The Greatest Showman
グレイテスト・ショーマン (2018年2月)
The Greatest Showman
グレイテスト・ショーマン (2018年2月)
「グレイテスト・ショーマン」は、ニューヨークでは毎年の恒例行事として人気のあるリングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカス巡業の由来を脚色した、家族向けのミュージカルだ。とはいえ、サーカスは近年肩身が狭く、人気が落ちている。
というのも、サーカスは近年、動物虐待として動物愛護団体から非難されているからだ。家族向けエンタテインメントとして売っているサーカスが動物虐待として非難されるのは、いかにも収まりが悪い。これでは親が子供たちをサーカスに連れて行くのを渋るだろう。
一方サーカスが動物虐待として非難され始めたのは、ここ数年のことに過ぎない。サーカスを動物虐待とする視点自体は昔からあったと思うが、それが多数を占めるようになったのは近年のことだ。そういう時代の趨勢なんだろう。
実際の話、サーカスや動物園の動物は、よく見ると目が死んだように生気がない場合がよくある。この傾向は大型動物に多く、暗い動物の目にあてられて逆に気分が沈んでくるため、私も長じては動物園には行かなくなった。サファリ・タイプの放し飼い的な施設ではこういうことはないから、やはり狭い場所に常に閉じ込められていることが問題なんだと思う。サーカスの場合は、それに長時間の移動という問題が常につきまとう。動物のメンタル・ヘルスにいい影響があるわけがない。
さらに、シルク・ドゥ・ソレイユに代表される、動物を使わない新サーカスやパフォーマンスの台頭が、従来の旧態依然のサーカスの衰退に拍車をかけた。こういう逆境を受けて、リングリング・サーカスは目玉の演目と言えたゾウやトラ、ライオンを使うパフォーマンスを廃止すると発表した。その結果、客足はさらに遠のき、昨年、サーカスはついに廃業を発表、1世紀以上におよぶサーカスの歴史に幕を降ろした。残念といえば残念だが、たとえ虐待とは言えなくとも、自分から率先して芸をしたいはずのない動物に芸を仕込むというのは、やはり時代にそぐわないという印象は払拭し難く、動物を使うサーカスは遅かれ早かれ消えて行く運命だったと思う。
いずれにしても、アメリカを代表するサーカスがなくなって大して時間も経ってないのに、そのサーカスの由来を描く作品が公開される。撮影は一昨年から昨年にかけてくらいだろうから、興行に終わりを告げたサーカスを偲ぶという意味合いではなく、まだまだ続いていくと思われたサーカスを新たに現代的な解釈のミュージカルとして提出するという意図があったのだと思うが、タイミング的にはかなり皮肉と言わざるを得ない。
あるいは、サーカスの廃業という点以外に関しては、作品内で描かれる人種やマイノリティの描き方は非常にポジティヴで時宜を得たものであり、今風だ。P. T. バーナムが最初に成功したのはサーカスというよりも見世物であり、それはマイノリティの矜持を復活させるものというよりは、貶めて観客がそれを蔑んで楽しむという体のものだった。
それが「グレイテスト・ショーマン」では、ディスアビリティ、ディスアドヴァンテイジという負のイメージが、それを気にしない、立ち向かい、払拭するという前向きな姿勢に置き換えられている。こちらの方は、今度はMeeTooムーヴメントと軌を一にするという時勢と合致することで、ポジティヴなメッセージを発信し、人々から受け入れられている。この点だけを取り上げれば、絶好のタイミングで公開されたとすら言える。そういう、公開時期が作品にとってよかったのか悪かったのかよくわからない、微妙な作品が「グレイテスト・ショーマン」だ。
一方、ミュージカル・パフォーマンスだけを見ると、「グレイテスト・ショーマン」はかなりできがいい。前半のアパートの屋根の上で、干されているシーツを背景にしたヒュー・ジャックマン、ミシェル・ウィリアムズと子供たちの「ア・ミリオン・ドリームズ (A Million Dreams)」は、なんか「メリー・ポピンズ (Mary Poppins)」を彷彿とさせ、楽しい気分にさせるし、ジャックマンとエフロンのバーでの「ジ・アザー・サイド (The Other Side)」もできがいい。これらはまた、前面には出てこないが効果的なCGの使い方も好感が持てる。果たしてあれだけのシーツを夜露に濡れたままにするわけがないとも思うが、それは考えるまい。
主題歌でもある「ディス・イズ・ミー (This Is Me)」も圧巻だし、ジェニー・リンドの歌う「ネヴァー・イナッフ (Never Enough)」は、今度はほとんどCGを使わず、歌だけで聴かせて素晴らしい。扮するレベッカ・ファーガソンが本当にこれを歌っているのか、だとすると本職はだし、彼女はシンガーとしてもやっていけると思っていたが、さすがにこれは吹き替えで、歌っているのはローレン・オールウッドだ。知らないなと思って調べてみたら、NBCの「ザ・ヴォイス (The Voice)」の第3シーズンのファイナリストの一人だった。ライヴ・パフォーマンスに入って最初のエピソードで落ちているのでまったく記憶に残ってなかった。「ヴォイス」は元プロやセミ・プロ級が出てきて歌うので皆うまく、よほどのことがない限り出演者を覚えていられない。
演出はヴィジュアル・エフェクツ出身のマイケル・グレイシー、曲はNBCの「スマッシュ (Smash)」、一昨年の「ラ・ラ・ランド (La La Land)」のベンジ・パセックとジャスティン・ポール。どちらもツボを心得ているという感じ。
P.T.・バーナムは幼い時、仕立て屋の父と一緒に出向いた仕事先の家の少女チャリティに恋をする。成長した二人はチャリティ (ミシェル・ウィリアムズ) の親の反対を押し切って結婚する。キャロラインとヘレンの二人の娘をもうけ、ニューヨークでつましいながらも幸せな生活を送っていたがが、P.T. (ヒュー・ジャックマン) は常に人から見下されて使われる立場が嫌で、なんとかして一旗揚げようと考えていた。P.T.は見せ物小屋が繁盛すると考え、蝋人形館をオープンするが、人が入らない。しかし生きている芸人や異形の者がショウに出始めると、話題を呼んでショウは新しいサーカスとして大成功する。さらに事業を大きくしたいP.T.は、新しいパートナーとしてフィリップ・カーライル (ザック・エフロン) を仲間に引き入れる。事業は順調に拡大するが、サーカスを一段下に見ていたフィリップの家族らは息子のことを快く思っていず、また、フィリップにも多少それを恥じる気持ちもあった‥‥
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