


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本当ならアカデミー賞にもノミネートされて話題のフランス映画の「ザ・クラス」か、クレイメーションの3D作品「コラライン (Coraline)」のどちらかを見ようと思っていたのだが、外国語映画の「クラス」はうちの近くでやってなく、ちょっと待って近くに来るかどうか確認してからにしようといったんはパスする。それでほとんど「コラライン」に気持ちは傾いていた。


今年は3D映画をイヴェント映画としてプッシュする計画があちこちであるようで、「13日の金曜日」の3D版やその他、冒険ファンタジーものを中心に3D映画が花盛りだ。今だって人気絶頂のジョナス・ブラザースの3Dコンサート映画をやっている。数年前にTVで「ミディアム」を3D放送していたが、先月は同じくNBCが「チャック」を3D放送するなど、世の中ではかなり3Dがブームだ。


それはともかく「コラライン」だが、この映画、イヴェント3D映画ということで、入場料がほぼ普段の倍の15ドルに設定されている。日本でならともかく、普段は7−8ドルで映画を見慣れている今の感覚から言うと、まったく暴利、ぼられているとしか感じられない。第一、これまでは3D映画といったって料金は通常料金と変わらなかった。それがなぜいきなりこんなに高くなるのか。3D眼鏡だって見終わったら回収しているし、映画の製作費がその他のハリウッド大作と比較して特に高いとも思えない。


元々アニメやクレイメーションには特に興味があるわけではないため、それでとたんに行く気が失せた。映画産業に金を落としたい気持ちはやまやまではあるが、それでも特に経済的に潤っているわけではないのだ。それで結局、クライヴ・オーウェン主演のサスペンス・スリラー「ザ・バンク」にする。


「ザ・バンク」は、世界を股にかけてあくどいことをしながら成長を続ける巨大銀行にメスを入れようとする、インターポールの刑事とNY検察の検察官を描く。刑事サリンジャーを演じるのがクライヴ・オーウェン、検察官ホイットマンを演じるのがナオミ・ワッツという、この二人が主人公だ。


サリンジャーとホイットマンは巨大銀行のそういう裏側にマネー・ロンダリング等の大がかりな犯罪の匂いを嗅ぎつけ、足場固めの内偵捜査を進めていた矢先、ベルリンでサリンジャーと共に行動していたシューマーが、白昼に突然往来で倒れ、謎の死を遂げる。シューマーの首筋には何か毒物が注入された痕跡があった。明らかにプロの仕業だった。さらにサリンジャーたちに情報をリークしていた内通者のクレメントも自動車事故で死亡する。


明らかに裏で手を引いている者がいた。サリンジャーはiBBC側の発表に事件の時間的な食い違いがあることに目をつけ、それをきっかけにIBBC告発のきっかけにしようと企業内部に乗り込む。しかし既に情報は修正された後だった。彼らの電話は盗聴されており、こちらの持っている情報はIBBCに筒抜けだったのだ。さらにクレメントと親交のあったカルヴィーニもイタリアで狙撃される。常に後手に回るサリンジャーとホイットマンたちだったが、偶然からニューヨークで暗殺者と思われる人間を発見、追跡する。男はグッゲンハイム美術館で雇い主のウェクスラーと会っていた。千載一遇のチャンスとばかりに包囲を狭めるサリンジャーたちだったが‥‥


「バンク」は、話の発端はベルリン、中盤の転換期はミラノ、後半のアクションはニューヨーク、そしてクライマックスはインスタンブールと、世界を転々としながら話が展開するという点で、007や「ボーン」シリーズを想起させる。特に「ボーン」シリーズを連想させるのは、当然主演のオーウェンが「ボーン・アイデンティティ」に出ているという、そのことが大きい。一方、ワッツが出ていることにより、今度はデイヴィッド・クローネンバーグの「イースタン・プロミス」を思い出させる。むろん同様に「イースタン・プロミス」に出ていたアーミン・ミューラー-スタールの存在も大きい。パリ、およびロンドンという、ヨーロッパが舞台のスリラーというのも共通項だ。その二人がベルリンやミラノで落ち合うという汎ヨーロッパ的展開も、世の中はますますグローバル化しているという気にさせる。


巨大企業がモラル的にすれすれというのは、だいたい納得がいくし、そんなもんだろうと思う。金を第一に優先するからこそ大企業になれたのだろうし、甘いこと言ってられないに違いない。だからといって、殺人まで手を染めるかというとさすがにギャングじゃあるまいしそこまでやるかと思うが、しかし、武器製造産業を考えた場合、それは人殺しをする道具を販売して金を稼いでいるわけで、あまり誉められた商売じゃない。そして銀行はそういう相手にも当然金を貸して稼ぐ。彼らがなまじ道徳観念を持ってしまったら、むしろ世界は機能しなくなる可能性の方が高い。武器売って反省するような輩は「アイアンマン」一人だけで充分だ。


とはいえ、やはり第三世界に武器売ってその上がりをマネー・ロンダリングしている企業をほっといていいかというと、そういうわけにもいくまい。街角でドラッグ売って一般家庭を崩壊させていても、単純に需要と供給の法則に従って商売しているといわれても、でははいそうですかと納得するわけにはいかないのと一緒だ。一方で巨大企業がそれをやると、まともに働いている人もその恩恵を充分受けていたりするのでよけいたちが悪い。どうせ本当に悪い奴らはしっぽだけちょん切ってまた別のところで同じことをやるだけだ。


そういう風に感じさせるのも、先頃、政府から何百億ドルという融資を受けてなんとか再建に向けて動き出した金融大手のAIGが、さらにもっと融資の増額を要望し、その上受けた融資で幹部にボーナスを支払い、いまだにショーファーつきのリムジンで自宅まで送迎つきというニューズが報道されていたからだ。もちろん一般市民はカンカンだ。その金は我々の支払っている税金で出ているというのに、それでお前ら、倒産しそうになったら下っ端の首を切り、政府に金を所望し、自分らは左うちわってか。ふざけるのもいい加減にしろ。


結局、こいつらのものの考え方は映画で描かれるIBBCのものの考え方と同一だ。要するに勝っている者の総取りなのだ。実際資本主義というものの根底はそうじゃないかと言われれば、もしかしたらそれはそうなのかもしれない、だからみんな成功しようと必死になるんじゃないかとは思うが、しかし、AIGのくそったれどもにはやはり腹が立つ。あいつら全員クビにして、誰か在野から引っ張ってきて再建させろ、頑張れオバマ、と、とにかくこればかりはほとんど感情的に腹が立つのだった。というわけで、下っ端のはかないもがきかもしれないが、当然オーウェン演じるサリンジャーにも感情移入して応援してしまう。あんたみたいに叩かれようと筋を通す、一匹狼が似合う役者を我々は必要としているのだ。


演出はトム・ティクヴァで、オムニバスの「パリ、ジュテーム」を別にすれば前作の「パフューム ある人殺しの物語」がこけ、その前の「ヘヴン」も興行成績としては大したことはなかったはずで、なんとかここら辺で興行的にも当たりが欲しいところだが、「バンク」も今のところ大した成績は上げられないまま、どうやら消えて行きそうだ。実は「バンク」のようなハリウッド・アクションもちゃんと撮れるじゃないかと見直したので、あとはうまく当たりをつかむだけだと思うが、もちろんハリウッドではそれが一番難しいのは言うまでもない。


それでもアクション、特にニューヨークのグッゲンハイム美術館でのガン・バトルは手に汗握らせてくれた。むろん本当に内部であんなことやらせてくれるはずないだろうからセットだろうが、それでも世界中からよりすぐった芸術品に囲まれた中でドンパチするのは、破壊願望を疼かせて、ほとんど自虐的というか、顛倒した満足感を抱かさせてくれる。そのグッゲンハイム・アクションで、暗殺者に扮するブライアン・オバーンもよい味を出している。なんかその一匹狼の暗殺者ぶりが、「ボーン・アイデンティティ」でオーウェンが演じた暗殺者を思い出させる。あんたらはきっと似た者同士だ。それにしても「ミリオン・ダラー・ベイビー」の神父役がここでは暗殺者か。道理でなんか自分の職業にやたらと理屈をこねると思ったよ。








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