The Gambler


ザ・ギャンブラー  (2014年12月)

今年最も話題になった映画は、「ハンガー・ゲーム (The Hunger Games)」の最新作「マネシカケスの少女 (Mockingjay)」でも「ホビット 決戦のゆくえ (The Hobbit: The Battle of the Five Armies)」でもない。年末公開のソニーの「ジ・インタヴュウ (The Interview)」だった。


「インタヴュウ」は北朝鮮のキム・ジョンウンを暗殺しようとする男たちを描くコメディで、当然の如くキムの逆鱗に触れた。その報復として配給元のソニーにサイ バー・アタックを開始、インターネットのサイトもハックして、もし映画が公開されるようなことがあれば物理的なテロ攻撃も辞さない旨威嚇した。この一連のサイバー・アタックは、北朝鮮が自分たちがやったと認めたり声明を出したりしているわけではない。というか自分たちは関係ないと白を切っていた。しかしFBIは北朝鮮の犯行であると自信を持って発表しており、実際の話そこまでしつこくソニーを敵視する理由があるのは北朝鮮以外考えられないため、私も裏にいるのは北朝鮮と考えてまず間違いないだろうと思う。結局ソニーは万一何かあった時に責任が取れないと、「インタヴュウ」公開を自粛せざるを得なかった。


可哀想なのはとばっちりを食った面々で、ソニー経営陣のeメイルがハックされて公表されてしまったため、外部には絶対漏 らしたくない内部事情が暴露された。特にアンジェリーナ・ジョリーを甘やかされた無能女と酷評したのがばれたプロデューサーのスコット・ルディンやエイミー・パスカルは、さぞ気まずい思いをしたに違いない。むろんジョリー本人も憤懣やる方なかったに違いないが、ジョリーの場合、ちょうど初監督に挑戦した 「アンブロークン(Unbroken)」が公開される時期と重なったため、思わぬ宣伝となって、特に誉められているわけではないのにかなりいい興行成績を 上げていた。


しかし紆余曲折を経て最も利を得たのは、最初最も理不尽な仕打ちを受けたかに見えた「インタヴュウ」だった。パリのイスラム急進派によるチャーリー・ヘブド襲撃事件でもそうだったが、欧米諸国は基本的人権を侵害されると、徹底して抵抗する。それは「インタヴュウ」においても変わらず、言論の自由に関しては、とにかくこれを擁護する。「インタヴュウ」公開無期延期が発表になると、威嚇に屈せず公開を求める声があちらこちらから上がった。


ソニーも最終的にこれに答え、同調するインディペンデント系の映画館が名乗りを挙げ、限定公開が実現し、さらにインターネットでもストリーミング公開された。そのため、上映された館数は特に多くはなかったのにもかかわらず、普段は特に映画を見ない人が、言論の自由を守るためと称して劇場に足を運んだり、金を払ってストリーミング視聴したため、ほとんど普通に公開された場合と同じくらいかそれ以上の興行成績を上げた。


実際問題として作品のできは、見た人によると、まあできはともかくフリー・スピーチは守らないとね、という意見がほとんどだったので、今回の事件はむしろ興行的にはプラスに作用したという感触が強い。普通に公開されていたら、酷評されてあっという間 に劇場から消えたに違いない。今回の北朝鮮の過剰反応は、むしろ寝た子を起こしてしまったというか、大きな宣伝効果をもたらす逆効果になった。塞翁が馬というか漁夫の利というか風が吹けば桶屋が儲かるというか、物事はどこでどう転ぶかわかったもんじゃないなと思わされた今回の顛末だった。


私も言論の自由を守りたい気持ちは山々だが、しかし、だからといってまったくそそられない予告編を見た後で金と時間を浪費する気になれない。やっぱコメディって難しい。正直言ってこれなら「チーム・アメリカ: ワールド・ポリス (Team America: World Police)」の方がまだかなりましという印象しか持てず、ソニー、すまん、しかし業界には貢献するからと、「インタヴュウ」のかかっていないマルチプレックスに、「ザ・ギャンブラー」を見に行ったのだった。


ところで私は、実は「ギャンブラー」がリメイクであることにまったく気がつかなかった。ジェイムズ・カーンが主人公を演じたカレル・ライス演出の1974年のオリジナル「熱い賭け/ザ・ギャンブラー」は、まったく記憶にない。見てないという記憶すらなく、要するにこういう映画があったことをまったく知らなかった。だから当然今回も、ウォールバーグがギャンブラー か、ふーん色々挑戦してんだなあとしか思ってなかった。


ウォールバーグ兄弟は、マークに限らず、仕事という点に関しては真面目に取り組んでいる。兄弟の末弟ポールは、長兄ドニー次兄マークと異なりボーイズ・バンドのニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックで歌ってはいないが、 地元ボストンのレストラン、ウォールバーガーズ (Wahlburgers) のシェフとして、現在A&Eのリアリティ・ショウ「ウォールバーガーズ」に出演、こちらも結局メディアで顔を売っている。ドニーは現在CBSの人 気警察ドラマ「ブルー・ブラッズ (Blue Bloods)」で事実上主演だ。ドニーはさらにA&Eで新婚のジェニー・マッカーシーとの生活に密着するリアリティ・ショウ「ドニー・ラヴス・ ジェニー (Donnie Loves Jenny)」なる番組にまで出演しており、A&Eは現在ウォールバーグ家の個人所有チャンネルと化しつつある。


さて「ギャンブラー」だが、マークが扮しているのは大学の英文学の教授だ。これまでとはかなり印象の変わるホワイト・カラー・ジョブで、これがぴたりとはまっているかどうかは微妙なところだが、こんな教授、いないこともないかもしれないと思わせる部分もあり、役幅を広げようとしているのがよくわかる。


さらにオリジナルはチェコ生まれで英国映画界出身のライスがアメリカで撮った作品ということで、ヨーロッパの香り芬々とした作品であったに違いなく、今回のルパート・ワイアット演出、ウォールバーグ主演版においても、ハリウッド映画でありながらなにやらヨーロッパ的な雰囲気がそこかしこに感じられる。ワイアットの前作「猿の惑星: 創世記 (ジェネシス) (Rise of the Planet of the Apes)」では特にヨーロッパ風という印象を持たなかったから、今回のこの雰囲気の醸成は、やはりオリジナルに依っているものだろう。


特に、人が理屈によって動かない、ロジックではなくエモーションによって行動していると感じられるところが、アメリカではなく、ヨーロッパ的な印象を与えている。それなのに大きなスポーツ・ギャンブルはバスケットボールだ。これがサッカーだったりしたらもっとヨーロッパ風な印象が強くなるに違いない。また、 ベネットが金を借りるのは、最初はアジア系、次は黒人、そして白人、自分の母 (白人) と、これまた人種が入り乱れていかにもアメリカ的だ。これはオリジナルではどうだったんだろう。70年代に果たしてアジア系の金貸しがハリウッドにいたろうか。











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ジム・ベネット (マーク・ウォールバーグ) は大学で英文学を教えているが、同時にギャンブル中毒でもあり、どうしてもアンダーグラウンドの賭場に行っては金をすってしまう。そうやって賭場を経営し ているアジア系のギャングへの借金は嵩むばかりだった。ベネットは黒人ギャングのバラカ (マイケル・ウィリアムズ) からも借金し、ますますドツボにはまる。二進も三進も行かなくなったベネットは、最後の手段として金持ちの母 (ジェシカ・ラング) から、ほとんど親子の縁を切るように金を借りるが、結局それもすってしまう。バラカはベネットの教え子の一人で、バスケットボールのスターであるラマー (アンソニー・ケリー) に八百長させれば借金を帳消しにしてやると持ちかける。ベネットは、今度はフランク (ジョン・グッドマン) から金を借りようと画策するが‥‥


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