The Assistant


ジ・アシスタント  (2020年3月)

今現在、コロナウイルスと並び、否、コロナウイルスがアメリカに上陸するまでは、アメリカ人が注目している最も大きなニューズだったのが、元ミラマックス創立者のハーヴィ・ワインステインのセクハラ・パワハラ疑惑を裁く裁判だった。「ジ・アシスタント」は、このスキャンダルから大きく想を得ている。 

 

とはいえ、実は私はこの映画、ワインステイン・スキャンダルに関係する作品だとは知らなかったし思ってもいなかった。予告編を見てなんか気になったのだが、実はその時点では、とある企業で上役のアシスタントとして働く女性がなんらかの事件に巻き込まれ、狙われる羽目になるサスペンスものだとばかり思っていた。予告編は企業セクハラ・パワハラを匂わせもするが、それ以上になんか別の大きな事件が起きそうな感触があり、きっと企業汚職に気づいたアシスタントが、逆に命を狙われるという話に違いないと勝手に思っていた。 

 

実はこの作品、私が勝手に思い込んでいたカン違いが他にいくつもあるのだが、その最初のカン違いに気づいたのはまさしく冒頭で、一人早朝から出勤する主人公の女性アシスタントのジェインが、Uberかなんかで職場に向かうシーンから始まる。そこで見えるのは馴染みのあるマンハッタンのまだ夜の明けない早朝の高層ビル群で、思わずあれっと思う。これって、もしかして、ニューヨークが舞台? 

 

実は主人公の顔とオフィス風景から、なんとなく舞台はヨーロッパのどこかと勝手に思っていたのだ。しかし描かれる舞台はどう見てもマンハッタンのソーホー界隈だ。ヨーロッパじゃなかったのか。 

 

朝一番に出社したジェインは、各部屋の照明やオフィス機器のスイッチを入れ、掃除しコーヒーを沸かし、これから出社してくる者たちのために準備を整える。細々としたオフィス業務を詳細に描き、丁寧な演出は好感が持てるが、しかしえらくまた念入りに微に入り細を穿って描き込むな、と、最初は思っていた。 

 

そしてふと気がつくと、映画が始まってもう30分くらい経っている。これまでのところ、事件らしい事件は起きていない。これは、もしかして、このまま行く? と、不安になるというか、愕然とした。どうやら私は間違えたらしい。とはいえ、そういう細部を積み重ねる演出が面白くないわけでもなく、こういう作品だと納得すると、それはそれで楽しめる。 

 

「アシスタント」は、そういうジェインの典型的な一日を描く。映画は本当に、早朝、日の出前にアパートを出るジェインの描写から始まって、その夜一番最後の会社を出るジェインの、朝から晩までの一日を描くだけなのだ。そこに殺人事件は起こらないし、企業汚職もない。わずかに企業セクハラのような事柄があるだけだ。 

 

実際、ジェインが働いているのがどういう企業かも、最初は私はわからなかった。オーディションに来る者がおり、ジェインが将来の夢を訊かれて自分でもプロデュースしたいなんて言っていたから、映画プロダクション? ステュディオ? なんて思いはしたが、それでも同様の文脈から出版社とかであっても不思議はなく、最後までこれが映画会社ということに確信は持てなかったというのが本当のところだ。 

 

後半、いくらなんでも上司の浮気の相手のホテルの手配を指示されたジェインが、さすがにぷっつん来て、総務部のようなところに訴えるのが、最も事件らしい事件と言える。これなんか、作品がワインステインをモデルにしていると最初から知っていたら、無茶苦茶ありそうだなと、かなりリアリティ感じながら見れたに違いない。いずれにしても、こういうワンマン企業では、ボスに文句言える者は誰もいない。たとえ納得行かなくても、上からの指示は絶対だ。結局ジェインの訴えは握り潰される。 

 

私はあまり前知識なしに映画を見ることを常にしているが、しかし、この映画に限っては、最小限舞台がワインステインが仕切っていたミラマックスであるということを知っていた方が、より製作者の意図することが伝わるだろう。結局何十人もの女性をレイプしたとして訴えられたワインステインは、そのいくつかで有罪判決を受けた。 

 

しかも現在、刑務所に収監されているワインステインが、コロナウイルスに感染しているという情報まで入ってきた。裁判のために出廷して報道される毎に、高齢で、どんどん腰が曲がって生え際が後退して一人では歩けないワインステインを見せられて、身体に堪えているんだろうなと思わざるを得なかった。ニューヨークで最大の刑務所施設であるライカー・アイランドは、これまでにも囚人超過で何かと話題になっていたが、こんなとこにコロナウイルスが入り込んだら、ほとんど全員感染してくださいと言っているようなものだ。ワインステインは耐え切れるだろうか。 











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ある企業にアシスタント業務で勤め始めて間もないジェイン (ジュリア・ガーナー) は、新米なため、いつも人のやりたがらない、些細で時間ばかりとられる仕事が回ってくる。休みもろくにとれず、今回も彼女一人週末出勤だった。同じくアシスタントではあるがジェインの先輩にあたる二人の男性アシスタントはジェインを歯牙にもかけず、ほとんど同僚とも思っていない。そこへ上司が西海岸で知り合ったという女性がニューヨークを訪れ、ジェインはそのホテルの手配や世話まで頼まれる。その女性が仕事とはほとんど関係ない、上司のプライヴェイトの浮気相手というのはほぼ周知の事実だが、ジェインは嫌ということもできず、鬱々した気持ちを抱えながら仕事をこなすが、しかし、ジェインはどうしても納得のいかないものを感じていた‥‥ 


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