放送局: HBO
プレミア放送日: 4/16/2000 (Sun) 22:00-23:00(全6回)
製作: ブラウン・デッドライン・プロダクションズ/Blown Deadline Prods.、ニー・ディープ・プロダクションズ/Knee Deep Prods.
製作総指揮: ロバート・コールズベリー、デイヴィッド・ミルズ、デイヴィッド・サイモン
製作: ニーナ・コストロフ・ノーブル、アントニア・エリス
監督: チャールズ・S・ダットン
脚本: デイヴィッド・ミルズ、デイヴィッド・サイモン
原作: デイヴィッド・サイモン、エドワード・バーンズ
美術: ヴィンス・ペラニオ、スーザン・ケッセル
撮影: アイヴァン・ストラスバーグ
編集: ビル・パンカウ
音楽: コリー・ハリス、ヘンリー・バトラー
出演: T. K. カーター(ゲイリー・マッカラー)、カンディ・アレクサンダー(フラン・ボイド)、ショーン・ネルソン(デアンドレ・マッカラー)
物語: ボルティモアの貧民街で暮らすゲイリーは、かつては証券ブローカーとして羽振りのいい生活をしていたときもあったが、今ではヘロイン中毒となり、落ちぶれた生活を送っている。要領が悪く、なにかと貧乏くじを引いてばかりいるゲイリーは、せっかく手に入れたヘロインも前妻のフランに騙しとられ、知り合いの家に忍び込んで金目のものを盗もうにもせいぜいが冷蔵庫を盗んで叩き売りするのが関の山で、人ん家の床下から金属パイプを外し盗ってはそれをクズ鉄屋に入れて小銭を得るのがせいぜいという、本当にどん底の底辺を彷徨っていた。ドラッグ・ディーラーとして生計を立てている息子のデアンドレがゲイリーのあまりの窮状を見かねてくれたヘロインも、使用する前にコップの一斉検挙で捕まってしまい、ゲイリーは今日の生活さえままならなかった‥‥
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フィラデルフィア州ボルティモアは、アメリカでも最も所得の低い、従ってドラッグが横行するやばい街である。アメリカで消費されるドラッグの多くがこの街を通過すると言われている。ブルース・スプリングスティーンのミュージック・ヴィデオ「フィラデルフィア」を思いだしてくれれば、それがほとんどボルティモアと思ってもらって差し支えない。もちろん街のすべてがそういうやばいところというわけではなく、バリー・レヴィンソンが描くところの人情味の残る古い街という部分も併せ持っているわけだが。
そのボルティモアの貧民街に生きる人々(ほとんどが黒人である)の生態を描き、話題となったのがデイヴィッド・サイモン、エドワード・バーンズ共著のノン・フィクション「ザ・コーナー: ア・イヤー・イン・ザ・ライフ・オブ・アン・インナー・シティ・ネイバーフッド (The Corner: A Year in the Life of an Inner-City Neighborhood)」である。番組はこの原作を基に、著者の一人であるサイモンが製作総指揮および脚本も担当して製作されており、ボルティモアのある一角(コーナー)で日々の生活にもがく主人公ゲイリー、前妻フラン、息子のデアンドレの3人を中心に描く。サイモンは同様にボルティモアの暗部を抉り出した刑事ドラマ「ホミサイド」の原作者としても知られている。
「ザ・コーナー」は、番組の作り手が登場人物にカメラの後ろから語りかけ、街角でインタヴューを行なうという体裁で始まる。カメラは360度パンし、何をするでもなく周りにたむろする人々を映し出す。私は最初、この部分を実際の街並みを見せるためだけに挿入された、ストーリー自体とはまるで関係のない単なる導入部だと思っていた。だって、被写体に質問している作り手の声が聞こえるし、ふうん、彼がこの番組にも出るのかなあと思っていたら、実は番組はもう始まっていて、実はこの被写体こそがこの番組の主人公ゲイリーであり、いつの間にやら作り手の声は聞こえなくなり、カメラは主人公を追っているという展開なのであった。いやあ、色々皆工夫するなあ。
それにしても番組はドラッグが日常と化している低層階級の市民の生き様をこれでもかという感じで見せる。その中で人々はお互いに助け合い、時には騙し合って細々と生きているのだ。主人公ゲイリーは特に要領が悪く、何をやってもうまく行かず、本当に見てるとこちらまで段々暗くなってくる。ああ、あんなところに生まれないでよかった。ゲイリーは煙草銭にも事欠いており、やっとのことで調達したクオーター(25セント硬貨)を持って、近所のグローサリー・ストア (雑貨屋)でなんと煙草を1本だけ所望したりするのだ。
この、煙草1本クオーターというのはアメリカ中どこでも定着しているようで、私もマンハッタンの街角で煙草をふかしてて、1本クオーターで売ってくれと頼まれたことが何度かある。こないだユニオン・スクエアで声をかけてきたばばあは、とりたてて風采が悪いというわけでもなく、ホームレスにも見えなかったのだが、わざわざ煙草1本を売るというのもなんだかなあと思って、いいよ、1本くらいやるよと言ったら、自分はホームレスじゃない、ちゃんと金を出して買うと言ってるんだと怒りだしたので閉口してしまった。だったら人から1本ずつ買うんじゃなくて、ちゃんとニュース・スタンドで1箱買えよと思ったのだが、まだホームレスになりきっていない彼(女)らは、たとえ1本ずつでも自分の金を出すというところに最後のプライドを持っているようだ。
登場人物に扮する俳優は顔を見ても誰も知らないなあと思っていたら、なんとフランに扮するカンディ・アレクサンダーは「E.R.」のベントン医師のお姉さんの人だった。ひえー、化けるなあ。全然気がつかなかった。「ザ・コーナー」では常時目の下にクマを作っているドラッグ・アディクト(中毒者)で、それが自然に見えるのだ。ドラッグ・アディクトの役が自然体でこなせて全然違和感がないというのは怖い。デアンドレに扮するショーン・ネルソンは94年のブラック・ムーヴィーの佳作「フレッシュ」で主人公の12歳のドラッグ・ディーラーを演じている。こんなに大きくなっちゃって。こちらもまったく気がつかなかった。監督のチャールズ・S・ダットンは俳優出身。色んなところで見た記憶があるのだが、それが何だったか思い出せない。実際にボルティモアのこの辺りの出身なのだそうだ。彼の名が出てくる時は必ずと言っていいほど代表作として「Roc」が引き合いに出されるのだが、91年のシリーズであるこの番組は残念ながら私は見たことがない。
