The Gift

ザ・ギフト  (2001年1月)

ケイト・ブランシェットとサム・レイミの名に釣られて、ブランシェットが霊感を持つ女性を演じるというホラー、「ザ・ギフト」を見てきた。実は「クイック・アンド・デッド」を見て以来、レイミの名は私のAリストからは外れており、おかげで「シンプル・プラン」も見ていないのだが、ブランシェットはやはり見てみたい。今回のような田舎者も、上流階級のゴージャスな役も、同じレヴェルの説得力でこなせるのは彼女くらいのものだろう。アシュリー・ジャッドやウマ・サーマンもいい線いっていると思うし、きっとシャーリーズ・セロンもやらせれば彼女なりのおきゃんな貧乏人を造型してくれると思う。しかし、貧乏人、上流階級、共に地のように見せきれるという点で、やはりブランシェットは傑出している。


今回ブランシェットが演じるのは、夫に先立たれ、貧窮生活を強いられながらも3人の男の子を育てている寡婦アニー。彼女は人の見えないものが見える霊感(ギフト)を持っており、カードを使って人々の未来を占ってやることで、僅かながらの収入を得ていた。ある日、息子の担任ウェイン(グレッグ・キニア)の婚約者ジェシカ(ケイティ・ホームズ)が行方不明となり、アニーは彼女が近くの池の中に殺されて沈められていることを知覚する。その池の所有者はドニー (キアヌ・リーヴス) で、アニーはドニーに殴られてばかりいる妻のヴァレリー(ヒラリー・スワンク)を占ってやったこともあって、ドニーとは折り合いが悪かった。果たしてジェシカは本当に池に沈められているのか、警察は半信半疑ながらも重い腰を上げて池の捜索にかかる‥‥


ブランシェットの凄い点は、まったく貧乏人のように貧乏人が演じられるということに尽きる。例えばジャッドやサーマンは貧乏人の役をやらせても悪くないのだが、彼女らはいいものを着せていいものを食べさせてやりたい気にさせる。以前はいい暮らしをしていたかのような気位の高さや、いつかはその逆境から抜け出していきそうな上昇志向が感じられるのだ。ところが、ブランシェットが貧乏人を演じた場合、骨の随まで貧乏人というような、死ぬまでこの暮らしから抜け出すことは多分不可能だろうと思わせる自然さがあるのだ。もちろんそういう貧乏人の役ができるのがブランシェットただ一人だけだとは言わない。例えばアンジェリーナ・ジョリーが額に絆創膏を貼って背中に子供をおんぶしているようなところを想像すると、メチャはまりそうだなと思う。しかし、それと同じ説得力でイギリスの女王役もこなせるのは、やはりブランシェットしかいないだろう。


私は「クイック・アンド・デッド」ではレイミにがっかりしたと書いたが、しかし「シンプル・プラン」はなかなかのできだったらしい。それよりもレイミの出世作となった「死霊のはらわた」のホラー3部作と「ダークマン」シリーズは、それを作ったことでその後のレイミの監督作に注意を払い続けるだけの価値がある、とは私の同僚の弁である。


レイミが業界内からも注目されていることは、この演技陣を見れば一目瞭然だろう。ブランシェットを筆頭に、オスカーをとって注目されているヒラリー・スワンク、最近出演作が目白押しのキアヌ・リーヴス、 「60セカンズ」でいい味出してたジョヴァンニ・リビシ、 「ドーソンズ・クリーク」 「ワンダー・ボーイズ」のケイティ・ホームズ、 「ナース・ベティ」で実力を証明したグレッグ・キニアと、実に見映えがする。この中では、「60セカンズ」に次いでまたもや少々頭の足りない役がはまっているリビシが最も印象に残った。また、 「イフ・ディーズ・ウォールス・クッド・トーク2」でのミシェル・ウィリアムスに続いて、同じく「ドーソンズ・クリーク」出身のホームズも脱いだ。彼女らはティーンエイジャー向け番組から大人向け作品への脱皮を図って、色々と模索しているように見える。


リーヴスは、最初なんであんたがこんなところにまで出ているのと思ったが、何にも期待していなかったおかげで楽しめた。実は私はリーヴスをこれから「マトリックス」シリーズ以外で見たいとはまったく思わないのだが、喋らない、太らない、演技をしようと思わない、の3ない主義でいってくれるならば、あの美しい顔である、愛でる分には申し分ない。ただし今回はヒゲを生やしているので、その分ちょっと残念。ブラッド・ピットもそうだが、アメリカの男優はどうしても自分をマッチョに見せたがる傾向が強くて困る。人々が求めているのはそういうものではないのに。


結局私は、レイミの演出よりもやはりブランシェットに感心して帰ってきた。この人の醸し出す雰囲気というのは、やっぱり群を抜いている。ホラーなのだが、怖かったというよりも感心して帰ってくるというのは作り手にとっては心外かもしれないが、とにかく私にとってはそうだった。しかし私の女房は、もしかしたら作品をぶち壊したかもと心配だったリーヴスが意外と好演したのが一番嬉しかったらしく、それがなにより満足だったと言っていた。やはり彼は女性ファンを劇場に呼ぶことができるようだ。







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