放送局: ショウタイム
プレミア放送日: 7/8/2002 (Mon) 22:45-23:00
製作: ロード・セールス
製作総指揮: ユーリック・フェリスバーグ
製作: ニコラス・マックリントック
内容: 著名な映画作家7人に、「時間」をテーマに10分ずつの短編を撮らせる試み。
内訳は:
ヴェルナー・ヘルツォーク「テン・サウザンド・イヤース・オールダー (Ten Thousand Years Older)」
チェン・カイコー 「100フラワース・ヒドゥン・ディープ (100 Flowers Hidden Deep)」
ヴィクトル・エリセ「ライフライン (Lifeline)」
ジム・ジャームッシュ「インテリア.トレイラー.ナイト (Int. Trailer. Night)」
アキ・カウリスマキ「ドッグス・ハヴ・ノー・ヘル (Dogs Have No Hell)」
スパイク・リー「ウィ・ワズ・ロブド (We Wuz Robbed)」
ヴィム・ヴェンダース「12マイルス・トゥ・トロナ (Twelve Miles To Trona)」
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「テン・ミニッツ・オールダー」は、著名な映画作家7人に、一人ずつ10分の作品を撮らせてみようという、斬新な企画番組である。色んな映画作家が関与するオムニバス作品というのは昔からあったし、今でももちろんある。「テン・ミニッツ・オールダー」の場合、TVチャンネルとしてのショウタイムが、毎週10分間の専用の枠を設け、「時間」を題材に毎週毎週一話ずつ放送することに特徴がある。つまり、10分枠の一話完結のシリーズ番組となっているのだ。
しかし、まあ、とはいえ、それでもこういった企画が目新しいかというとそんなことはなく、大同小異の企画は、これまで掃いて捨てるほどあった。それが今回に至っては何がそれほど惹かれるものがあるのかというと、それは、その10分の作品を撮る映画作家の人選に他ならない。この企画に参加して作品を撮った映画作家は、ヴェルナー・ヘルツォーク、チェン・カイコー、ヴィクトル・エリセ、ジム・ジャームッシュ、アキ・カウリスマキ、スパイク・リー、ヴィム・ヴェンダースという7人であって、なぜこの中にスパイク・リーが同列で並んでいるかは私にはわけがわからないが、それでもこの人選を見て気にならない映画ファンなんて、この世には一人もいまい。
実はこの番組、既にカンヌ映画祭で7本をまとめた1本のオムニバス映画として上映されている。つまり、最初は劇場用映画として企画されたもののようで、ショウタイムはこのようにして製作された作品に金を出して放送権を買い取り、さも自分たちが製作したTV映画のようにして放送することがよくある。番組製作者を見るとどうもイギリスの人のようであり、やはり「テン・ミニッツ・オールダー」もそういった例であるようだ。
さて、その中身であるが、見る前に私が最も興味を持ったのは、一昨年、新作の「ミリオンダラー・ホテル」を見逃して悔しい思いをさせられた、ヴィム・ヴェンダースの「12マイルス・トゥ・トロナ」、10年毎にしか作品を撮らないヴィクトル・エリセの「ライフライン」、アキ・カウリスマキの「ドッグス・ハヴ・ノー・ヘル」あたりである。それ以外にも80年代、ヴェンダースと共にドイツ映画のちょっとしたブームを築いたヘルツォークの名前も見える。これでファスビンダーがまだ生きていたら、当然彼もこの中に入っていただろう。また、恥ずかしながら告白してしまうと、実は私はこれまでにカウリスマキを見たことがないのだ。そういうこともあって、放送が待ち遠しい思いをしていた。
それにまた、エリセ、ジャームッシュが並ぶあたりの人選には、思わずにやりとさせられる。初めてデビュー作の「ミツバチのささやき」が公開され、続け様に「エル・スール」が紹介されたエリセ、そして「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を引っさげて華麗にデビューしたジャームッシュ、そして次作の「ダウン・バイ・ロー」と、80年代にこの二人の映画を見て影響を受けなかった映画好きはいない。この二人の新作が毎年公開されるならば、それ以外他の映画なんて要らないと思えた時期が確実に存在したのだ。
特にジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と「ダウン・バイ・ロー」は今見ても、頭の中にあるいは皮膚感覚として沈殿していたこれらの映画を見た時代の気分や雰囲気が、濃厚に甦ってくるのを感じる。そういう感覚をこれほど強烈に感じるのは、私にとって後にも先にもジャームッシュしかいない。結局「ダウン・バイ・ロー」を頂点として、ジャームッシュはその後はほとんど面白い作品を撮れなくなってしまったのだが、だからこそジャームッシュの初期の作品は、あの時代にしか生まれ得なかった稀代の作品として存在し続けるのだと思う。
さて、これまでに私が見たのは、今のところ先に述べたヴェンダースの「12マイルス・トゥ・トロナ」、カイコーの「100フラワース・ヒドゥン・ディープ」、ジャームッシュの「インテリア.トレイラー.ナイト」である。やはり思ったのであるが、たとえ10分とはいえ、確かに作り手の特質というのは紛いようがなく画面上に現れるが、しかし、10分で強烈に印象に残ることのできる作品を作れるかというと、首を傾げざるを得ない。
例えば「12マイルス・トゥ・トロナ」の場合だと、アメリカ中西部の半分は砂漠の風景を見ただけでいかにもヴェンダースっぽいと思わせるし、後ろで使われるロックの選曲のセンスが、私はまったく知らないバンドの曲だったけれども、これまたなかなか渋い曲で、ヴェンダースの趣味のよさが伺われる。どうせ短いのでできる限りセリフを排して、ヴィジュアルだけでストーリーをわからせようとする姿勢も正しいと思う (しかし、どういうストーリーかということを説明するとなると、これもまた難しい。結局、これはいったいどういう話なんだ?) つまり、どうしてもたったの10分ではポイントだけ抑えて終わり、みたいな感じで、よくできた学生映画みたいな印象を拭えない。
その点、話としては、10分で起承転結つけた「100フラワース・ヒドゥン・ディープ」の方がよくできているという気がする。よくできた短編みたいな話には確かになっていた。作品としてヴェンダースよりよいとか悪いとかではなく、こちらの方がまとまっていた、くらいの意味でしかないが。
しかし私がここまでに見た3本の中で一番気に入ったのは、ジャームッシュの「インテリア.トレイラー.ナイト」である。映像関係者ならタイトルを見てすぐどういう内容か察しがつくのだが、これは脚本のシーン毎のヘッダーの書き方で、要するに、夜間のトレイラーでの室内撮影のことを意味している。もうそれだけで、多分映画かTV撮影をしている俳優がトレイラーの中にいるというのが舞台設定になっているんだろうなということがすぐわかる。その俳優はクロイ・セヴィニーで、知られていない俳優ばかりが出演しているこのオムニバスの中で、多分彼女が他の俳優に較べれば最も知名度があるだろう。ここでのセヴィニーは、なんか、昔のエジプトを舞台とする映画でも撮っているかのような衣装を着ているのだが、これがまた昔のハリウッド的正統美人系の風貌のセヴィニーとよくマッチしている。ジャームッシュは、彼女にこの衣装を着させるためだけにこの短編を撮ったんじゃないかと思えてくる。多分この想像は当たらずとも遠からずだろう。
この話は白黒で撮られているのだが、ジャームッシュって、白黒で撮るとなぜだか映える。考えれば「ストレンジャー・ザン・パラダイス」も「ダウン・バイ・ロー」も白黒だったし。白黒という媒体と非常に相性がいい。その上、やはりジャームッシュの作品って、登場人物が煙草を吸わないとジャームッシュの作品にならない。一言で言って、「インテリア.トレイラー.ナイト」は、ジャームッシュの「コーヒー・アンド・シガレッツ (Coffee and Cigarettes)」シリーズの続編みたいなのだ。最後にセヴィニーが吸いかけの煙草を皿に乗った食いかけの食べものに突っ込んで火を消すところなんかも、行儀は悪いが、いかにもジャームッシュの作品という感じがするだけでなく、セヴィニーがいわれのない焦燥感を感じている雰囲気が非常によく伝わってくる。でも、このシーンを見て顔をしかめる日本人は多そうだ。
しかしジャームッシュは煙草、あるいは煙草の煙にいたく執着しているようで、この辺も彼が白黒と相性のいい理由になっているのだろう。彼はもしかしたら40年代のフィルム・ノワールこそが本当に彼に向いていた時代だったかもしれない。ついでに言うと、ジャームッシュの映画において煙草が本当に印象的に用いられるのは、必ず異様に汚い灰皿と共にスクリーンに現れる時だったりする。
結局10分間でいったい何ができるかというと、こういう風に、人生のある瞬間、断片を切り取るというのが、最も方法論としては適していると言えそうだ。実はこの企画はこれで終わりではなく、第2弾製作も発表になっている、というかもう既に製作されているようで、今度はベルナルド・ベルトリッチ、ジャン-リュック・ゴダール、フォルカー・シュレンドルフといった、やはり気になる名前が挙がっている。そちらの方も楽しみだ。
