The Avengers


アベンジャーズ  (2012年5月)

S.H.I.L.D.がエネルギー・ソースのテッサーアクトを使って実験している最中、テッサーアクトが制御不能になり、異次元間に空間を開いてしまう。そこに現れたのは、ソー (クリス・ヘムズワース) によって異空間に閉じ込められていたロキ (トム・ヒドルストン) だった。ロキはセルヴィグ (ステラン・スカースガード)、クリント・バートン/ホウクアイ (ジェレミー・レナー) の意識を乗っ取り、彼らと共に姿をくらます。テッサーアクトの力を得たロキは、今や無敵だった。事態の急を察したニック・フューリー (サミュエル・L・ジャクソン) は、トニー・スターク/アイアン・マン (ロバート・ダウニーJr.)、スティーヴ・ロジャース/キャプテン・アメリカ (クリス・エヴァンス)、ブルース・バナー/ハルク (マーク・ラファロ)、ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ (スカーレット・ヨハンソン) のスーパーヒーローたちに招集をかける。今こそ彼らが力を合わせて地球を守る時なのだ‥‥


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アメリカにはスーパーヒーローは腐るほどいる。いつの時代、どの場所にもいるというくらい、スーパーヒーローはてんこ盛りだ。人間、エイリアン、昆虫、アンドロイト、選り取り見取りだ。こんなにスーパーヒーローだらけで、なんで世界はよくならない? と思うくらいいる。


それでも、彼らにも彼らの得意分野というものがあるだろうから、その活躍の場が特に重なるわけではなくても、これまではほとんど気にならなかった。警察にだって行政区分の境界はあり、お互いに境界を超えては原則不干渉であるわけだから、スーパーヒーローだってそうあってもおかしくはない。だいたい、同じ場所に複数のスーパーヒーローがいたり異なるルールあっても、事態が混乱するだけだ。


とはいえ、複数のスーパーヒーローがいると、どうしてもそれらを一堂に集めて、より巨大な悪と対峙させてみたいというのは、なかなか耐え難い誘惑なのだった。日本でだって、最終的にはウルトラ兄弟は一緒に怪獣を退治し、仮面ライダー・フランチャイズも結集して悪を倒す。というわけで、わざわざ無理目な状況を強引に設定してでも、これらのスーパーヒーローが一堂に会する事件が起きるのは、既に時間の問題となっていた。


アメリカのスーパーヒーローは、主としてマーヴェル・コミックス派とD.C.コミックス派の2派に大別される。スーパーマンとバットマンというスーパーヒーロー中のスーパーヒーローを有するD.C.が歴史も古く、大御所という感じがするが、近年は「アイアン・マン (Iron Man)」「マイティ・ソー (Thor)」、「キャプテン・アメリカ (Captain America)」、「ハルク (The Incredible Hulk)」等、小粒ながらも映画界で新作を連発するマーヴェルの勢いが侮れない。


とはいえ本当は、マーヴェルといえば、まず誰でも真っ先に思い出すのは「スパイダー-マン (Spider-Man)」、あるいは「X-メン (X-Men)」になるかと思うんだが、これらはさすがに別格扱いで、単独ヒーローとして既に圧倒的な人気を誇るスパイダー-マンを、わざわざ他のスーパーヒーローと一緒にして人気を薄めてしまうこともないのだった。それに「X-メン」は、元々様々なキャラクターを寄せ集めたマルチヒーローものだ。


つまり「アヴェンジャーズ」は、図らずもスーパーヒーローとしては2線級の寄せ集めであることを、暗に露呈している。かなりヒットした「アイアン・マン」や、「マイティ・ソー」、「ハルク」を2線級と呼ぶのはためらわれるが、「アヴェンジャーズ」自体がそう宣言しているに等しいのだからしょうがない。感じとしては、その中では兄さん格のアイアン・マンが、他を牽引している。


そしてそのためかどうか、「アヴェンジャーズ」で本来は孤高のスーパーヒーローが同じ場所で固まっているのを見ると、違和感がつきまとう。それぞれが本来持って立っている位置が違うという印象が、濃厚にしてしまうのだ。背中合わせに立つスーパーヒーローたち。身長も体重も性別も武器も国籍も人種も、生命としての種までまるで相容れない。


あまりにも接点がなさ過ぎるために、勢揃いしたスーパーヒーローたちが格好いいというよりも、こう言ってしまったらマーヴェル・ファンから文句を言われそうだが、正直言って間抜けに見えてしまう。つまり「アヴェンジャーズ」は、本来相容れないはずの孤高のスーパーヒーローたちを、いかに屁理屈をつけて、力技で皆同じ場所にいる理由づけをするかに腐心する作品だ。


そしてこれはわりと感心できるが、その力技にある程度成功している。女性スパイと変身する巨大な緑の化け物と冬眠から覚めたヒューマノイドと弓矢弾きとロボット装甲に身を包んだ男と異次元から来たハンマー投げ野郎に、それぞれ活躍の場と理由を提供している。それでも、キャプテン・アメリカが冷凍睡眠から覚めて戦っているなんて設定は、そこまでこじつけるかと思ってしまうが、それを言ってしまってはほとんど他のキャラクターの登場理由も眉唾になってしまうので、ここはぐっとこらえる。それにしても、なんでこのアイパッチ男だけはいつも余裕をかましてんだ?


演出はジョス・ウェドンで、先頃見た「ザ・キャビン・イン・ザ・ウッズ (The Cabin in the Woods)」でも好き勝手やっているという印象があったが、今回もまたそれに輪をかけての派手なアクションを繰り広げる。これくらいやれるなら本人も満足だろう。


クライマックスでアクションが繰り広げられるのは、マンハッタンのグランド・セントラル・ステイション界隈で、ここを舞台とした作品で近年で最も印象に残っているのは、「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」だ。あの時は人類がほぼ死滅し、今回も人類存亡の危機に瀕している。どうやら人類を滅亡から守るためには、あの辺を守る必要があるらしい。実は駅の反対側にあるのは、「崖っぷちの男 (Man on a Ledge)」の舞台となったホテルだったりする。


実は最近知ったのだが、マーヴェルのスーパーヒーローの最後の牙城の一人であるスパイダー-マンも、少なくともTVアニメーションでは、「X-メン」の一人であるウルヴァリンと共闘するという作品が既に製作中だそうだ。スパイダー-マン、おまえもか、と言いたくなってしまうが、どうやらそれが世の流れみたいだ。わざわざ一人でもやれているスーパーヒーローに無理難題押しつけて、助っ人として他のスーパーヒーローを連れてくる。一時スーパーヒーローものは、自分の存在理由に悩むというのが流行の設定になっていたが、スーパーヒーローを悩ませる暇なく活躍させるために、大型の敵を用意してスーパーヒーロー同士で共闘させるというのが、近年の流行りのようだ。


この分だと、もしかしたら近い将来にクリストファー・ノーランとブライアン・シンガーの共同演出で、スーパーマンとバットマンが共闘する作品が本当にできてしまうかもしれない。かなり怖ろしくて考えるだに身震いする天をも怖れぬ想像だが、その一方で、もしそうなったら、想像を絶するウルトラスーパーヒーローものが誕生するかもしれないという期待もしてしまうのだった。









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