The Imitation Game


イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密  (2015年3月)

アカデミー賞にもノミネートされるなど誉められており、ロング・ランしているこの映画、これまではちょっとタイミングが合わず見逃していた。このままでは本当に見れずに終わってしまう、この辺で手を打っておかないと、と、わりと遠目の小さなマルチプレックスに見にいくことにする。


このマルチプレックス、各々の小屋がすごく小さいのだが、驚いたことにそれでも近年のラグジュアリー化の波に乗り遅れまいと、座席がリクライニング化していた。小さな面積に無理に座席を詰め込んだという感じで、せいぜい20席くらいしかない。小屋の内部そのものは古い感じがするのに、座席のみが新しい。しかも狭いところにでかいリクライニング・シートをぎゅう詰めにしているので、端っこの方なんか、あれ、どう見てもシートがスクリーンを向いていない。あれじゃ逆にスクリーン見にくいんじゃないだろうか。


ま、リクライニングだから、一番前の席は思い切り背もたれ倒せば見やすいというのはあるだろう、なんて思いながら我々夫婦は一番後ろに陣取って、私もリクライニングを倒して、思わず後ろにそのまま後転するかと思った。最近はいろんな劇場でリクライニング・シートに座っているが、今回のこのシート、フル・フラットどころか、180度以上後ろに傾く。要するに既に壊れてる。それで倒れるがままに後ろに思い切りもたれかかったら、もう少しで一回転して転げ落ちそうになった。スクリーンが見やすいどころか、見えるのは天井ばかりだ。それでも、まあ、調節すればリクライニングの方が見やすいことは確かだ。


さて、今回、昨年暮れからほぼ同時期に第二次大戦ものが2本かかっていた。一本がこの「イミテーション・ゲーム」で、もう一本がアンジェリーナ・ジョリーが初監督した「アンブロークン (Unbroken)」だ。「イミテーション・ゲーム」は今でも公開中であることを見てもわかるように、かなり好評だ。


一方、「アンブロークン」は、公開される直前まではわりとマスコミからも取り上げられていたが、公開された途端、ぷっつりと評判を聞かなくなった。大戦中に乗っていた爆撃機が太平洋に墜落し、何十日間も漂流した挙げ句日本軍の捕虜となり、数々の拷問に堪えながらも生き長らえて生還した不屈の男を描く話だそうだ。私も最初興味ないではなかったが、この映画、実際に見た者の評判がよくない。散漫で的が絞れてなく、いたずらに残酷なだけ、というネガティヴな意見の方が多い。さらにそれまではあんなに取り上げていたマスコミが鳴りを潜めた。アカデミー賞のほとんどの部門からも無視されたところを見ると、やはりそういうものだったんだろう。


私個人の意見を言うと、実際に予告編を見てから興味をほとんどなくした。なぜかという明確な印象は言葉にし難いのだが、なんというか、はずしていそうな雰囲気がぷんぷん伝わってきたから、と言うしかない。だいたい、戦争もので飛行機の編隊が飛んでいるシーンをあからさまなCGで撮ってよしとする映画のできがいいわけがない。そう思っている最中にネガティヴな意見ばかり耳にしたから、興味をなくした。


それに較べて「イミテーション・ゲーム」は、公開してからますます評価を高めていった。とはいえ、この映画、第二次大戦ものではあるが、特に戦闘描写があるわけではなく、銃後の世界を描くドラマだ。そして確かによくできたドラマだとは思うが、これが特にアカデミー会員に支持されたのは、主人公がゲイで唯我独尊で友だちのないマイノリティだったからに違いないと思う。


今年のアカデミー賞で、「イミテーション・ゲーム」で脚色賞を受賞したグレアム・ムーアが、ティーンエイジャーの頃自分が世界と相容れないことに苦悩して自殺を考えたとスピーチしていたが、映画の主人公アラン・チューリングも多かれ少なかれ似たようなものだろう。チューリングの場合は自分が周りの者より頭がいいという自負があるから、それでも若い頃はその矜持と若者特有の傲慢さで相手をバカにすることで、相対的に自分は偉いんだと自分を納得させていた。


しかしそれでも、結局社会性のないことが何かを埋め合わせるということには、最終的にはならなかった。今ならかなりの確率でアスペルガー症候群という診断が下るところだろう。一説によるとアスペルガーには天才が多いそうだ。やはり幼い頃人と相容れなくて一人ぼっちだったというトマス・エディソンは、長じて世界的発明王になった。チューリングの不運は、ナチの暗号通信エニグマを解読するというそれこそ世界平和に通じる偉業を達成することになっても、機密上その事実を公にするわけには行かないことにあった。業績が誰も知らないまま終わることで、彼の鬱屈した自尊心は、ただただ内向して捌け口を見い出せずに終わらざるを得ない。これじゃ誇り高い男の心的ストレスは解消されないだろう。さらにチューリングは、当時まだまだマイノリティで、虐め迫害の対象となっていたゲイだった。


ハリウッドにゲイが多く、多くユダヤ人が仕切っていることから来る孤立性は、今に始まったことではない。そういうマイノリティの才能を率先して受け入れてきたからこそ、いまだにハリウッドは世界に君臨できていると言える。「イミテーション・ゲーム」は、確かによくできた作品だとは思うが、映画のそういう部分がアカデミー会員に共鳴してアピールした気がしてしょうがない。


主演のカンバーバッチは、昨年結婚したことが報道されていたので、彼自身はゲイではなかろうが、映画の中で両手をちょこちょこ動かしながら走るシーンは、かなりゲイっぽい。あれはゲイの走り方を研究したんだろうかそれとも自前か。なんでも自分がゲイということを隠して隠れ蓑結婚をするカップルも噂ではかなりいるらしいし、異性と付き合って初めて自分がゲイと気づく者も特にハリウッドには多いらしいので、ちょっと勘繰ってしまう。











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アラン・チューリング (ベネディクト・カンバーバッチ) は数学の天才ではあったが、人付き合いが下手で、幼少の頃からよく虐められていた。クリストファーだけが唯一とも言える友人だった。戦時下となり、オックスフォードを卒業したアランは、英軍の面接を受ける。その仕事は、解読不可能と言われるナチス・ドイツの暗号通信であるエニグマの仕組みを解明するという途方もないものだった。唯我独尊のアランは、上層部や仲間たちと時に衝突するが、チームの唯一の女性メンバーのジョーン (キーラ・ナイトリー) というよき相談役ができたことで、少しずつ暗号解読は前進していった。しかし遅々とした歩みに業を煮やした軍上層部は、この計画を白紙に戻そうとする‥‥


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