テン・メーター・タワー   Ten Meter Tower (Hopptornet) 

nytimes.com 

2017年2月 (16分) 

製作: フィルム・イ・ヴァスト、 

監督: アクセル・ダニエルソン、マキシミリアン・ヴァン・アートリック 

 

内容: 飛び込み未経験者に10メーター・プラットフォームからプールに飛び込んでもらう。


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Ten Meter Tower


テン・メーター・タワー   ★★★

10mプラットフォーム・ダイヴィング、いわゆる高飛び込みが結構好きだ。スプリングボードも嫌いじゃないが、やっぱりプラットフォームの方がエキサイティングだと思う。やるのも見るのも好きだと言えたらどんなに満足できるかと思うが、いかんせん高所恐怖症の私としては、10mプラットフォームに昇ることだけでも心臓ばくばくもんだ。だからこそ自分ではまったくできないことを美しくこなすプラットフォーム・ダイヴィングに惹かれるんだろう。 

 

というわけでもっぱら見ること専門だ。ケーブルのスポーツ・チャンネルの拡大によって、10年くらい前まではまずオリンピック時以外は見ることのなかったダイヴィングの競技会が、夏には普通に中継されるようになったため、オリンピックだけじゃなく、今では毎年結構色々見ている。 

 

ダイヴィングというとまず中国だが、アメリカでも結構盛んであり、オリンピック優勝者も出している。ロンドン五輪でプラットフォームでデイヴィッド・ボウディアが優勝した直後には、そこそこ話題になったこともあって翌年、FOXが「スターズ・イン・デンジャー: ザ・ハイ・ダイヴ (Stars in Danger: The High Dive)」、ABCが「スプラッシュ (Splash)」という、セレブリティによるダイヴィング・コンペティション・リアリティを編成したこともある。 

 

10mプラットフォームの場合、ただプールに飛び込むというそのことだけでも結構怖い。おおよそスポーツというものは見るとやるとは大違いで、TVでは簡単そうに皆やっているように見えるのに、自分でやろうとしてもまったくうまくいかないというものだらけだが、プラットフォームは、演技も何も、ただ下に落ちるだけという、そのことだけが結構恐怖でできない。私もかつて代々木のオリンピック・プールで試しに10mに昇ってみたことがあるが、下を見た途端怖じ気づいて止めた。あれは私みたいに高所恐怖症の者にとっては、本気で怖い。 

 

しかしその怖さは、自分でプラットフォームに昇ってみないとわからないものだ。経験のない者は十中八九、捻りや回転を入れずただ下に飛び込む、それも頭からでなく足から落ちていいというなら、簡単にできると思っているだろう。実際私もそうだった。その考えが大きな誤りだというのは、自分で実際にプラットフォームに昇って、下を見下ろしてみないとわからない。 

 

「テン・メーター・タワー」は、そういう、かつての私みたいな素人に対し、では、上に昇って飛び込んでみませんか、飛び降りるだけでいいです、謝礼として30ドル差し上げますという趣旨で撮影された、わずか16分のドキュメンタリーだ。生まれて初めてプラットフォームに昇った素人スイマーたちがどういう反応を示すのかを具さにとらえるという、たったそれだけといえばそれだけの作品だ。 

 

カメラはプラットフォームの正面、プラットフォームから水面までをとらえた横からのロング、そして水面下の三つのアングルしかない。画面を中央で分けたスプリット・スクリーンで二者同時にとらえるというのも多い。単純に何十人もの参加者が、プラットフォームでうろたえ、決心し、やっぱりできないと諦め、いややっぱりやると再度心を決め、それなのにやっぱり飛び込めなかったり、ついに意を決して下に落ちていくまでだけを、固定カメラが延々ととらえる。 

 

ただそれだけの話なのにそれがやたらと面白いのは、やはり人の感情、それも恐怖、怯えという強い感情、そしてそれを克服しようという葛藤が、隠しようもなく態度や表情に現れてくるからに他ならない。一旦をはダメだと諦め、それでも奮起し直して飛び込んだ70歳くらいの婦人、友人と二人でたぶん軽い気持ちで昇ってきたものの、足がすくんでどうしても飛び込めない黒人のティーンエイジャーの少年、カップルで挑戦する者たちと、様々な者たちがプラットフォームに昇る。 

 

撮影されたのはスウェーデンで、基本的にとらえられているのはほぼ白人だ。前出の黒人ティーンは、ほぼ例外と言える。当然出てくる者はほとんどがスウェーデン語を喋っており、英語の字幕がつく。意外に女性も多く、というか、最後まで尻込みして悶々とする男性が多いのに対し、ここまで来たらと、案外すんなりと飛び降りるのは女性の方に多い。この試み、67人が挑戦して、約7割が実際に飛び降りたそうだ。これを多いと見るか少ないと見るかは意見の分かれるところだろう。 

 

また、これが金銭の授受が伴う契約に基づくものではなく自由意志だったとしたら、この数字は多少下がると思われる。実際に10mプラットフォームに昇って端から下を眺めるところまで行ったら、必ずしも飛び降りなくてもいいという契約だったそうだが、金銭の縛りや飛び降りてみせると宣言した者のプライドから決行した割り合いは、小さくなかったと思われる。知人からの激励も、人が見ているというプレッシャーもあっただろう。私なら、うーん、今ではどんなに金を積まれてもやりたかないな。 

 

「テン・メーター・タワー」は、今年のサンダンス映画祭で上映された。だから実際にはどちらかというとドキュメンタリー映画であり、TV欄に書くよりは映画欄に書く方が適切かとも思ったが、実際に私が見たのはニューヨーク・タイムズのサイトで評され公開されていたストリーミングであったので、こちらの方に書いた。たぶんニューヨーク・タイムズが紹介しなければ、知らない人が多いまま忘れ去られる運命にあったと思われるので、私も微力ながらこんな面白い作品もあると紹介させて頂く。











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