The Immigrant


エヴァの告白  (2014年7月)

またまたポーランドだ。先週見た「イーダ (Ida)」は1960年代ポーランドが舞台で、ポーランド移民が主人公とはいえ1920年代ニューヨークが舞台の「イミグラント」とは場所も時代も異なるのだが、それでも別にポーランド映画祭を見に来ているわけでもないのに、ポーランド系アメリカ人ではなく、生粋のポーランド人が主人公 (演じている役者は必ずしもそうではないが) の映画に2週連続で当たるなんて普通はない。


映画は冒頭、主人公のエヴァとマグダが船を降りて、ニューヨークのエリス・アイランドの入国管理局を経てアメリカに入国しようとするシーンから始まる。フランシス・フォード・コッポラの「ゴッドファーザー Part II (The Godfather Part II)」において、まだ幼いドン・コルレオーネが自由の女神を見上げながら入国した時のシーンを思い出す。


そしたら、入国を果たしたエヴァが落ち着いた先は、どうやらヴィレッジ近辺の大したことのないアパートで、その間取りや狭苦しそうなところ、そしてなによりも光りの当たり具合い、ライティングがまさに「ゴッドファーザー Part II」そっくりなのだ。その椅子に座っているのがブルーノじゃなくてロバート・デニーロ演じるコルレオーネだとしてもまったく違和感なく画面に収まりそうで、ここまで似ているのは、明らかに意図的だろう。


映画が終わってのクレジットで撮影監督を見てみるとダリアス・コーンジーで、いかにもと思わせる。コッポラと撮影監督のゴードン・ウィリスが「ゴッドファーザー Part II」でやったことを徹底的に研究したんだろう。


演出はニューヨーク派のジェイムズ・グレイだが、ニューヨーク派はニューヨーク派でも正統? のウディ・アレンやマーティン・スコセッシとは異なり、グレイはマンハッタンではなく、常にその周縁を舞台にしている。これはグレイが実際にマンハッタンではなく、川向こうのクイーンズ育ちであることと大きく関係しているに違いない。


イタリア系のスコセッシがマンハッタンのリトル・イタリーから映画を撮り始めたように、ロシア系のグレイはロシアン・コミュニティのあるブルックリンのブライトン・ビーチで「リトル・オデッサ (Little Odessa)」を撮り、その後も「裏切り者 (The Yards)」、「アンダーカヴァー (We Own the Night)」、「トゥー・ラバーズ (Two Lovers)」と、舞台はすべてブルックリンかクイーンズで、マンハッタンには近寄らない。そのことが、ニューヨーク派ではあっても、グレイに独特のカラーを与えている。主人公はほとんど常にはぐれ者であり、身近な成功した人物を羨望の目で見ている場合が多いという構図は、明らかにマンハッタンと周辺の5ボロー との関係に相似している。


そのグレイが今回、初めてマンハッタンを舞台にし、さらにその上時代ものだ。とはいえ、やはり話はエリス・アイランド周辺を回遊し、簡単にはマンハッタンに着地終結しない。アメリカに入国したばかりのエヴァだけでなく、ブルーノもオーランドも実は居心地はあまりよくなさそうだ。成功したように見えるブルーノは屈折した感情を内側に抱えているため、むしろよけいに部外者的な疎外感を強調する。逆にオレは余計者だからと割り切ってニューヨークを離れようとするオーランドの方が気軽にそういう境界を飛び越えていきそうだが、やはりグレイ作品ではそうは簡単には問屋が卸さない。結局グレイ作品の登場人物は、常に中心を迂回することを運命付けられている。


ところで、この映画の邦題ってもう決まっているのかと思って調べて、既に今冬、日本で公開済みなのを知った時には驚いた。地元ニューヨークですら限定公開で、しかもほとんど誉められていない上に無視されているという印象の方が強い作品だ。コティヤール、フェニックス、レナーという癖のある玄人好きのする役者が出てはいるし、演出のジェイムズ・グレイという名も映画好きにはそこそこアピールするだろうが、 うーん、これは、やっぱりフェニックス絡みか? しかしグレイがフェニックス主演で撮った前作「トゥー・ラバーズ」は日本ではお蔵入りになったみたいだし、とするとコティヤール主演の女性映画ということで推されたんだろうか。レナーだって筋金入りのファンはそこそこいそうではある。ロシア系移民が20世紀初頭のニューヨークを舞台にポーランド人女性を演じるフランス人を主人公にして撮った映画が、日本で先に公開されるか。











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1921年。エヴァ (マリオン・コティヤール) はポーランドから妹のマグダと共にアメリカに移民としてやってくる。しかしマグダは船の中で体調を崩し、結核の疑いのためにエリス・アイランドで隔離病棟に入れられる。さらに出迎えてくれるはずの叔母夫婦も姿を見せず、このままではポーランドに送還されるところを、窮状を見兼ねたブルーノ (ホアキン・フェニックス) が身元引き受け人となってエヴァを入国させる。ブルーノはダウンタウンのヴォードヴィル・ショウの責任者であり、身寄りも収入の当てもないエヴァは、嫌々ながらもショウに出演し始める。興行柄酔客も多く、周りからのプレッシャーと金のため、エヴァが身体を売り始めるまでにそう時間はかからなかった。エヴァはなんとかして妹を見つけようとエリス・アイランドで開かれている座興のショウに潜り込み、そこでマジックを披露していたオーランド (ジェレミー・レナー) と出会う。実はオーランドはブルーノの従弟で、ブルーノと揉めてショウを追い出されていたのだった‥‥



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