The Homesman


ザ・ホームズマン  (2014年12月)

週末にさて今日は何を見に行くかとネットをチェックしている時、普通、最初に目にするのは上映している映画のポスターだ。しかし「ザ・ホームズマン」は、そのポスターの画像が現れないことで最初に注意を惹いた。外国映画だと稀にポスター画像が現れない場合もあるが、メイド・イン・アメリカの映画でしかもポスターがないなんて、よほどマイナーな作品以外ではない。だいたい、「ホームズマン」ってなんだ? そんな単語、アメリカに住んで20年以上経つが一度も聞いたことがない。これじゃなんの映画か皆目見当もつかない。 

  

というわけで自分から調べて初めて、これがトミー・リー・ジョーンズが演出主演の西部劇であることを知る。それにしても、12月の頭の段階ではIMDBにすらポスター画像がなかった。それなのに出ている面子に目を通すと、ジョーンズを筆頭に、ヒラリー・スワンク、メリル・ストリープ、ウィリアム・フィクト ナー、ジョン・リスゴー、グレイス・ガマー、ミランダ・オットー、ジェイムズ・スペイダー、ヘイリー・スタインフェルド、バリー・コービン等々、大物から曲者まで錚々たる面々だ。それなのにポスターすら準備されていないという、そのマイナーさ加減にまた興味を惹かれる。 

  

映画は冒頭、たった一人で馬と共に広野を耕す、スワンク演じる主人公カディの描写で幕を開ける。いきなり、なんか久し振りにこういう地平線らしい地平線を見たような気がする。そうそう、西部劇ってのはこうじゃなくっちゃ、さすがジョーンズ、わかってるなと安心する。 

  

カディは進取の気性に富む女性で、一人で土地を手に入れ、開墾していたが、かつて趣味で弾いていたピアノを得ることはかなわず、ピアノがあったとしても、それを聴かせる相手もいなかった。気立ても悪くなかったがお世辞にも美人とは言えず、言い寄ってくる男もなく、知り合いの男に思い切って自分の方から結婚を口にしてみても、あんたと結婚する気はないと一言の下に却下される。 

  

その年は去った厳しい冬の名残りや疫病の流行等、環境が厳しく、町で3人の女性が精神に異常を来たす。一人は多くの家畜と子供を一人亡くし、もう一人は自ら子供を便所に投げ捨てる。もう一人はほとんど毎日のように家庭内レイプされ続け、そしてそれぞれが精神に変調を来たしたのだった。 

  

隣りの州のアイオワにそういう女性たちの面倒を見てくれる教会があるが、男たちはただでさえ忙しく、その上及び腰で頼りない。カディは自ら女たちを馬車でその場所に連れて行くという、割りの合わない仕事に志願する。しかしやはり女性一人だけでこの仕事を遂行するには荷が重すぎ、カディは途中、勝手に人のいない家に入り込んで住み暮らし、ばれてリンチを受け首に縄をかけられたまま捨て置かれ、死ぬ寸前だった小悪党のブリッグスに遭遇、命を助けることと交換に馬車行きの同道と協力を約束させる。意外にも口にしたことは守るブリッグスは、途中カディと何度かやり合うことはあっても、約束通り女たちを保護しながら一路東を目指す。しかし季節は冬になろうとしており、道行きは日に日に厳しさを増していく‥‥ 

  

それにしてもネブラスカだ。昨春の「ネブラスカ (Nebraska)」 を例に引くまでもなく、ネブラスカというとただただ冬の寒さだけが厳しそうな場所だ。それなのにわざわざ、というわけでもないが、その冬に外に出るロー ド・ムーヴィが「ネブラスカ」であり、「ホームズマン」だ。結局西部劇とはロード・ムーヴィの別名に他ならない。寒い雪の中をウマに乗って山を越えなけれ ばならず、そしてクルマに乗っていてすら、わざわざ窓を開けて冷たい風に当たったり、あるいはヒーターが効かなかったり故障していなければならない。 

 

因みにホームズマンというのは、ウィキペディアによると移民を自国に送り返す者のことを言うそうで、辞典に載っている普通に用いられる単語ではないようだ。 現代ならなんでホームズウーマンがないんだ、ポリティカリ・コレクトでホームズパーソンにしろという輩が出てくるのは必至だろう。 

  

ここでは移民を送り返すというより、ある地点から目的地まで護送するというような意味合いで使われており、そのホームズマンの一人カディに扮するのが、ヒラリー・スワンクだ。スワンクは確かクリント・イーストウッドの「ミリオン・ダラー・ベイビー (Million Dollar Baby)」で2回目のオスカーを獲った時、メリル・ストリープに対してあんたは私の演技の神様だと壇上から述べていたが、今回その神様との共演が実現している。とはいっても惜しむらくは二人が一緒の絵に収まるシーンはなく、実際にはニアミスというのが実状だが、二人が会って話す機会はあったんだろうか。そのストリープは、 実娘のガマーとも共演、精神に異常を来たしたガマーの世話をするという設定がいやはやなんとも。 

  

その他にも印象的な出演者が目白押しで、聖職者のドウドに扮するジョン・リスゴー、農夫のウィリアム・フィクトナー、流れ者のティム・ブレイク・ネルソン、町民のバリー・コービン等、特に出番が多いわけではないのにもかかわらず印象に残る。ジェイムズ・スペイダーの偽善者ぶりは、現在NBCで出演中の「ザ・ブラックリスト (The Blacklist)」と比較して見るとなおさら面白い。ブリッグスが発作的に求婚するのはヘイリー・スタインフェルドで、「トゥルー・グリット (True Grit)」のあの子が結婚する歳になったか。 

  

誰も話題にしているのを聞いたことがないわりには楽しめるよくできた作品だと思うが、たった一つネックを述べると、カディはまったく面白味のない魅力のない女性という設定に説得力がないという点がある。どう見てもカディは充分魅力的だろう。なんで彼女の方から言い寄って、それでも男から拒否されないといけないのか。とはいえ、まあここで本当に魅力のない女優をキャスティングしてしまうと映画が成り立たないだろうから、下手に顔やスタイルだけで選ぶわけにもいかなかっただろうが、しかし、うーん、難しいよなあ。 











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ニューヨークからネブラスカに移り住んできたメアリ・ビー・カディ (ヒラリー・スワンク) は30代の寡婦で、広い土地を持って農業を営み、自立していたが、やはり女性一人の暮らしは楽ではなく、夫が欲しいと思っていた。その年は家畜に伝染病がはびこるなど特に環境は厳しく、生活に追い込まれた3人 の主婦がそれぞれ精神に異常を来たす。遠く離れたアイオワの町の教会でそういう女性たちの面倒を見てくれるというが、なにぶんどこも人手が足りず、男たち は面倒が嫌で彼女らを連れて行くのを渋る。女性たちの逆境を見ていられぬカディは、自分から馬車に乗って女性たちをアイオワに連れていくことに志願する。 カディは途中、リンチを受け殺されそうになっていた小物の悪党のジョージ・ブリッグス (トミー・リー・ジョーンズ) に遭遇、彼女を手助けすることを交換条件に縄を解いてやる。二人は共同で東を目指すが、季節は冬になろうとしており、道程は厳しかった‥‥ 


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