The Big C    ザ・ビッグ・C

放送局: ショウタイム

プレミア放送日: 8/16/2010 (Mon) 22:30-23:00

製作: パーキンス・ストリート・プロダクションズ、ファーム・キッド、オリジナル・フィルム、ソニー・ピクチュアズTV

製作総指揮: ジェニー・ビックス、ダーリーン・ハント、ローラ・リニー・ニール・モリッツ

クリエイター/脚本: ダーリーン・ハント

監督: ビル・コンドン (パイロット)、マイケル・エングラー

撮影: ジョン・トマス

美術: マイケル・ショウ

出演: ローラ・リニー (キャシー・ジェイミソン)、オリヴァー・プラット (ポール)、ジョン・ヒッキー (ショーン)、フィリス・ソマーヴィル (マーリーン)、ゲイブリエル・バッソ (アダム)、ガボレイ・シディベ (アンドレア)


物語: 高校教師のキャシーは、自分が乳ガンに侵されていることを発見するが、それを誰にも打ち明けることができず、悶々としていた。夫のポールとは一時的に距離を置いて別居し、いまだにガキみたいな息子のアダムには手がかかるばかりだ。弟のショーンはよく言えば環境運動家、端的に言って半分ホームレスだ。思い切って自分がこれまでにやりたくてもやれなかったことをやろうと、狭い庭だがプールを作ろうと思い立つ。しかし造園家はプールよりはジャグジーがいいと主張するし、庭を掘り返すと、これまで行き来のなかった向かいの家の老女が警察に電話して苦情を述べる。周りにはキャシーの気持ちを慮ってくれる者は一人もいなかった‥‥


_______________________________________________________________





















ショウタイムの30分コメディがなかなか注目に値する働きをしている。それも男性ではなく、女性を主人公とするコメディが頑張っている。近年では「ハフ (Huff)」や、今でもやっている「カリフォルニケイション (Californication)」という男性が主人公のコメディもありはするが、しかし、圧倒的に女性が主人公のコメディの方ができもいいし話題にもなるし印象にも残る。


それらのコメディは、なぜだかその女性の主人公が全員切羽詰まった状況に追い込まれているという話ばかりだ。「ウィーズ (Weeds)」主演のメアリ・ルイーズ- パーカーは家でマリファナを栽培している立派な犯罪者で、ばれれば当然手が後ろに回る。「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ (United States of Tara)」のトニ・コレットは多重人格で、「ナース・ジャッキー (Nurse Jackie)」のイーディ・ファルコはドラッグ中毒の看護婦だ。


これではほとんどコメディではない。実際、ファルコは「ナース・ジャッキー」で主演女優賞を獲得した今年のエミー賞コメディ部門の受賞スピーチで、私はファニーではないと主張して逆に笑いを誘っていた。しかし、実際の話そうなのだ。これらの番組は実際のところ、見ててほとんど笑えるものではない。意外な一瞬芸や展開に思わずにやりとしたり吹き出したりすることもないではないが、基本的にシリアスなコメディ・ドラマと言える。これらの番組より、まだABCの「グレイズ・アナトミー (Grey’s Anatomy)」やCBSの「CSI」といった、現在アメリカで人気を二分するドラマでの気の利いたセリフの方がよほど笑えたりする。


そのショウタイム・コメディ群に今回新たに加わるのが、「ザ・ビッグ・C」だ。番組タイトルの「ビッグ・C」というのは、以前ショウタイムが放送していた「ザ・L・ワード (The L Word)」と同じセンスだ。「C」にいくつかの意味を引っかけており、番宣コマーシャルでは、CはCharity、Class、Couch、… しかし主人公Cathyの人生で今最も重要なのはCancerである由とやっていた。ただし私の意見では、特にセンスのあるネイミングとは思えない。


そのCancerのCである「ビッグ・C」という番組名が意味する通り、番組は乳ガンにかかった主人公キャシーを描く。中年の高校教師キャシーは、乳ガンの告知を受ける前からそれなりに問題を抱えていた。嫌いなわけではないがもはや熱愛の間柄とは言えない夫ポールとは距離を置いて別居する一方、息子のアダムの行動はいまだに子供染みていて成長しきれず手がかかる。そのためキャシーは、いまだに自分のガンのことを家族に言い出せずにいる。


それだけでなく、学校に行くと授業について来れない問題児はいるし、家の向かいに住んでいるのは、こちらのやることを逐一見張っているとしか思えないヘンツク婆あだ。何も思い通りに行かず、その上ガンの宣告だ。窮状を打破するために思い切って試した新しいことにまでも茶々が入る。


要するに「ビッグ・C」は、やはり問題を抱えた女性主人公の話だ。しかも今度はガンという死に近い宣告を受けた女性の話で、さすがにこれをコメディと呼ぶのはためらわれる。しかし、マリファナ栽培者、多重人格者、ドラッグ中毒者と来てガン患者というのは、道筋としては間違ってないような気もする。次回辺りは宗教絡みのテーマで、是非キリスト教もイスラム教も仏教もブードゥーも全部いっしょくたにして笑い飛ばしてもらいたい。


主人公キャシーを演じるのがローラ・リニーだ。元々演技力には定評があるリニーがキャシーを演じることで、嘘くさくない話になったのは確かだ。一昨年のHBOのミニシリーズ「ジョン・アダムズ (John Adams)」で、特に出番が多かったという印象はなかったのにもかかわらず、ほとんど死ぬ時の迫真の演技、というか死に顔でエミー賞の主演女優賞をさらった。その印象が今でも強烈なので、今回も番組最終回はやはり苦悶の表情を浮かべて死んでいくのかと思ってしまう。どう考えてもコメディじゃない。


話は変わるが、「ジョン・アダムズ」では、こんな死の演技ができるのかと感服したリニーの後、ポール・ジアマッティ演じる主人公アダムズも死ぬ。そしたらこれが、リニーに勝るとも劣らぬ迫真の死に顔で、こちらもやはりエミー賞の主演男優賞を受賞した。見ながら、お前、怖いよ、本当に死んでいるみたいだよ、とドキドキした。死んだこともないくせによくこんな迫真の死に面が作れる。役者ってすごい。


元に戻って「ビッグ・C」だが、特に笑えるわけでもないこの番組、やはりリニーのうまさが印象に残る。また、こういううまい人と対極に置かれると、オリヴァー・プラットみたいな剽軽なタイプが生きる。こちらは特にうまい役者だとは思わないが、なにかと重宝される理由もわかる。こういうややもすると重くなりそうなテーマや上手な役者がいるからこそ、必要とされるんだろう。他に「プレシャス (Precious)」のガボレイ・シディベが反抗的な高校生という役どころで出ている。


エミー賞のコメディ部門では、ショウタイムの「ウィーズ」主演のパーカーは既にノミネートの常連だし、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ」主演のコレットもそうなりつつある。と思ったら今年は「ナース・ジャッキー」のファルコが初ノミネート初受賞だ。その上、来年、「ビッグ・C」のリニーもノミネートされる可能性はかなり高い。今のところ確実と言ってもいいくらいだ。そうなるとこの部門、ほとんどがショウタイム番組で占められることになる。女性コメディにおけるショウタイムの覇権が到来するか。








< previous                                    HOME

 

The Big C


ザ・ビッグ・C   ★★★

 
inserted by FC2 system