Terminator Salvation


ターミネーター4  (2009年5月)

2018年。スカイネットと人類との戦いは終わることなく続いていた。スカイネットは圧倒的有利な立場にいながら、ジョン・コナー (クリスチャン・ベイル) を筆頭とする抵抗軍を完全に制圧できずにいた。そんな時、マーカス (サム・ワーシントン) という記憶を亡くした、非常に戦闘能力に優れた男が現れる。マーカスは抵抗軍の正規隊員になることに憧れるカイル・リース (アントン・イェルチン) に導かれてコナーの元を訪れる。果たしてマーカスは何者なのか。そして母のメモに、是が非でも守らなければならないと記されていた若者リースの素性は‥‥


___________________________________________________________


最近のハリウッドのシリーズのアクション、スーパーヒーローものは、そもそもの発端は何だったかという原点に戻ることが流行りだ。「スター・トレック」もそうだし「ウルヴァリン」もそうだった。これらのブームの火付け役が「バットマン・ビギンス」であったことは間違いない。その後、「スーパーマン」もその出自を確かめる旅に出ざるを得なかったし、「スパイダーマン」も自分の存在理由に悩むなど、ほとんどのこの種の作品で原点探しが展開されている。


「ターミネーター」の場合、これらのブームとはちょっと話の位相が違う。元々「ターミネーター」はタイム・トリップによって未来のキャラクターが現在に送り込まれ、未来を変えようという話であり、建て前上の現在から見た過去、未来という視点はあるが、基本的にそれらが堂々巡りしている。どこが、何が原点かというそもそもの話の発端を決定しにくい。だからこそ今回の話がついにこれまでのように現在ではなく未来を舞台にしていても、特に違和感はない。これまでも少しずつではあるが、未来世界は描かれていた。


一方でシリーズは「1」から順に少なくとも主要舞台は時間軸順に進んでいるとはいえ、そのため、「ターミネーター」は主人公ジョン・コナーの成長物語としても見ることができる。とはいえそのすべてでコナーを演じる俳優は別人だ。その気になれば、「2」で少年ジョンとして登場したエドワード・ファーロンがその後のすべての作品でジョン・コナーを演じることもできたはずで、むしろその方がシリーズの説得力も増したはずだが、そういう風にはならなかった。「3」で成長したジョンを演じたニック・スタールの印象は少し華奢過ぎて、彼をよく覚えている者はあまりいないだろうと思われる。


作品名が端的に示している通り、「ターミネーター」シリーズの主人公は、ターミネーターなのだ。これはシリーズにおいて、誰がジョン・コナーを演じるかはほとんど話題にならないのに、これまでターミネーターを演じてきたアーノルド・シュワルツネッガーが、次もターミネーターとして出るかが大きな話題となることからもわかる。


ついでに言うと、そもそものオリジナルの「ターミネーター」において、シリーズ主人公のコナーは登場していない。彼は話の軸になる人物として、未来から来た謎の男カイル・リースの口からその存在を明らかにされるだけで、誰も彼の本当の素性を知らない。要するにそもそもの出だしから、ジョン・コナーは裏主人公とでも言うべき存在だった。その時はまだシリーズ化されるかどうかもわからない作品において、主人公不在のまま始まった「ターミネーター」。そしてもしかしたら主人公はついに我々の目の前に姿を現すことなく終わるかもしれなかったという恐るべき作品の主人公であり、そして毎回別の俳優が演じている主人公ジョン・コナー。彼こそが殺しても死なないターミネーターのような存在だ。しかし、そもそも本当にジョン・コナーは存在しているのか。


そして今回新しくその主人公ジョン・コナーを演じるクリチャン・ベイルは、「ターミネーター」だけでなく、「バットマン」でも主人公バットマン=ブルース・ウエインを演じている。そしてその最新の「バットマン」である「ダークナイト」においては、人が覚えているのは主人公バットマンではなく、悪役のジョーカーを演じたヒース・レッジャーだろう。アメリカを代表するアクション大作シリーズの2本で主演というビリングを振られながら、その両方で実は主人公とは言い難い地点に甘んじるしかなかったという、なんともアンラッキーな役が続いている。


「4」では、「1」で建て前上の主人公だったカイル・リースがまた登場する。とはいってもそのリーズを演じたマイケル・ビーンの顔なんかもう覚えてない。今回そのリースを演じるのがアントン・イェルチンで、こないだ「スター・トレック」でもエンタープライズ号の操縦士に扮しているのを見たばかりだ。実はイェルチンは今年のハリウッド大型アクションの裏主人公だ。ただしあちらでもこちらでもまだ青二才で、地球の将来はこれからの彼の成長次第にかかっている。


実は「ターミネーター4」公開を直前にして、FOXで放送されていたもう一つの「ターミネーター」であるTVシリーズ「ターミネーター: ザ・サラ・コナー・クロニクルズ (Terminator: The Sarah Connor Chronicles)」が、成績不振のため打ち切りとなって最終回を迎えた。最後のエピソードが製作放送された時にはまだ番組がキャンセルか継続かの正式の発表がなかったため、番組製作者はこれで番組の最終回ともまだ続いていくともどのようににもとれるニュアンスを含めた話にしていた。


後日それが番組の最後であることが決まったその最終回において、まだ若いティーンエイジャーのジョン・コナーは未来に飛ばされる。結果として、それが「ターミネーター4」に続く前日譚のような一連の話の流れを構築しており、期せずして「4」公開に向けて話が加速していくような印象を受けた。時々、狙ったわけでもなかろうに、このようなできた展開を迎える作品もある。つい最近、今年最大の不運な作品「路上のソリスト」が公開されたばかりなので、その正反対で印象に残った。いずれにしても当然、ここでジョン・コナーを演じているのはまたまた別人のトマス・デッカーだ (ついでに言うとサラ・コナーを演じたのは「300」のレナ・ヘディ。シュワルツネッガーは登場しない。)


SF作品において、タイム・トラヴェルは永遠のテーマであるわけだが、「ターミネーター」の場合、登場人物はなんとか未来を変えようと、あるいは変えないでおくために四苦八苦し、最終的になんとか目的を達成する。しかしよく考えると彼らの行動はたぶんに多くの矛盾を含んでいる。今回、コナーは母のメモに従って、是が非でもカイル・リースを守る使命を得る。コナーはまだ知らないが、後日ターミネーターが、ジョン・コナーがこの世界に生まれないようにするため過去に飛ばされる。それを阻止するためカイル・リースもターミネーターの後を追って過去に飛ばされる。


つまりスカイネットがターミネーターを過去に飛ばそうと考えることがなかったら、カイル・リースもその後を追って過去に飛ぶことなく、その結果、サラ・コナーと結ばれてジョン・コナーが生まれることもなかった。スカイネットは、わざわざ自らの天敵を自ら生み出したと言える。


登場人物が命に代えて達成しようとした目標目的は、大きな視点から見ると最終的に何も変わっておらず、いわば予定調和以外の何ものでもない。結局過去も未来も我々が知っているままなのだ。今回も大山鳴動して、実は本質的に変わったことは一つもない。マシンも含めた登場キャラクターのすべてが未来を変えようと躍起になって、結局落ち着いた先は従来通りだ。運命は決まっているものとして、人だけでなくマシンすら足掻こうが変えられない窮屈な世界と見るべきなのか。


「ターミネーター」は、こういう大きな網の目に絡めとられた登場キャラクターの足掻きを描く、運命論的な作品だ。我々はたとえどう動こうとも、結局それは予め決められた世界の再構築に貢献することしかできない。「ターミネーター」は、なんともはやペシミスティックなSFアクション・シリーズになってきた。








< previous                                      HOME

 
inserted by FC2 system