The Company Men


ザ・カンパニー・メン  (2011年2月)

これまで順風満帆に思える生活を送ってきたボビー (ベン・アフレック) は、ある日出社した時に上司に呼ばれ、クビを宣告される。会社重役のジーン (トミー・リー・ジョーンズ) と個人的に繋がりのあるボビーは、会社の業績が悪化しているとはいえ、まさか自分が整理の対象になるとは夢にも思っておらず事態を楽観視していたが、世の中はそう甘くはなかった。再就職の道を探すが簡単に次の職は見つからず、ついにポルシェも家も手放さざるを得なくなる。ボビーは妻マギー (ローズマリー・デヴィット) の兄ジャック (ケヴィン・コスナー) を頼って建築現場で肉体労働の仕事を回してもらうが、これまでブルー・カラーの仕事をしたことのないボビーは、足手まといくらいにしか思ってもらえない‥‥


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実はこの映画、昨夏くらいからずっと間歇的に映画館で予告編を見せられている。もうそろそろ公開かなと思っていたらその度毎に同じ予告編をずっと見せられたまま、ここまで来てしまった。


もちろんこれは黄信号だ。今イチなので何度も編集し直したか、あるいは最初はいいできだと思ったがなんだか自信がなくなったので、オスカー狙いの自信作が集まる年末を敢えて外したかのどちらかだろう。昨秋には主演のベン・アフレックのもう一方の監督主演作「ザ・タウン (The Town)」が公開されたので、それとの競合を避けようとしたのかもしれない。


アフレック演じる主人公ボビーは、フォーチュン500にも載る大企業で中間管理職として働いていたが、この時節、大企業といえども経営は苦しい。しかし副社長のジーンとコネのあるボビーは、それでも自分の安泰を信じて疑わなかった。それがある日出社すると呼び出され、クビを宣告される。


さらに簡単に従業員のクビを切るサリンジャー社長 (クレイグ・T・ネルソン) のやり方に賛同しないジーンですら、段々社長とそりが合わなくなってくる。そのジーンの腰巾着的存在だったフィル (クリス・クーパー) もまた。不況の折り、ボビーの再就職活動はうまく行かない。そしてフィルもついにクビを切られる‥‥


クビを切られた会社員を描く話をというと、思い出すのは昨年の「マイレージ、マイライフ (Up in the Air)」だ。これはクビを切られた社員ではなくクビを通達する専門家を描くものだったが、どちらにしてもドラマはついて回る。こちらの方はクビを切られた一サラリーマンの失意と再生を描く話で、わりといい話なのだが、あまり話題になっていないのは、ちょっと時宜が合い過ぎて、同様の境遇にいる人間には、見るには辛すぎるからかと思ったりもする。


こういう時だと、人がクビを切られる話というのは、自分の立場でなくてもツライ。私が勤めているところも近年業務縮小を余儀なくされるなど状態は楽ではなく、実際、他人事とは思えない。うちの女房のところなんか、勤めていた日系企業がアメリカから撤退したために、会社自体がなくなってしまった。それでもなんとか私の首はまだ繋がっているし、女房も再就職先を見つけられたことを喜ぶべきなんだろう。それでも、サラリー・アップなんか夢のまた夢だ。


アメリカの日系企業には、「駐在」というポジションがある。アメリカ支社に将来の幹部候補を数年の予定で送り込んで社会勉強させ、見聞を広めさせようというシステムだ。これが現地採用者から蛇蝎の如く忌み嫌われるのは当然だ。なんせ元より腰かけ的な意味合いでしかないため、業務に深入りせず、現地業務をやっと覚えたと思う頃に本社に戻れという辞令が下りる。現地採用者はまた新しい駐在に一から同じことを教えなければならない。


もちろん将来の幹部候補であり、皆いい大学を出ているのだが、それでも流暢に英語をしゃべれる者の方が少ないから、仕事があると現地採用に頼るしかない。それなのに肩書きでは駐在の方が上だから、給料は駐在の方が圧倒的に高い。平気で倍以上の差がある。それで仕事をしているのはこっちだけだ。営業だとよく二人一組で回らされることがあるが、現地採用は駐在とペアを組まされることを死ぬほど嫌がる。足手まといにしかならないからだ。10人に一人、使える駐在がいればいい方だろう。さすがに仕事は接待ゴルフと食事だけ、毎日午後にならないと会社に来ないという大名駐在の話は最近は聞かなくなったが、それでも、駐在は現地採用者にとって目の上のたんこぶでしかない。


とまあ、駐在について長々書いたのも、実はその駐在こそ、一番「カンパニー・メン」に近い境遇になりやすいかもなと思ったからだ。駐在で海外派遣されるからには、だいたい基本的に大卒でその企業に入って一筋という人間がほとんどだろう。だからこそ幹部候補として抜擢される。愛社精神もそこそこ持っていると思われる。しかし、そういう会社にも平等に不況は訪れる。将来の幹部候補、現段階での中間管理職だって安泰ではないのだ。


実際に、女房の勤めていた会社に駐在がいたのだが、この時節、本社でも空いているポストがなく、呼び戻せなくて結局ヨーロッパに行かされ、最終的に日本に帰ったものの、お門違いの部署で役職なんて名目だけのヒラ扱いになってほとんど鬱状態になり、結局辞めたというやつがいる。


映画ではボビーは仕事ができるというよりも、会社役員の一人であるジーンとの繋がりが強いために現ポストにいるという感触が濃厚だ。そのため、ジーンが出張中に呼び出されてクビを宣告される。次はほとんどジーンの腰巾着的存在で、こちらは明らかに仕事よりもコネの強さで会社にいるフィルだ。さらには現役員のジーンすら基盤が揺るぎかねない事態になる。なんというか、アメリカも日本もそんなに変わんないという感じだ。アメリカだってコネ入社もあれば使えない上司もいる。


主人公ボビーを演じるのがアフレックで、ここでは他人の映画でもあり、演技だけを担当している。「ザ・タウン」が好評だったわりには、演技の面で評価されたのは主演のアフレックではなく共演のジェレミー・レナーただ一人だっただけということからもわかる通り、アフレックは演出はともかく、自身の演技力が図抜けているというわけではない。しかしアフレックの強みは演技力というよりも、スーツを着てのホワイト・カラーもヘルメットを被ってのブルー・カラーも、どちらもそれらしく見えるという点にある。スーツ着てポルシェを運転してもそれらしく見えるし、メット被ってツール・ベルトしてハンマー片手に力仕事してもそれらしく見える。


盟友のマット・デイモンも、新作の「アジャストメント (The Adjustment Bureau)」でスーツにネクタイの政治家、「ヒアアフター (Hereafter)」ではサイキック上がりの港湾労働者、「インビクタス (Invictus)」ではラガーマンと、それこそ八面六臂の活躍をしているのだが、スーツ姿も労働者も、体格のいいアフレックの方が様になる。これは演技力云々の問題ではない。とはいえ、デイモンはいつかオスカーもとれると思うが、アフレックにその可能性があるとは思えない。


「カンパニー・メン」ではアフレックと共にクリス・クーパーが出ているのだが、この二人、上記の「タウン」でも共演している。しかも「タウン」ではクーパーは、刑務所入りしているアフレックの父という役どころだった。それが「カンパニー・メン」では神経の細い使えない上司だ。彼もかなり役幅広い。この二人の上にいる会社役員のジーンに扮するトミー・リー・ジョーンズを含めた3人が、主要登場人物だ。


意外な人物として、ボビーの義父役でケヴィン・コスナーが出ている。近年は出演作というよりも、昨年のBPオイル漏れの時に、自作だか何だかのオイル回収機を持って人前に現れ、回収作業の仕事を請け負おうとしてなにやら契約の際にトラブり、確か誰かから訴えられるかしていたというのが最も最近の記憶だ。一応俳優業もこなしていたようだ。彼も頭の薄くなり具合がうまくブルー・カラー・ジョブとマッチしている。演出は「ER」のジョン・ウェルズ。


小粒だがそれなりに見どころのある「カンパニー・メン」の、最大の欠点というかうまくない点が、登場人物の人間関係の端折られ方だ。たぶん、脚本の段階ではちゃんとわかりやすく描かれていたものが、冗長さをなくそうと編集で切りまくったためにこういう風になったんじゃないかと思うのだが、なんというか、途中でいきなり人間関係が飛ぶ、という印象を与える。


特にその印象を大きく受けるのが、ジーンと、会社でクビを通達するポジションにいるサリー (マリア・ベロ) で、この二人、いわゆる不倫しているのだが、そのことについての説明は一言もない。むろん見れば一目瞭然だからそれはわかるが、話が進んでくるとジーンの妻がいきなりいなくなり、ジーンが家を出てサリーと同棲していると思える展開になる。が、しかしそれでもその状態について前置きや説明があるかというと、まったくない。いきなりとあるシーンからさも当然のようにそういう描写になる。あまりにも不親切で、見ればわかるからというより、明らかにそういう展開になる描写をカットしたとしか思えない。つまり、説明的な要素を後から切りまくったんじゃないかと思える展開が多々ある。そうやって冗長になる印象を防ごうとしたのだと思うが、あちらを立てればこちらが立たなかった。








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