A&Eの「ベイツ・モーテル (Bates Motel)」のフレディ・ハイモアが、今度は自閉症の医師という役に挑戦するのが、「ザ・グッド・ドクター」だ。
「ベイツ・モーテル」でハイモアが扮したのは、かのノーマン・ベイツの息子であり、マザコンに強迫神経症的な要素が入り込んだ、要するに危ない青年だった。そのハイモアが今回扮するのは、今度は自閉症の若い医師だ。共に他人とのコミュニケイションがとても下手というのだけは共通している。これだけ癖の強い難しそうな役をあてがわれるというのも、ハイモアの演技力の高さを証明しているとも言える。
自閉症というのは文字通り自分の殻の中で世界を構築してしまうので、他人とのコミュニケイションが下手か、あるいはほとんど興味がない。しかし自分の世界に没頭する集中力の高さがプラスに出ると、ある分野においては非常に秀でた才能を示すことがあり、そういう状態はサヴァン・シンドロームと呼ばれる。よく挙げられる例としては、写真のように見たものを記憶するという驚異的な記憶力や、速算力等がある。「レインマン (Rain Man)」でダスティン・ホフマンが演じた主人公が、サヴァンという設定だ。
「グッド・ドクター」の主人公ショーンもそういうサヴァンの人間で、幼い頃から生物に興味を持ち、医学を志して来た。直感的に患者の病状を把握して対処、治療することにかけては天才的な冴えを見せるが、やはり他人とコミュニケイションをとるのは下手で、外科的な判断は天才的でも、内科の問診的なものは不得手だ。
それまでショーンのメンターとして何かと面倒を見ていたグラスマン医師は、自分の働く病院にショーンを推薦する。しかし医学校を出たばかりで実績もなく、しかも自閉の若い医師を同僚として迎えたがる者は、誰もいなかった。
病院にインタヴュウに向かうショーンは、空港で怪我をした少年に遭遇する。たまたま近くに医者がいて止血や応急手当てを施すが、ショーンはその医者が子供にために大人とは違う部位を押さえていることに気づき、それを指摘すると共にあり合わせのものを使って応急の救命措置を施す。
さらにショーンは患者が運ばれ、自分もインタヴュウを受けるセント・ボナヴェンチャー病院で、怪我した少年の心拍に微妙に異常が見られると指摘し、手術を成功に導く。一方、ショーンが空港で少年を救った行動は、近くで撮影していた者の手によってすぐさまネット、TVで流れ、それを見た医師たちも同意することで、ショーンは晴れて医者として病院に迎え入れられる‥‥
ショーンは自閉/サヴァンであるがゆえに他の普通の医者がでは見えないものが見え、判断でき、そして身の回りのあり合わせのものを使って応急の救命装置を即興で作り出すことができる。医者自身が優れてはいても精神的肉体的にどこかに欠点を抱えているという設定は、製作総指揮のデイヴィッド・ショアがかつてFOXで製作放送していた「Dr. ハウス (House, M.D.)」と同様の設定だ。医者だからといって心身共に必ずしも健康だとは限らない。医者の方にも問題があるからこそドラマが生まれる。考えたら手塚治虫の「ブラック・ジャック」もそうだった。
一方、番組はショアのオリジナル・アイディアというわけではなく、韓国産の「グッド・ドクター (Good Doctor)」というオリジナルがある。先シーズンまでCBSの「ハワイ・ファイヴ・オー (Hawaii Five-O)」に出ていたが、ギャラ問題で番組を降りた韓国系のダニエル・デイ・キムがプロデューサーの一人なのは、そのためもあるだろう。
ハイモアは「ベイツ・モーテル」でのノーマン役が結構板についていたが、こうやって見ると、まだ成長しきってない自閉という感じもわりとよく出ている。サイコパスの次は自閉の医者か。本当に演技派のようだ。あり得なさそうな設定をちゃんとドラマにしている「グッド・ドクター」が今シーズンの新番組で最も成績がいいという話を聞くと、なるほどと納得させられる。
