The Brothers Bloom


ザ・ブラザース・ブルーム  (2009年6月)

親のいないスティーヴンとブルームの兄弟は幼い時から数々の’家庭を転々としてきた。逆境を乗り越えていくために、スティーヴンは人々をはめる様々な詐欺の手口を開発する。成長した二人は今やヴェテランの詐欺師になっていたが、自分自身のアイデンティティに悩むブルーム (エイドリアン・ブロディ) は、もう詐欺師稼業から足を洗いたかった。スティーヴン (マーク・ラファロ) はそんなブルームに最後の仕事を持ちかける。それはニュージャージーの豪邸に一人で住む大金持ちのペネロピ (レイチェル・ワイズ) を引っかけるというものだった。謎の手先バンバン (菊地凛子) と共に二人 (3人) はペネロピに接触するが、彼女はこれまでにブルーム兄弟が相手にしてきた誰よりも行動が突飛で先が読めなかった。しかもそんなペネロピにブルームはご法度の恋愛感情を抱き始める‥‥


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夏の大作シーズンの合間に、ハリウッド・アクション大作の新作が何も公開されない (子供向けを除いて) 空白がぽかりと空いてしまって、特に何も見たいと思うものがない。こういう時はインディ系を探すに限ると調べてみて見つけたのが、この「ザ・ブラザース・ブルーム」だ。


この映画、一と月くらい前から公開されているが、予告編を見たこともなければ話題を聞いたこともない。ちょっと私の情報網から漏れていた。ポスターもヤフーの劇場欄で小さな絵を一瞬見るだけでは誰が出ているかも誰が演出しているかもわからず、たぶんヨーロッパ系の作品かな、でも特に話題にはなっていないなと思うくらいで気に留めていなかった。


それで今回、面白そうな作品を探そうと近くで公開されている作品を片っ端から調べていて、あれ、この「ブラザース・ブルーム」、エイドリアン・ブロディが出ている、共演はマーク・ラファロ、悪くないじゃない、さらにレイチェル・ワイズ? こんな小品にオスカー俳優が二人も出ているわけ、ふーんと視線を送っていくと、その次の出演者には、Rinko Kikuchiとあるではないか。


え、なに、菊地凛子? 彼女だってオスカー・ノミニーじゃないか。こないだサム・レイミの「ドラッグ・ミー・トゥ・ヘル (Drag Me to Hell)」「バベル (Babel)」のアドリアナ・パラザが出ているのを見て、そういえば菊地凛子は今どうしているんだろうと思っていたら、ちゃんと海外作品にも出てたのか。いずれにしてもインディ作品にしてはさりげなくかなり豪華な配役。ところで演出のライアン・ジョンソンっていったい誰だ、と俄然興味が沸いてきた。


「ブラザース・ブルーム」はブロディとラファロが兄弟の詐欺師という役柄で、兄のスティーヴン (ラファロ) がマスターマインドとして筋書きを書き、二人でそれを演じてきた。しかし自分の核というものがないことに嫌気をさした弟のブルーム (ブロディ) は、詐欺師稼業から足を洗うことを宣言する。そしてこれが最後の仕事とスティーヴンが目をつけたのは、ニュージャージーに住む大金持ちの一人住まいの女性ペネロピ (ワイズ) だった。二人に、ほとんど言葉を発しない謎のアシスタントのバンバン (菊地) が加わり、仕掛けが始まるが、しかしそこに兄弟の長年のライヴァルのダイアモンド・ドッグが姿を現す‥‥


ダイアモンド・ドッグを演じているのがマクシミリアン・シェルで、さらに二人の手助けをするキュレイターに扮するのはロビー・コルトレーンだ。しかもコルトレーンの役柄は007でやっていたのとほとんど同じような仲介役。シェルの方は、最近の出演作で覚えているのは、ケーブルのホールマークが放送したTV映画の「ザ・シェル・シーカーズ (The Shell Seekers)」だ。特にこの番組が記憶に残っているのは、シェルと、この番組に共演したヴァネッサ・レッドグレイヴが、作品のジャンルは違うがやはりインディ作品「リトル・オデッサ (Little Odessa)」で同様に夫婦役を演じており、そういえば「リトル・オデッサ」もいかにも思い入れたっぷりのインディ作品だったと、作風は違えど「ブラザース・ブルーム」にまた連想が繋がっていくのだった。


見る者にこういう連想をさせるところが、いかにも作り手が映画好きの演出家という印象を与える。しかもこの「ブラザース・ブルーム」、乗りがまたいかにもマイナーなインディ風なのだ。最初からカルトになるのが運命づけられているようなこの作風、日本人は好きだろうなと思ってしまう。これに菊地が出ているのも当然か。


実際ここでの菊地は、乗りがマイナーな「ブラザース・ブルーム」の中でも特にキッチュで特異な役柄で、衣装も奇抜で実のところ時に主人公の3人を食ってしまうほど印象を残す。ほとんどしゃべらず、全編を通してのセリフはたった2回、バーで注文する「カンパリ」と、間違って歴史的建造物を破壊してしまった時に発する「フxxク・ミー」という2度だけなのだ。もしかしたら脚本の段階では他にセリフもあったのかもしれないが、少なくとも完成作品ではセリフはこの2本のみだ。いずれにしても、ここでもしゃべらない人物がしゃべるというシチュエイションがメル・ブルックスの「サイレント・ムービー (Silent Movie)」を連想させるなど、とにかく他の作品を思い出させる。


その他にもインディ、マイナー好きなら受ける要素が満載で、ブルームがペネロピと近づきになろうとして小細工を仕掛けるちゃりんこ事故のシーンでは、それを見ていたスティーヴンとバンバンが、二人で6,0とか7.5とか、昔のフィギュア・スケートを彷彿とさせる点数を掲げて評価する辺りの乗りもまったくマイナー。何度も言うようだが、この作品が最も受けるのは日本だろうと思う。


考えたら、主人公の二人を演じるブロディもラファロも、昔からどちらかと言うとインディ系演出家から重宝されてきた。ラファロの近作はフェルナンド・メイレレスの「ブラインドネス (Blindness)」だし、一方のブロディの出演作はウェス・アンダーソンの「ダージリン急行 (The Darjeeling Limited)」だ。ワイズにしたって近作はウォン・カーウァイの「マイ・ブルーベリー・ナイツ (My Blueberry Nights)」だ。


さらにここでのワイズは、コメディとシリアスという違いに目をつむれば、「コンフィデンス (Confidence)」というやはりインディ系コン・ゲーム作品がある。しかもワイズがオスカーをとった「ナイロビの蜂 (The Constant Gardener)」の監督は、「ブラインドネス」のメイレレスではないか。やっぱりこの作品、繋がっている。そしてこういう連鎖に注意が向くところが、またいかにもインディ作品という感じがする。


一方「ブラザース・ブルーム」は、こういうインディ色満載の作品にしてはかなり金がかかっており、実際に世界中でロケしている。アメリカ、ヨーロッパ、アフリカを転々とし、日本で菊地がカラオケに興じるというシーンも一瞬挟まるのだが、もしかしてそれも実際に日本までわざわざ出かけて撮っているのかもしれない。しかし、いくらオスカー俳優を集めたとはいえどう見てもマイナーな乗りで興行的には特に成功するとは思えない作品で、よくそれだけの製作費が集められたもんだなと感心する。


演出のライアン・ジョンソンは、調べてみたらこれまでに知られているのは「ブリック (Brick)」1本のみだ。というか、基本的にそれしか撮っていない。きっと彼はこれからなんかと繋がっていくんだろうと思うのであった。








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