The Bourne Supremacy   ボーン・スプレマシー  (2004年7月)

ベルリンで事件が起き、今はインドでマリー (フランカ・ポテンテ) と共に暮らしているジェイソン・ボーン (マット・デイモン) がその犯人に仕立て上げられる。ジェイソンはそれだけでなく命も狙われ、間一髪で難を逃れるが、マリーは命を落とす。ボーンは追われながらも、いったい誰が、なぜ自分をつけ狙っているのかを知るために反撃に出る‥‥


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一昨年、タイトな演出、意外な好演と好評で、中程度のヒットとなった「ボーン・アイデンティティ」の続編。今回は前回のダグ・ライマンの代わりに、「ブラディ・サンデー」のポール・グリーングラスがメガホンを握る。ライマンは「アイデンティティ」の後、FOXで今一番のヒットとなっているドラマ「O.C.」や、エミー賞にもノミネートされた話題作の「アレステッド・デヴェロップメント」等のプロデュースで忙しい上に、「アイデンティティ」撮影の時、スタジオとかなり揉めたようだ。今回はプロデュースの方にのみ関わっている。


このシリーズは、主人公が記憶を失った殺人マシーンであるというのが重要なプロットであるのだが、その点で、いかにもアメリカの若者然としたデイモンを、プロの殺人者として信じられるかどうかが、この作品を受け入れられるかどうかの大きな分かれ目となる。私は、前回も今回も、作品自体はかなりよく撮れていると思ったのだが、それでも、それとデイモンを殺人のプロとして受け入れられるかどうかはまた別の話だ。どうしても、心の奥底では、彼は完璧にはこの役にははまりきっていないという違和感を捨てきれない。


例えば、今回、冒頭で波打ち際をジョギングするデイモンを見ていると、たぶん自分自身を厳しく律する克己心が最も求められるはずのスナイパー/テロリスト/アサシンといった感じはまるでしない。だいたい、殺人マシーンに、まるでGAP製みたいな7分パンツを穿いて、観光客が後ろにうようよといるような波打ち際をジョギングなんかしてもらいたくない。


しかし私の女房に言わせると、少なくともこのシリーズに関しては、そういう、暗殺のプロの普通の人間としての部分が前面に出て、悩んだりするようなところがいいのだそうだ。これが完璧な殺人マシーンだと、かえって興醒めだと言う。なんか、そう言われると、確かにそういう感じもしないではない。いつも完璧にミスなく仕事を完遂するゴルゴ13よりも、多少の人間味を残していてくれた方が感情移入はしやすいということなのだろう。とはいっても、やはり私は、こいつは感情を移入させないほどのプロフェッショナルであるべきなんじゃないのと、ふと思ってしまうのだが。


という個人的嗜好を抜きにすると、このシリーズは、アクションものとしてかなりよくできている。特に今回は、前回にも増してタイトにまとまっていると言える。だいたいこの種のアクション映画は、緩急のつけ方が観客の集中力を途切れさせずに最後まで引っ張っていくための重要なファクターであるのだが、「スプレマシー」になると、緩急どころか急急急急急みたいな感じで、息つく暇がない。ほとんど最初から見せ場の連続なのだ。「007」シリーズだって、ここまでサーヴィス精神旺盛ではない。「007」は必ず女性との絡みが入るため、ペース・ダウンする箇所があるが、「ボーン」シリーズではそれがないためだ。


しかし、見せ場の連続だから作品が面白くなるかは、これはまた別の話であって、これだけアクションをぶち込むと、普通は逆に収拾がつかなくなってしまうのがオチだろう。必然性のないアクションの羅列は、逆に観客を退屈させこそすれ、話に引き込む力とはならない。「スプレマシー」のよくできたところは、これだけアクションを詰め込んでいる上に、さらに話としてまとまっていて、観客に次どうなるかと飽きさせないところにある (完全に矛盾なく話が展開しているかという点ではちょっと疑問な点もないわけではないが。) 今回はボーンは、インド、イタリア、ドイツ、ロシアと、ユーラシア大陸を転々とするのだが、場所が変わると背景も変わり、それだけでも飽きさせない。もちろんそれは、「007」が最も得意としている常套手段でもある。


話としては、副主人公、いや、前回ではデイモンと共に主人公であったフランカ・ポテンテ演じるマリーが、冒頭であっさり殺されてしまうのが意外。「アイデンティティ」は、二人はこの後も幸せに暮らしました、ハッピリー・エヴァー・アフターみたいなお伽噺的終わり方をしていたから、今回も二人で大活躍みたいな話かとばかり思っていた。実際、原作ではマリーは死なないそうだ (私は原作は第1作の「暗殺者 (The Bourne Identity)」しか読んでない。) しかし今回の映画ではマリーは上映開始後5分で死んでしまい、話は、間一髪で難を逃れたボーンの復讐戦へと移行する。それにしても冒頭のシーンは、本当にインドで撮影しているようだったから、ポテンテはあれだけのためにわざわざドイツからインドまで呼ばれたわけか。


全編を通してよくできたアクションであるが、特に今回は、アクション・シークエンスの編集が非常にうまいなと感じた。次のカットへの繋ぎを何コマ分か短くしてスピード感を上げたり、ジャンプ・カット気味の繋ぎがうまく効果を上げている。いずれにしてもこういう編集をするためには、事前に流れを把握してそれにあったシーンを撮影していなければならないわけで、やはり監督もうまい。一方で、こういうカットの仕方に慣れてない者や、時として揺れすぎの気もないわけではないカメラの動きをうざったいと思う者もいるのではと思われる。


また、前回にも増してよくできているカー・アクションは、「007」とタメを張るか、その上を行くようなできだ。やはりこのシリーズの最大の醍醐味はカー・アクションにある。なんで監督が替わっても同様によくできたカー・アクションができるのかは疑問といえば疑問だが、カー・シークエンスのコレオグラフィがたぶん同じ人間なんだろうと思ってIMDBを調べてみたが、よくわからなかった。今回のクライマックスでのモスクワでのカー・チェイスは、前回からまた一段と迫力を増している。やっぱりこの種のエキサイトメントはCGじゃ得られないよな、本当に身体を張ってもらわないと、と思うのであった。いずれにしても、必ず印象的なカー・チェイスが入るとこも、これまた「007」みたいだ。


今回のモスクワでのカー・チェイスは、最後がトンネル内でのチェイスなのだが、先週見た「アイ、ロボット」でも、トンネル内でのカー・チェイス・シーンがあった。しかし、どんなによく撮れていようとも、やはりCGによるカー・チェイスと実写でのカー・チェイスでは、実写の方にエキサイトメントという点では軍配が上がる。CGは、実写による「重さ」の迫力、迫真性を得るまでにはまだ至っていないからだ。


ロバート・ラドラムによる原作からは、舞台設定だけをいただいて、もはやほとんど独立した世界を描いている「ボーン」シリーズではあるが、原作は3部作であり、「アイデンティティ」、「スプレマシー」に続いて、「アルティメイタム」がある。「スプレマシー」も充分ヒットしているようだから、これは次も作られることはほぼ確実だろう。「アルティメイタム」は、ライヴァル・テロリストとの一騎打ちみたいな内容だそうだが、この際だから、やはり是非是非製作してもらいたい。






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