The Bourne Legacy


ボーン・レガシー  (2012年8月)

政府工作員のアーロン・クロス (ジェレミー・レナー) は、新種の薬の試験台として、アラスカで冬山にこもっていた。ちょうどその頃、ジェイソン・ボーンは政府の陰謀を一掃する挙に出ており、CIAは内部ががたがたであるばかりか、表に出ると大きなスキャンダル必至の種々の謀略や実験を秘密裏に処理する必要があった。バイヤー (エドワード・ノートン) は生かしておいてもためにならないクロスにも刺客を送るが、逃げおおせたクロスは、薬の処方を担当していたマルタ (レイチェル・ワイズ) に会いに行く。しかし魔の手はマルタにも伸びてきていた‥‥


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ハリウッド・アクションとしては1、2を争うマット・デイモン主演のジェイソン・ボーン・シリーズは、ひとまず2007年の「ボーン・アルティメイタム (Bourne Ultimatum)」で3部作に区切りをつけたが、しかし、このシリーズがもう作られないというのは痛かった。個人的には「ボーン」と「007」、それにトム・クルーズの「ミッション・インポッシブル (Mission Impossible)」を毎年1作ずつ交互に撮って欲しいと思っていたのに、既に「MI」の新作がなくて久しく、その上「ボーン」シリーズまでなくなるのは寂しい。


という希望を聞き入れたか、昨年末、念願かなって「MI」の新作、「ゴースト・プロトコル (Ghost Protocol)」が公開された。因みに「ゴースト・プロトコル」には、「ザ・ボーン・レガシー」主演のジェレミー・レナーが準主演で出ている。そして今回、デイモン主演というわけではないとはいえ、「ボーン」のトニー・ギルロイが脚本、演出を務める「ボーン」スピンオフ、「ボーン・レガシー」が公開だ。今年は年末に007の新作「スカイフォール (Skyfall)」公開が控えており、既にあちこちで宣伝されている。一気にハリウッド・アクションの最高峰が連続で見られるのはファン冥利に尽きるとはいえ、これだと今度は来年アクション大作が枯渇しないかと、心配になるのだった。頼むから、できれば、交互に、1年に1本ずつみたいな感じで作れないですかね。


最初に言ってしまうと、「ボーン・レガシー」は、実はデイモンの「ボーン」シリーズとは関係がない。まったく関係がないわけではなく、主人公のボーン以外はCIAの同じ面子がそのまま同じ役で出てたりもするが、基本的にまったく別の話だ。前回、ボーンがCIAに壊滅的な打撃を与える八面六臂の活躍で暴れまくったために、その尻拭いに追われるCIAが帳尻を合わすべく謀略を企て、それに振り回される新主人公、クロスを中心に描く。


こちらだって前回、「アルティメイタム」を見た後に今後もなんとかしてシリーズ継続できないものかと言ってみてたりするが、とはいえ本気でまたデイモンがボーン役で出る作品を作るのは無理があるというのは重々承知で、ちょっと無理難題を口にしてみただけだ。人気があるからといってまたボーンが記憶をなくして新しい展開になる作品を作ってみたり、あるいは生まれ変わったボーンが今度は大々的に正義の味方的キャラクターとして登場しても、かなり鼻白むのは避けられまい。一方、今度は予告編を見ても、出てくるのはクロスを演じるジェレミー・レナーばっかりで、ボーンが出てくる気配はさらさらない。では、何が「ボーン」シリーズ最新作なのか。


実はタイトルが端的に現している通り、「ボーン・レガシー」は、ボーンが残した遺産、レガシーによって話が展開する。ボーン自身が登場するわけではないが、これまでのボーン的なものが全体を覆っているという建て前だ。ある意味かなり牽強付会だが、しかし「アルティメイタム」と作り手や脚本、演出家が同じせいか、あるいはハリウッド的なものの伝統のせいか、シリーズ主人公のボーンがいなくても、ちゃんと「ボーン」シリーズ最新作という印象を受ける。正直言って、この辻褄の合わせ方は、うまいよなあと思った。


「アルティメイタム」でボーンがCIAに壊滅的打撃を与えたために、その後始末に追われた政府のバイヤーは、人権無視の人体実験として糾弾を受けるのは間違いない薬の開発を中止し、それに関わった主要な者たちをてっとり早く口を塞ぐという手段に出る。


バイヤーを演じるのがエドワード・ノートンだ。ノートンはかつて自分こそがグリーン・モンスターこと超人ハルクとして、政府から付け狙われる立場にいた。それがかつての自分の苦悩なんかすっかり忘れて、同様な状況で苦しむクロスに平気で刺客を送る。そこまで変わり身が早くていいのか。自分が自分自身でないことのつらさを誰よりもよく知っているのはあんたしかいないんじゃないのか。かつて自分自身を取り戻すために南米のリオからカリフォルニアまで歩いて帰ったノートンが、同じことをしようとしているクロスを、虫けらでも殺すように処分しようとする。お前は鬼だ。


実験の途中だったクロスは薬が必要なため、研究者のマルタに接触しようとするが、バイヤーはマルタも亡き者にする所存だった。クロスは間一髪のところでマルタを助け出す。クロスがまた実験前と同じ状態に身体を戻すためには、クロスの検体を保存している場所 -- フィリピンまで足を運ぶ必要があった‥‥


こういう世界を股にかけたアクションは、「ボーン」シリーズが最も得意としているもので、それは今回も変わらない。さらに「ボーン」十八番のカー・アクションもちゃんと用意されている。毎回場所を変えて印象的なカー・チェイスを組み立てるのは容易ではないと思うが、お約束とはいえ、常に水準以上のアクションを提供する。今回マニラ市街でクロスを追う刺客は、「ボーン・スプレマシー (The Bourne Supremacy)」で、モスクワで執拗にボーンを追い詰めたキリルを彷彿とさせる。


一方で、「アルティメイタム」で見せたほどのカタストロフ的な、これ以上のテンションのカー・アクションは、絶対とは言わないが、簡単には撮れまいとも思え、それを証明してもいる。それでも、定石を踏まえつつ今回も頑張っており、役者は違ってもこれだけ見せるのはさすが。問題は定石が紋切型に思える瞬間もないこともないという点にあるが、それはたぶん今後の宿題ということになろう。いずれにしても、本心では期待4不安6の気分で見に行ったが、予想以上によかった。ちゃんと次も見たいという気にさせてくれた。


主演のレナーは、「MI」だけでなく、スーパーヒーローの一人として「アベンジャーズ (The Avengers)」にまで出ていた最近の彼の活躍からしてこれくらいやるだろうとは思っていたが、それ以上によかったのが相方を務めるレイチェル・ワイズで、彼女、髪を降ろすとこんなに美人だったっけ、と思ってしまった。最初は綺麗すぎるのでワイズと気がつかなかったくらいだ。










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