The Innocents (Les Innocentes)


夜明けの祈り (ジ・イノセンツ)  (2016年7月)

先々週見た「インデペンデンス・デイ: リサージェンス (Independence Day: Resurgence)」等、最近のハリウッド大作への反動もあって、今週はインディ系の作品、しかもできれば外国語映画が見たいなと思って、それに絞って探していて見つけたのが、「ジ・イノセンツ」だ。


第二次大戦後の荒れたポーランドの雪深い冬の世界、それも修道院が舞台らしい。最近の熱波でやられ気味の、身体にも頭にも涼を取り込むのにもよさそうだ。


などと軽い気持ちで出かけたのだが、映画が扱っている題材は軽くない。荒れた大戦時、兵士どもは侵略した土地を蹂躙し続けた。特にポーランドのような地理的に重要なポイントは、最初はナチス・ドイツに侵略され、やっと解放されたと思ったら、今度は助けに来たと思ったロシア兵からも蹂躙される。


特に女性は強姦される者が後を絶たず、それは聖域とされる修道院においてすら例外ではなかった。成人して一通り女性としての経験を積んでから修道女になる者もいるが、処女のまま修道女になる者も多いだろう。それらの修道女がレイプされ、結果として妊娠する。かといって中絶することもできない。しようと思ってもその知識や技術を持っている者は、修道院にはいないだろう。


とはいえ生むこともままならない。修道院のこととて、時には祝福されずに生まれてきた子が入り口の前に捨てられ、その子が院内で育てられるということはあるだろう。しかし今回は、ほぼ同時期に6人の修道女が出産予定なのだ。妊娠を隠し通せるものではない。そして事が発覚した場合、助成金や寄付、援助が切られ、院の経営が成り立たなくなる可能性は小さくない。というか、たぶんそうなるだろう。だから彼女らもそれを隠そうとする。これも神から与えられた試練なのか。


思い余った修道女の一人は、地域で活動していた赤十字の女医マチルドの元を訪れ、助力を乞う。しかし修道院の内部でもこのことを外部の者に知らせることに対しては反対の者も多く、さらには生まれてこのかた自分の裸をたとえ医者にでもあろうと晒したことはないという者もいる修道女を相手に、説得して足を開かせるのは容易なことではなかった。


しかし時間はたとえ神聖な場所であろうとなかろうと公平に進み、用意が万全であろうがなかろうが、臨月を迎えた修道女が次々と出産の時期を迎える。これを機に還俗を考える修道女もいれば、逆に余計に神にすがる者もいる。既にマチルド一人の手には負えない状況になっていた‥‥


滅茶苦茶出口のない話のようにも思えるが特に陰々滅々とした暗い話にならずに済んでいるのは、最後に解決策が示されること、および、やはり過程や原因が何であれ、生命が生まれてくるという、ただそのことが未来を感じさせるということが大きいように思える。


一昨年見たポーランド映画の「イーダ (Ida)」も第二次大戦を色濃く引きずっている作品だったが、「イノセンツ」もそうだ。「イーダ」はモノクロの映像で、「イノセンツ」はカラーだが、外はほぼ雪に覆われた世界、内側もほとんど派手さを排した修道院が主要舞台なので、「イーダ」同様白黒映画を見ているような気分にさせる。そういえば「イーダ」の主人公イーダも修道女だった。


現代でも時たまマンハッタンの街中で修道女を見かけることがある。うちの女房の勤め先はミッド・マンハッタンにあるため、わりとよくニューヨーク・ライブラリ裏のブライアント・パークでお弁当を食べたりするらしいが、募金箱を手にした修道女が募金のお願いに回ってきたりするそうだ。


ある時同じ修道女が二日連続で女房のところに来て募金をお願いしたことがあるそうで、女房は昨日募金したことだし、今日は勘弁してもらおうと思って断ったところ、女房の前から動く気配がない。なんだろうと思って顔を上げたら、その修道女は、あなたたちにとってはなんでもないことかもしれないが、皆協力し合わなければならないんだ、みたいなことを説教し始めたそうだ。


女房もびっくりして、あなたは私のことを覚えていないかもしれないけれども、私はあなたのことを覚えている。私はあなたに昨日募金したけれども、あなたはそのことを覚えてないでしょう? と尋ねると、その修道女は、えっ、しまったという顔になって、気まずそうにその場から去って行ったそうだ。修道女とて人間、神の使いを自認していても感情はあるし間違いも起こす。映画で最も大きな間違いを犯したのは院長だったと思うが、盲目的に一つのことだけに固執して他を認めないと、時と場所に最も適した判断が下せなくなる。











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第二次大戦後のポーランド。赤十字派遣の医者として働くマチルド (ルー・ドゥ・ラージュ) のところに、修道女が協力を求めてやって来る。尼は病んでいる者を連れてくるのではなく、マチルドに修道院に来てもらいたい、それも他者には秘密にしてもらいたいとの一点張りで、やむなくマチルドも根負けして修道院まで往診に出向く。患者は病気ではなく、臨月を迎えた妊娠している修道女だった。さらに妊婦は一人だけでなく、出産を目前に控えた修道女が何人もいた。彼女らは大戦時に、乗り込んできた兵士によって強姦され、結果として同時期に何人もの修道女が妊娠してしまったのだった。セックスなどもっての外の修道女が妊娠していることが公けになると修道院を潰されることにもなりかねず、院長を中心に修道女らはどうしても妊娠を明らかにはしたがらなかった。マチルドは必死に修道女たちの面倒を見るが、彼女とて事を赤十字に打診するわけには行かず、限界があった‥‥


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