放送局: FOX

プレミア放送日: 6/14/2004 (Mon) 21:00-22:00

製作: マーク・バーネット・プロダクションズ

製作総指揮: マーク・バーネット、ジェイムス・ブルース、トレント・オシック、ロブ・リーバーマン

共同製作総指揮: コンラッド・リッグス、ジョン・フィースト

製作: ロイ・バンク、クリスチャン・ファーバー、キャサリン・ホール、ペリー・ロジャース、マーク・バーグ、オレン・クールス

共同製作: カーラ・ゴールドバーグ

出演: トム・ブレイトリング、ティム・ポスター


内容: トム・ブレイトリングとティム・ポスターがオーナーのラス・ヴェガスのカジノ/ホテル、ゴールデン・ナゲットの内部をとらえる。


_______________________________________________________________


近年、TVにおけるラス・ヴェガス=ギャンブルに対する熱い視線には、目を見張るものがある。シン・シティ (Sin City) ヴェガスは、最近ではギャンブルとしての名声だけでなく、避暑地として、避寒地として、ヴァケイション先として、あるいは様々なコンヴェンションの開かれる街として、老若男女にアピールする一大不夜城だ。


とはいえ、ヴェガスという街が、これまでTVでも多く描かれてきたかというと、決してそんなことはない。特に、ヴェガスというと誰もが即座に思い浮かべるカジノの内部にカメラが入ることを経営者が嫌い、さらに、ギャンブルを称揚することが教育によくないと考える教育熱心な保護者も当然多かったため、必然的に、ヴェガスはTV番組の舞台としてはあまりそぐわなかった。数年前に、MTVの人気リアリティ・ショウ「ザ・リアル・ワールド」がヴェガスを舞台に新しいシーズンを撮ろうという話があった時、ほとんどのカジノ・オーナーが難色を示したため、企画が立ち消えになったという話もあるのだ。


その風当たりが軟化してきたのは、CBSの「CSI」の成功がすこぶる大きいように思う。ヴェガスの捜査官の活躍を描く「CSI」は、ヴェガスのイメージの軟化に一役買った他、その他のヴェガスを舞台とした番組が後から後から現れてくる、ちょっとしたブームの先駆けとなった。「リアル・ワールド」が、後日、無事ラス・ヴェガス編を撮影できたのは、その時までに「CSI」がヒット番組として確立できていたことが大きいと思われる。


そして昨年、NBCがドラマ「ラス・ヴェガス (Las Vegas)」の放送を始め、ポーカー等のギャンブル中継がにわかに注目されるようになってくると、いきなりヴェガス・ブームの華開いた感が濃厚にする。特に、なぜ、今、ポーカーがこんなにブームになってしまったのかよくわからないが、いきなりネコも杓子もポーカーをTV番組として中継するようになった。


一番最初にこのブームに先鞭をつけたのは、たぶん、トラヴェル・チャンネルの「ワールド・ポーカー・ツアー (World Poker Tour)」だろう。この番組が登場するまでは、普通の人はポーカーに世界選手権があることすら知らない者の方が多かったのだ。これがかなり話題となった後、ブラヴォーの「セレブリティ・ポーカー・ショウダウン (Celebrity Poker Showdown)」が登場する。ベン・アフレック等のセレブリティがポーカー・フェイスを気取ってゲームに興じる様を中継したこの番組も、かなりカルト受けした。


そして、この種の単純なギャンブル中継が視聴率を稼げることに気づいた他のチャンネルが、次々に同様の番組を企画し始めた。実際、この種の番組の製作にあたっては、大掛かりな準備はいらない。元々ある場所を利用する場合が多いから、セットを組む必要すらない場合が多く、出演者がほとんど動かないため、専用の高級機材とかも使う必要がない。ほとんどド素人でも簡単に撮れるような番組で数字が稼げるならば、多くのチャンネルがその気になっても不思議はないだろう。


そのうち、ブームに乗り遅れまいとしたESPNやらFOXスポーツ・ネット (FSN) 等のスポーツ専門チャンネルまでもが、この種の番組を編成し始めた。いくらなんでもポーカーがスポーツか? さらに現在、ポーカーはもう頭打ちだと見たか、GSN (元ゲーム・ショウ・ネットワーク) が、「セレブリティ・ブラックジャック」なる番組の放送まで始めた。もちろんやるのはポーカーではなくブラックジャックである。これではもう、そのうちババ抜き選手権や7並べ選手権がTVで中継されるようになるかもしれない。


一方、ヴェガスの、そのカジノというシステム自体に焦点を当てた番組も登場してきた。それがこの「カジノ」だ。製作総指揮が「サバイバー」のマーク・バーネットとくれば、まあだいたいの予想はつくと思うが、当然主眼はエンタテインメント性に置かれている。このようにヴェガスを舞台とする番組が、ギャンブル中継であろうとドラマであろうと、カジノの裏側を暴くリアリティ・ショウであろうと構わずにどんどん出現してきたのは、やはり、ヴェガスという街に対して、人々が持っている認識が変化してきたことが最大の理由であるに違いない。今やヴェガスは、ディズニー・ワールドに勝るとも劣らぬ一大エンタテインメント・シティなのであり、その上、子供が寝静まった後は大人も遊べるという、正真正銘家族揃って楽しめる魅力的な街なのだ。この街を舞台にすることで、その訴求力の恩恵に少しはあずかろうというわけだ。


「カジノ」は、ヴェガスのカジノ・ホテルとして知られるゴールデン・ナゲットにカメラを持ち込み、その一部始終をとらえるというものだ。数年前にどのカジノのオーナーも尻込みしたカジノ内へのカメラ持ち込みにゴー・サインを出したゴールデン・ナゲット・オーナーのトム・ブレイトリングとティム・ポスターは、アメリカのビジネス界では立志伝中の人物で、今では全米のほとんどの旅行者が、飛行機を予約しようとする時に真っ先に訪れるエクスペディア・ドット・コム (Expedia.com) の創始者である。エクスペディアのおかげで、全米の旅行代理店が雪崩のように倒産していると言われている。そのエクスペディアの成功により億万長者となったブレイトリングとポスターのペアが、今年1月に傾きかけていたゴールデン・ナゲットを買収し、カジノ王を目指した。番組は、その模様を追う。


通常ならカジノのオーナーは、カジノ内にカメラを持ち込むことを嫌う。当然だろう。カジノでディーラーがどのようにテーブルを支配し、客あしらいをするかは企業上の秘密であり、それを公けにしたいと思うオーナーはほとんどいない。その上、客のほとんどはプライヴァシーに敏感であり、お忍びでギャンブルを楽しみにきているセレブリティも多い。カメラは邪魔でしかないのだ。


一方、近年のリアリティ・ショウの大流行により、TVに出ることで一躍有名人になる、にわかセレブリティも増えた。こういうTV番組の影響で、カメラを向けても嫌がるどころか、我先にカメラに収まろうとする一般人も増えた。カジノで勝とうが負けようが、それを撮られることに快感を感じ、全米に放送されることを自慢に思うようになったのだ。現在では、プライヴァシーを気にする者より、率先してカメラに映ろうとする者の方が多いかもしれない。


そういう世相を敏感に感じとったのが、ビジネスマンとして機を見るに敏なブレイトリングとポスターであり、カメラがカジノ中をうろつき回ることを、業務妨害、あるいはプライヴァシーの侵害ではなく、パブリシティととらえる、その、ものの考え方こそ、いわゆるアーントレプレニュールと呼ばれる起業家精神を現している。アメリカの広告界には、「Any publicity is good publicity」という言葉があり、たとえどんな理由であろうと、人目につくのは結果的によい宣伝であるというものの考え方があるが、彼らの行動規範がまさにそれだ。


番組ではカメラは当然ブレイトリングとポスターを中心に、カジノに群がるギャンブラー、ディーラー、シンガー、ダンサー、カモ、ヒモ、その他の有象無象の人間をとらえる。カジノで働く側の人間でブレイトリングとポスターの他に最もカメラに映る機会が多いのが、シンガーのマット・ダスクで、50年代ヴェガスの栄光の復興を目論むブレイトリング/ポスターの戦略により採用された。時代に反するようなフランク・シナトラ的な、低いヴェルヴェット・ヴォイスで優しく語りかけるような歌い方をするんだが、プロであるだけあって、さすがにうまい。先シーズンのFOXの「アメリカン・アイドル」で、同様にシナトラ方面の歌ばかり歌う若い坊やがいたが、こうやってプロの歌を聞くと、月とすっぽんだ。


しかしダスクは結局、ゴールデン・ナゲットの雇われシンガーでしかない。得意客が飛び入りでステージに上がってダスクとデュエットしたいと言うのを唖然として受け入れるしかないのだ。これじゃまるでカラオケ・シンガーだ、僕はこんな風には歌えないと苦情をゴールデン・ナゲットのマネージャーに訴えるのだが、冷たく、あんたが何をするかはこちらが決めると言い捨てられてしまう。芸だけでは食っていけず、それを仕事とする限り、やはりどこかで妥協せざるを得ない。世の中甘くはないのだ。


しかし、そのダスクも、宣伝という点では実に儲け役と言える。ほとんど自分は何もせずに、天下のネットワークが自分の歌を全米に放送してくれるのだ。はっきり言って、彼こそが最も大きなパブリシティを無料で得ていると言えるだろう。そしてそのことは、当然番組プロデューサーのバーネットも心得ている。そうやって売り出されたダスクのCDの売上げの何%かは、実はバーネットの懐に入る仕組みになっているそうだ。皆、どうやったら自分のビジネスを最も効率よく展開できるかを第一に考えている。大人である。


実際、ダスクの歌はかなりのもので、今の時代にああいうシナトラ風の曲を歌って聴かせるところなんかは大したものだ。彼の歌は番組のテーマ曲としても使用されているが、その曲はU2のボノとエッジの手になるものだそうで、当時まだ存命中のシナトラのために作曲されたのだそうだ。しかしその曲を吹き込む前にシナトラは他界し、めぐりめぐってダスクのレパートリーになった。


番組はその他にも、金と女に目がなく、いい女と見ると声をかけずにはいられないプロのギャンブラー、初めてのスワッピングを経験しようとしているカップル、23にもなってまだ童貞のオタク坊や、2日間で10万ドルをすってしまったギャンブル狂なぞを映し出す。このギャンブル狂なんて、ガール・フレンドが目の前でどんどん金がなくなっていくのに耐えられず、彼のお金をいくらかくすねて自分のハンドバッグの中に隠すのだが、後でちょっと目を離した隙にそのハンドバッグをすられるという最悪のシチュエイションに陥ってしまう。当然ポスターたちは、上客の彼ら一行をスイートに招待して、新しいグッチだかなんだかのハンドバッグをプレゼントするのだが、そのくらい当然だろう。そういえば、テニス・スターのアンドレ・アガシも一瞬だが画面に映っていた。なんでもポスターの古い友人で、ゴールデン・ナゲットに投資している一人だそうだ。


番組を見ていて思うのは、ヴェガスという舞台装置があっても、本当に面白いのは、やはり出てくる人間にあるということだ。というか、こういう派手で、人間の欲望が最もあからさまに現出せしめるような舞台であるからこそ、人間の本質が浮き彫りになり、面白くなる。結局リアリティ・ショウというのは、やはりそこに行き着くのだな。番組としてはまだまだ編集が甘く、だれるところもあるが、やはりこの種のリアリティ・ショウを作らせると、バーネットは確かに目のつけどころが他のプロデューサーとは違うと思わせる。


実は「カジノ」とほとんど時を同じくして、同様にヴェガスのカジノの裏側に目を向けた「アメリカン・カジノ (American Casino)」が、ドキュメンタリーで知られるディスカバリーで放送が始まった。最初、がちがちのドキュメンタリーかとばかり思っていたらそうでもなく、最近どんどん軟化しているディスカバリーらしく、ドキュメンタリーというよりはエンタテインメント性に重点を置いたリアリティ・ショウになっていた。しかもこの番組、まだ撮影中で番組は続いているのにもかかわらず、つい最近、番組の主要人物の一人であるカジノ・オーナーが自宅で変死するという事件が起きた。ディスカバリーはその事件も番組に織り込みながら、撮影を続けていくらしい。どうやら人の死はパブリシティの一部でしかないようだ。


TVのヴェガス・ブームはまだまだ続き、今秋、ヴェガスの有名なショウの一つであるジークフリート&ロイをなんでかわざわざアニメーション化した「ファーザー・オブ・ザ・プライド (Father of the Pride)」がNBCで、ロブ・ロウ主演のヒューマン・ドラマ「Dr. ヴェガス (Dr. Vegas)」がCBSで放送される。右を向いても左を向いても、ヴェガスを舞台とする番組ばかりなのだ。今やヴェガスは、ニューヨーク、ロサンゼルスと並ぶ、3大TVシティの一つと言っても過言ではないだろう。 





< previous                                    HOME

 

The Casino

ザ・カジノ   ★★1/2

 
inserted by FC2 system