放送局: スタイル・ネットワーク

プレミア放送日: 1/16/2004 (Fri) 22:00-22:30

製作: V.R.U.S.P.プロダクションズ、ア・ターマイト・アート・プロダクション、ライオンズゲイト・エンタテインメント

製作総指揮: エリク・ネルソン

共同製作総指揮: エイミー・ブリアモンテ、デイヴ・ハーディング、ベン・サンダー

製作/脚本: ジュリー・ハーマン

ホスト: ブリーニ・マックスウェル


内容: 性倒錯の女性ブリーニ・マックスウェルによる、50-60年代のスタイルを基本とするファッション/ライフ・スタイル指南番組。


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「ザ・ブリーニ・マックスウェル・ショウ」を放送しているスタイル・ネットワークは、芸能ニュース専門のE!の姉妹チャンネルだ。私が契約しているRCNケーブルでは、チャンネル番号は171である。普通、3桁のチャンネル番号というのは、HBOやショウタイム等のペイTVを別にすれば、近年放送の始まった、設立が新しいチャンネルである証拠で、それはスタイル・ネットワークも例外ではない。同様に、それほど多くの視聴者が見ているわけでもない。


第一、この500チャンネル時代に、いくら暇な視聴者がリモート片手にチャンネル・サーフを繰り返そうが、1チャンネルから始まって、100チャンネルも行く前に飽きてしまうのが関の山だ。そのため、ごく一般的な視聴者は、チャンネル番号が100を超えてしまうチャンネルは、ほとんど知らないだろう。一度も見たことがないという視聴者もかなりの数いるに違いない。私も、100チャンネルくらいまでなら何番が何のチャンネルであるかだいたい覚えているが、100を超えると、途端にあやふやになってしまう。要するに100番を超えるチャンネルというのは、大した知名度はないと思っていい。


そのマイナー・チャンネルの一つに過ぎないスタイル・ネットワークの、そのまたマイナー番組の一つである「ブリーニ・マックスウェル」が、最近なかなか評判となっている。評判となっているとはいっても、ごくごく一部の新し物/珍し物好きの間で評判になっているだけだが、それでもなにかと話題に上っているのは間違いない。しかしその理由というのが、ライフ・スタイルやファッションを指南するこの番組のホスト、ブリーニ・マックスウェルが、ほぼ完璧な女性に見える、性倒錯の男性であることにあると聞いた時は、私も唖然としてしまった (実際にそういう手術まで受けているのかは知らないが、パンツ姿の時に股間に膨らみが見えないことを考えると、どうもそれっぽい。)


その性倒錯の男性 (本名ベン・サンダー) が、よりにもよって、いかにうまく家事をこなすか、いかにおいしく見映えのよい料理を作るか、いかに印象的なパーティを開くか、なんていうテーマで、世の女性たちにレクチャーしているのだ。しかもマックスウェルは、特に50-60年代の西海岸を思わせる、ポップ・カルチャー的なものに強く惹かれているようで、番組全体の体裁がそのようになっている。マックスウェルが着ている衣装は、大きな花柄の膝丈ワン・ピースだったり、ボブ・パンツだったり、あるいはシャネル調のスーツだったりする。髪はブロンドで (染めているようだ)、いかにも50年代風のアップになっていたり、あるいはマーサ・スチュワート風の前髪を下ろした感じだったりする。要するに、「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘップバーンの格好を思い出してもらえばいいだろう。


こうやって書くと、まるで「ブリーニ」がキワモノ番組のように聞こえてしまうが、実は、どう見ても本人は大マジである。たぶん、心の底からファッションが好きで、料理が好きで、家事裁縫が好きで、そしてパーティを開いて人々をもてなすことが好きなように見える。そしてもちろん、だからこそ、やはり番組がキワモノに見えてしまうのは、これはもう、どうしようもない。だからこそ口コミで、ヘンなホストがいるヘンな番組があるぞということで、隠れた話題になっているのだ。


だって、いかに当時のファッションに身を包み、念入りに化粧をして登場しようとも、どう見ても彼女は、低く見積もっても身長は175cm以上あるのに、ハイ・ヒールを履いていたりするので、ゲストとして出てくる男性よりも常に背が高い。女性のゲストと較べると、いつも頭一つくらい高かったりする。男性ゲストが番組に出る時に、ほとんど座って話を聞く場合が多いのは、たぶんその辺を気にしていることもあるだろう。女性のマックスウェルがゲストの男性を見下ろす形で番組が進行するのは、どうしても絵としての収まりが悪いのだ。彼女は足のサイズも28cmくらいはあるんじゃないか。その上、女性ホルモンを服用してわざとハスキーな発声にしているのではないかと思うのだが、それでも彼女の声は、女性にしては野太い方に入る。


そのマックスウェルが、大真面目でケーキをこしらえ、そのでかい手と指を器用に動かして直径数ミリのビーズに糸を通したり、ソウイング・マシンを操って50年代風デザインのトート・バッグを製作したり、ホーム・パーティの飾りつけを行ったりするのだ。コーナーの合い間合い間では、家庭生活を豊かにするためのヒントと称して、様々な小さい収納アイディアというような、ものすごくきめ細かなパーティ・アイディアを伝授する。


男性でも背の高い部類に入るはずのマックスウェルが、大きな図体を操って、あれやこれやの細々とした雑事、家事を大真面目でこなすこの違和感、これこそが「ブリーニ・マックスウェル」が逆受けしている最大の理由だ。ところどころでシリアスな顔で挿入する、たぶんジョークは、笑うよりも先に、これ、ジョークだよなと確認する所作が必要になるので、到底タイミングがずれて笑えない。ゲストに挨拶のキスをする時は、んーばっ、ってな感じの擬音効果を自分で入れたりするのだが、はっきり言って、あのでかい顔が間近に寄ってくるのは、ちょっと遠慮したい。ゲストもちょっと腰が引けてたりするのが見てとれる。彼女が「ラヴリー」だとか「ビューティフル」だとか言えば言うほど、その対象はますますラヴリーでビューティフルなものから遠ざかっていくような気がする。うーん、このキッチュでオフ・ビートな感覚、確かに癖になりそうだ。


マックスウェルは、実はスタイル・ネットワークでこの番組のホストを担当する前に、ニューヨークで市が運営する公共チャンネルで、98年からやはり同タイトルの番組のホストをしていたそうだ。そのチャンネル、NYC TV (以前はクロスウォークス (Crosswalks) と言った) は、複数のチャンネルから成っており、議会中継や就職情報、街角案内みたいな軽い情報関係の番組を流していたりする他、競馬案内 (!!) まであったりする。朝の交通混雑を伝える、据え置きのカメラでただ延々とのろのろと進む車の列の映像を垂れ流すだけという番組 (番組と言えるのか??) は、なぜだかバックにテクノっぽい音楽が流れていたりして、実は、じっと見ているとなぜだか目を逸らせなくなるという、かなり中毒性の高い番組だ。特に雨や雪が降っている時のこういう交通風景は、いつまでも見飽きない。


しかし、そのクロスウォークスで、マックスウェルの番組をしていたとは気づかなかった。たぶん、私がこのチャンネルをちらちらとでも見ていた時と、彼女の番組の放送時間帯がまるでかち合わなかったからだろう。しかし、今回のスタイル・ネットワークにおける「ブリーニ・マックスウェル」の小ブレイクは、彼女の名前をかなりの程度全米レヴェルに押し上げたと言える。マックスウェルはさらに、スタイル・ネットワークとE!のみならず、最近ではABCやCNN、MSNBCにも、その知識とパーソナリティを見込まれて何度かゲスト出演しているということで、今後、さらに活躍の場が広がることが予想される。昨年、「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」で、ゲイが中心の番組がいよいよメイン・ストリームに踊り出てきたかと思ったら、そのブームが治まる間もなく、今度はまさかのトランスヴェスタイトの登場か。時代の変遷のスピードは速い。






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The Brini Maxwell Show

ザ・ブリーニ・マックスウェル・ショウ   ★★1/2

 
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