The Dark Tower


ザ・ダーク・タワー  (2017年8月)

よく映像化不可能な超大作、問題作という歌われ方をする小説、特にファンタジー系の作品があったりするが、「ザ・ダーク・タワー」はもろにその系統に属する作品だろう。 

 

スティーヴン・キングによる原作は、キングがたまにやる分冊タイプで、これまでキングが書いてきた話に登場する人物が交錯する、キング・ワールドの集大成的な長い話だそうだ。30年以上にわたって書き継がれてきた話をたかだか2時間弱にまとめた映像化は、それでも異次元、終末、超能力、少年少女、マン・イン・ブラック、ガンスリンガー等、出てこないのは怪獣くらいかという、様々なイメージがごった煮になった世界が展開する。 

 

とにかく人を食っていると言うかなんというか、え、なんで? という設定がてんこ盛りで、それを言っちゃあ始まらないのはわかっているが、それでも、呆っ気にとられる展開が多い。それでも、観ている時はそれなりに楽しんで見ていたりもするのだが、家に帰って反芻してみると、やっぱキングの考えることってよくわからんと頭を振ってみたりする。 

 

いずれにしても内容がかなり端折られていることは間違いないので、調べてみると、「ダーク・タワー」は分冊も分冊、1982年から2012年まで断続的に8冊が発表されている。しかも話の時間軸順に発表されているわけではないため、第1章から第7章まである話に、後から書いた話が第4章と第5章の間に加わって第4.5章となり、都合8冊となった。さらに、他に書いた話も登場人物が被るということでプロローグ的に「ダーク・タワー」の一部となり、第0.5章となった。なんというか、マーヴェル・コミックスの「アベンジャーズ (Avengers)」の入り乱れたシリーズを一人で書いてみるみたいだ。 

 

ついでに言うと主人公格のガンスリンガー、ローランドは、スパゲッティ・ウエスタン時代のクリント・イーストウッドがモデルになっているそうだ。なるほどとは思うが、しかし、それでも、なぜ向こうの世界にマニュアル弾込めのリヴォルヴァーを持つキャラクターがおり、しかもこちらの世界のニューヨークのガン・ショップに現れて弾丸を買っているという説明にはならない。こいつは金を払ったのか。あちらの世界に通貨という概念はあるのか。そもそも、あちらの世界でも同じ規格の銃弾を使っているのか。 

 

考えれば考えるほど、ほとんどギャグになりそうな展開だ。実際このシチュエイションで私が思い出したのは、エディ・マーフィの「星の王子ニューヨークへ行く (Coming to America)」だ。別世界からニューヨークに来た場違いな男。 

 

とはいえ、ではそれがエキサイティングではないかというと、そういうこともない。たぶんロウワー・マンハッタンで、いきなり時代錯誤的ガンスリンガーがリヴォルヴァーぶっ放す。道行く人の顔が引き攣るだろう。それはそれで確かに興奮させないこともない。問題はそうなる文脈だ。イメージとしてはまったく悪くないけれども、その理由付けはやっぱり必要だろう。さもなければ今の時代、いきなり路上で銃をとり出せば、NYPDに囲まれて問答無用で撃たれて殺される可能性の方が大きい。 

 

一方、イメージ優先でマンハッタンで拳銃ドンパチやらかした「ジョン・ウィック (John Wick)」という例もあるので、一概に「ダーク・タワー」は時代錯誤とか支離滅裂とか非難する気にも実はあまりなれない。「ダーク・タワー」だってアクションは頑張っている。 

 

こちらの世界では、ミッド・ワールドへ繋がるゲイトはなぜだかほとんどニューヨークにある。ブルックリンの人の住まない一軒家にもある。全身黒ずくめの悪の化身マシュウ・マコノヒーが、私の勤め先のすぐそばにあるフラット・アイアン・ビルの前を横切って行く。「ダーク・タワー」がご当地映画だったとは知らなかったので、それはそれでまた楽しいのだった。つい先頃公開されたご当地映画であるはずの「スパイダーマン: ホームカミング (Spider-Man: Homecoming)」より、異界を描く「ダーク・タワー」の方がよほどニューヨークを描いていて親近感を持ってしまう。 










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ニューヨークに住む11歳の少年ジェイク (トム・テイラー) は、全身黒ずくめの男が世界を滅亡させるという幻視に悩まされていた。母と義父はジェイクを特別な学校に入れようとする。しかしその学校からジェイクを引き取りに来たという男女は、ジェイクの夢に現れる、世界を滅亡させようとする者たちの一味だった。ジェイクはその場から逃れ、いつも夢に出てくる家がブルックリンにあるという情報を得てそこに向かう。その家は、ミッド・ワールドと呼ばれる異世界に繋がる中継地だった。ミッド・ワールドに飛んだジェイクは、夢の中に出てきたガンスリンガー、ローランド (イドリス・エルバ) に助けられる。ローランドは黒ずくめの男ウォルター (マシュウ・マコノヒー) に父を殺され、そして宇宙を統べるダーク・タワーを破壊して、この世に混乱と無秩序をもたらそうとしていた。この世界のニューヨークを訪れたウォルターは、ジェイクの家を訪れ、ジェイクが一人でダーク・タワーを破壊することのできる、並外れた力を持つ少年であることを悟る‥‥ 


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