「ザ・シカゴ・コード」は2月から始まった番組だ。なかなか印象的な出だしで面白く、この番組、どうしよう、書こうかどうしようかと迷っているうちに時間が経ってしまい、それで、もういいや、時宜を逃してしまったようだからもうパス、と思っていた。
そのうち視聴率も漸減し、FOXも諦めたのだろう、放送中の全13話限りで番組はキャンセル、との発表があった。やっぱり、と思いながら残りのエピソードもつき合って、結局最後まで見たわけだが、実は最後、ちゃんと盛り上げて終わる。むろん番組が続いた時のために第2シーズンまで引っ張ろうと思えば引っ張れる終わり方になってはいたが、それでもちゃんと話の辻褄つけて、一応のけじめはきっちりとつけていた。
その、最後のクライマックスが、最近では実に痛快、というか溜飲を下げる印象的な終わり方になっていて、さすが「ザ・シールド (The Shield)」のショーン・ライアン、面白いものを作るなあと思わせられた。
女性警官のテレサは、制服勤務時代に、パートナーとして勤務したジャレクと一緒に数々の勲功を上げ、出世の階段をとんとん拍子に駆け上がり、シカゴ史上初の女性署長に任命される。彼女の究極の目的は、シカゴを腐敗させ、悪の巣窟にした現職の市長オールダーマン・ギボンスの悪事を暴き、権力の座から追放して裁きを受けさせることにあった。
ギボンズはもちろんテレサの野望を感づきながらも、たかが女とテレサをなめていた。実際、テレサが街のダニを一掃するために市に要求したプランは、ギボンズによって一蹴される。そんな折り、市が発注する大型建築で不正を発見した女性が殺される。一見強盗殺人のように見せかけ、本当は口を塞ぐためだったのは明らかだった。
しかしやっとのことでとらえた黒幕は、ギボンズは襲撃を臭わせただけと証言する。これではギボンズに逮捕状を取ることは不可能だった。そして別件のラテン・ギャング絡みで、テレサと護衛のアントニオが襲撃される。テレサは助かるが、彼女を守るために楯になったアントニオは命を落とす‥‥
正直言って見る前の最大の心配は、果たしてジェニファー・ビールスがシカゴ警察署長に見えるかどうかということだった。特に今シーズン、CBSの「ブルー・ブラッズ (Blue Bloods)」で、トム・セレックが現実のニューヨーク市警察署長のレイモンド・ケリーより貫禄があるところを見せて印象を残しているのでなおさらだ。因みに前署長のバーナード・ケリックは脅しの利く強面で、なかなかNY市警のトップとして相応しい面構えという感じがしたが、現実では脱税で有罪判決を受けている。シカゴで同様に強面の警察署長を演じるデルロイ・リンドーが、後ろ暗いことをやっているのは当然という気がする。
それに対するビールスは、ちょっと線が細すぎるのではないかという危惧はあった。ビールスの最近の作品というと、「ザ・ウォーカー (The Book of Eli)」、あるいはショウタイムの「Lの世界 (The L Word)」、FOXの「ライ・トゥ・ミー (Lie to Me)」辺りが思い浮かぶ。改めて見直すとわりと活躍しているようだ。「シカゴ・コード」では、もう少し肉がついているくらいでちょうどよかったと思うが、実は別に悪くない。逆に、製作者としては視聴者に最初頼りなさそうな感じを意図的に与えといて、話が進むにつれタフになっていくという感じが出るように意識していたものと思う。実際、わりと成功しているんじゃないか。
一方、テレサの元パートナーのジャレクに扮するジェイソン・クラークは、最初から一匹狼的タフなコップとして造型されており、こっちは最初からどんぴしゃりとはまっている。ショウタイムの「ブラザーフッド (Brothehood)」はよかったが、映画では「デス・レース (Death Race)」、「パブリック・エネミーズ (Public Enemies)」と、本領発揮というには程遠い使われ方だったので、今回は思う存分やっているという感じ。
そして忘れちゃならない悪徳市長ギボンズを演じるデルロイ・リンドーが、実にいい。こういうのを見ると、やっぱり印象的な悪役がいてこそ正義の味方に意味があることがよくわかる。番組のキャンセルが既に発表されていなかったら、リンドーが今年のエミー賞に助演男優でノミネートされるのはほぼ確実だったのに。
さらにテレサが個人的にアンダーカヴァーとして潜り込ませたリアムに扮するのは、「ザ・ブラック・ドネリーズ (The Black Donnellys)」のビリー・ラッシュだ。そちらでも何をやっても失敗ばかりという冴えない役だったが、そういう頼りなさそうな点が、こちらでもアンダーカヴァーをやらせても、今にもばれて消されるんじゃないかとハラハラドキドキさせてくれる。
そして結局シリーズ・フィナーレとなってしまった予定では第1シーズンのシーズン・フィナーレでは、ギボンズ囲い込みに失敗したテレサが逆にギボンズからの逆襲を受け、辞任を余儀なくされる。一方、殉職したジャレクの兄は、実は裏で悪事を働いていたことが知れる。しかし自責の念に駆られた兄は、ギボンズの悪事の証拠を残していた。20年前の証拠とはいえ、犯罪に時効のないアメリカでは、れっきとした証拠が出ればたとえいつの犯罪だろうと有罪になる。
テレサの更迭にほぼ成功し、余裕で記者会見に挑んでいたギボンズの元にテレサとジャレクが姿を見せる。当然辞意の表明釈明のために現れたと思ったギボンズの後ろに手が回る。この辺りの逆転の快感はなかなか大したもので、かつてABCの「NYPDブルー (NYPD Blue)」で、現在「CSI: マイアミ (CSI: Miami)」に主演しているデイヴィッド・カルーソが弱者の味方の刑事を演じている時に、この種の爽快感を感じさせてくれたことがあったなと思いだした。逆に言うと、この種のしてやったりという快感は久しく味わってない。「シカゴ・コード」はなかなか得難い番組だったのだ。
「シカゴ・コード」は刑務所入りしてもなお威厳を崩さないギボンズを映して終わる。彼がこのままじゃ終わらないのは明らかで、第2シーズンがあったら、刑務所の中からなお屈服せずに配下に指示を出すギボンズと、テレサ/ジャレクとの血で血を洗う抗争に発展したのは間違いないだろう。視聴者は、作られることなく終わった「シカゴ・コード」のそういう展開を想像することで満足するしかない。