The Forest


JUKAI -樹海- (ザ・フォレスト)  (2016年1月)

本当はクエンティン・タランティーノの新作、「ヘイトフル・エイト (The Hateful Eight)」を見に行こうと思っていたのだ。そしたら、上映開始時間をチェックしていざ家を出ようとして、なにげに作品の長さを見たら190分となっていてぶっとんだ。3時間10分って、そりゃなんだ。B級ウエスタンだろう、もちろんだからといって必ずしも短い必要はないし、タランティーノのことだ、今回も2時間超え、2時間半はしょうがないかと腹は括っていたつもりだったが、しかし、3時間超えは、いくらなんでもそれはないだろう。


だいたい、こちらは映画を見て、ちょっと買い物して、晩ご飯の準備をして、という段取りを頭の中に思い浮かべながら一日の予定を立てている。既に昼過ぎで、映画が2時間あまると厳しいな、飼いネコのためにペット・フードを買いに行く時間ないかもと思っていて、これから3時間の映画なんか見てたら、それだけで一日が終わってしまう。


それで、本当に3時間超えかとIMDBをチェックすると、デジタル・ヴァージョンが167分、70mmが187分と、二通り表記されていた。要するにフィルムの肌触りが好きなタランティーノはどうしてもフィルムで撮りたく、70mmで撮って、現在ではアナログの映写機がない映画館も多いため、デジタル版もあるということのようだ。


それにしても70mmか。70mmというと、歴史もの、なかでもウエスタンというのは、確かにある。なんとなれば70mmというのは、画面の両端に人が立って銃で撃ち合いする時に最も適した比率だからだ。むろん最初からタランティーノはそれを考えて70mmを選んでいるはずで、そういう決闘シーンがどこかに入るのは間違いない。しかし、とすると、こちらも見るならやはり70mm版を見るしかない。3時間超えか。あー、頭が痛い。どうしよう。


と考えていて、今回はとにかく、これじゃ他に予定していたことがまったくできない、後回しだ、と、90分の「ザ・フォレスト」になったのだった。まったく心休まる長さだ。


とはいえ評価的にはまったく、というかほとんど無視されている「フォレスト」を見る気になったのは、もちろん予告編で、登場人物が「立入禁止」と記された山の中に入っていくシーンがあるのを見たからだ。これってたぶん、「The Juon/呪怨 (The Grudge)」「シャッター (Shutter)」のように、日本を舞台にしたハリウッド・ホラーだろう。


TVでも数年前にSyFyが、日本が舞台という設定の「グレイヴ・ハロウィーン (Grave Halloween)」というオリジナルTVホラーを放送している。ただしこのTV映画は、舞台は日本、しかも山梨ということになってはいたが、明らかにアメリカで日本を模して撮っていた。和製ホラーのハリウッドでのリメイク・ブームは一段落したようだが、日本を舞台というリメイクではないオリジナルのホラーが、実際に日本で撮られるようになったか。


「シャッター」は後半は富士の麓の樹海近辺が舞台だったが、「グレイヴ・ハロウィーン」も、はっきりと指定されていた記憶はないが、舞台は山梨であり、自殺の森というのが樹海を意味しているのは間違いないだろう。そして「フォレスト」も、タイトルが示すように富士の麓の森が舞台だ。Aokigaharaは、Suicide forest、すなわち自殺の名所として、海外でもよく知られる地名となりつつある。


サラは双子の妹ジェスが青木ヶ原で消息を絶った、たぶん覚悟の自殺だろうという知らせに、とるものもとりあえず日本に向かう。昔から強い絆で結ばれている二人にとって、ジェスが死んだらわからないはずはない、ジェスはまだ生きているという確信が、サラにはあった。


サラは富士の麓でジャーナリストのエイデンと出会う。彼は青木ヶ原樹海に関する本を書こうとしており、サラに道案内を申し出ると共にその話を書いてもいいという了承を得ることは、二人にとって悪くない話だった。二人と、そして地元で最も樹海に詳しいガイドのミチは、ジェスを探して樹海に足を踏み入れる‥‥


主人公のサラ/ジェスの双子の二役に扮するのは、ナタリー・ドーマー。私的には最近ではCBSの「エレメンタリー (Elementary)」でジョニー・リー・ミラー扮するシャーロック・ホームズの恋人兼仇役アイリーン・アドラーに扮した時の印象が強いが、一般的にはHBOの「ゲーム・オブ・スローンズ (Game of Thrones)」のマージェリー・タイレル、もしくは「ザ・ハンガー・ゲームズ (The Hunger Games)」のクレシダ役等の、ファンタジー系での方が知られているだろう。


彼女に絡むジャーナリストのエイデンに扮するテイラー・キニーは、NBCの「シカゴ・ファイア (Chicago Fire)」で、サラの恋人のロブに扮するオーエン・マッケンも、NBCの医療ドラマ「ザ・ナイト・シフト (The Night Shift)」でそれぞれ主人公格だ。


日本でロケした作品には定番の、新宿の靖国通りのネオン街のシーンなんかがあって、外国でこういうシーンを見ると、思わず里心ついてしまったりする。とはいえ青木ヶ原にあるツーリスト・インフォメーション・センターのような施設の外観は、どう見ても和中折衷で、こんな建物、実際に日本で見たことないという、西洋の視点から見た日本、というかアジア的な建物だ。ま、これは日本に限らず、ハリウッド映画ではアメリカ以外のすべての国でこういうアメリカ化が行われる。そうやって青木ヶ原も世界のAokigaharaになっていく。






  




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サラ (ナタリー・ドーマー) は、日本で英語を教えている双子の妹のジェスが行方不明になったという連絡を受ける。感情の起伏の激しいジェスは、過去に発作的に自殺未遂を起こしたこともあり、今回も一人で青木ヶ原の樹海に入ったことが確認されていたことから、自殺したと思われた。しかし双子ならではの強い絆で結ばれているサラは、ジェスは死んでいない、死んでいたらわかる、ジェスを助けなければならないと日本に飛ぶ。サラは地元に滞在しているオーストラリア人ジャーナリストのエイデン (テイラー・キニー) の知己を得、熟練したガイドのミチ (ユキヨシ・オザワ) を紹介してもらう。翌日樹海でジェスのテントを発見したサラは、日が暮れてもホテルに戻らず、自分だけその場に残ると主張、エイデンもやむなく付き合うが‥‥


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