Taking on Tyson   テイキング・オン・タイソン

放送局: アニマル・プラネット (AP)

プレミア放送日: 3/6/2011 (Sun) 22:00-23:00

製作: タッチ・プロダクションズ、タイラニック・プロダクションズ

製作総指揮/出演: マイク・タイソン、マリオ・コスタ (地主)、フニー・ロマン (世話係)、ヴィニー・トーレ (コーチ)

ナレーション: マイケル・ケネス・ウィリアムズ


内容: レース鳩飼育に挑む元ボクシング・へヴィ級チャンプ、マイク・タイソンに密着する。


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Taking on Tyson


テイキング・オン・タイソン   ★★1/2

マイク・タイソンというのは、字面からして強そうだ。名前だけでも、こいつと喧嘩しても勝てそうもないと思わせるのに、顔を見るとさらに凶暴な面が屈強な身体の上に載っている。現役を引退した今でも、タイソンと一戦交えてみたいなんて考える格闘家はあまりいないのではと思う。


そのタイソン、一時世界最強であるのはどこから見ても間違いないと思えた。とはいえレイプ事件で有罪となって実刑判決、その後1995年に出所してのピーター・マクニーリー相手の復帰第一戦で、私は、さすがにタイソンといえども刑務所から出た直後で、試合カンが鈍っているのは間違いないだろうと、さして期待するものもなくカウチに横になってTVを見ていた。


そしたらゴング直後からの打撃戦、ぶん回している腕の風切り音が聞こえてきそうな速くて重そうなフック、そしてマクニーリーを1ラウンドでマットに沈めたアッパーと、気がついたら飛び起きてカウチに正座して見ていた。ありゃすごかった。確かPPVで40ドルくらいを払って見たのだが、たった2分で充分元はとったと思わせた。その後ホリフィールドとの噛みつき戦等、強さ以外でも話題を提供したが、とにかく我々の世代では、世界一強い男といえば10人中9人はタイソンの顔を思い浮かべるのではないかと思う。一昨年の「ハングオーバー (The Hangover)」でも久しぶりに雄姿を見せ、タイソン健在を印象づけた。


一方、タイソンは見かけによらず声は甲高い。さらに唯一の趣味と言えるものは鳩の飼育と、実はまるでボクサーっぽくない。タイソンがボクシングに目覚めた、初めて切れて人を殴ったのは、可愛がっていた鳩を殺されたからというのは、かなり有名な話だ。吹っ飛んだ相手を見て自分のパンチ力に気づいたのが、タイソンのボクサーとしての出発点だった。HBOが製作したタイソンの伝記ドキュドラマ「タイソン」でも、タイソンと鳩の挿話はかなり念入りに描かれていた。


話は変わるが、うちの会社のボス (女性) は以前そういう興行ビジネスと関わりがあって、タイソンと実際に面識がある。彼女によると、レイプ事件というのが信じられないくらいなかなか紳士的な態度だったそうだ。一方、その時タイソンのプロモーターだった悪名高いドン・キングは本当に腹黒い奴で、二人きりになった時に迫られたことがあるそうだ。なんとか事なきを得たが、あいつは信用できんと言っていた。こっちの方はいかにもという感じで、まったく頷ける。


タイソンが育ったのは、ブルックリンの東側に位置するブラウンズヴィルと呼ばれる、ニューヨークの、たぶん全米でも最も劣悪な環境の町の一つだ。同じブルックリンでも西側は、白人の金持ちの住むパーク・スロープやプロスペクト・ハイツといった高級住宅街が広がっているが、そこからそう遠くない東側のブルックリンは、いきなり雰囲気がヤバくなる。


NYのサブウェイは、マンハッタンを離れると、かなりの部分地上に出て高架になる。そうすると、ブルックリン東部では、街並みが極端に変わるのが見てとれる。いまだにビルに落書きが描かれ、条例で禁止されているはずの洗濯物が、窓外に紐で干されていたりする。とにかく、五感にやばいやばいという危険信号が点滅する。いきなり湿度や温度が変わったような気になる。「危険」を手にとって触れそうな町なのだ。


ある時、そこで育って住んでいる知人のアパートに夜、クルマで行ったことがあるが、身も凍えそうに寒い氷点下で、公道にドラム缶を持ち出してゴミを燃やして暖をとっている裸足の男どもがいた。クルマの中からでも怖くて目を合わせられなかった。何を言っても刺されそうな気がした。私の知人も非常にひねったユーモアの持ち主だったが、こんなところで育って無事であるわけがないと思わされた。こういうところでタイソンも育ったわけか。少年時代の逮捕歴何十回というのも頷いてしまう。


最初私は、タイソンがまたここに戻ってきてレース鳩を飼育するのかと思っていた。そしたら背景と並んでかなりの見ものになると思えた。そしたらそうではなく、番組はブルックリンではなく、逆にマンハッタンから西側に川を渡って対岸のジャージー・シティに鳩舎を構え、そこで飼育に専念するタイソンをとらえる。ブラウンズヴィルにも一応足を運んで、オレはここでボクシングに目覚めたんだという街頭や、収監されていた少年院等の前に立って紹介したりもするが、基本的に話はニューヨークではなく、ニュージャージーで展開する。


考えたら、趣味ではなく、本気でレース鳩を飼育するつもりなら、かなりの土地、あるいは大きな家が必要と思えるが、今さら昔住んでいたプロジェクトと呼ばれる低所得者向けの集合アパートの敷地や屋上で、そういうことをする許可は下りないだろう。一方、レース鳩のレースは多くニュージャージーで開催され、飼育する者たちもだいたいそこに住んでいる。鳩舎をニュージャージーに持つのもほとんど当然の成り行きだった。


実は私は今ジャージー・シティに住んでいて、それはそれで今度は逆に素材が身近で親近感を覚える。背景に映るマンハッタンの摩天楼なんかは、かなり私が住んでいるところから見る構図に近い。実はそれもそのはずで、タイソンが構えた新鳩舎や、仲間との溜まり場になっているらしいその後ろのバー・レストラン、道を挟んだ向かいにあるハンバーガー・ショップは、わりとうちから近いところにあるのだった。見覚えのあるマンハッタンの遠景どころか、見覚えのある近所だと認識した時は、思わず、あっと声を上げた。ここだったのか。


「リングサイド (Ringside)」というこのバー・レストランは、トネリ・アヴェニューというジャージー・シティの古い幹線沿いにある。映画を見に行った時等は、よくこの道を通って帰る。リングサイドも看板をクルマから見ながら、店名からしてボクシングかレスリングと関係ありそうな店だなと思っていた。カメラが中を見せると、実際階上はボクシング・ジムのようになっており、サンドバッグやリングがあって練習できるようになっている。めったに見ないポルトガル料理という看板も気になっていたので、いつかは行ってみたいと思っていたのだが、しかしこの辺り、実はジャージー・シティの赤線地帯で、ブラウンズヴィルのように危険というほどの場所ではないが、しかしそれでも真っ当な人間が家族や女房連れで飯食ったり酒飲んだりするところではない。


一方、リングサイドの道を挟んだ向かいに、「ホワイト・マナ (White Mana)」というこれまたなにやら年季の入ったハンバーガー・レストランがあり、歴史だけはありそうだがうさん臭そうな雰囲気をぷんぷん発散させている。ものすごくグリージーなハンバーガーが出てきそうで、ここもいつか体験したいとは思いつつも、ちょっと決心が必要で重い腰が上がらなかった。ここも中にはタイソンの写真が貼ってあったりして、昔から関係があるようだ。


さて、番組だが、さすがにタイソンが昔から鳩を育ててきたとはいっても、専門的なレース鳩の飼育というのは容易なものではなく、近くの町ホボケンに住む専門家を連れてきて、アドヴァイスを受けたりしている。鳩レースというのは、鳩を遠くに連れて行ってそこから放し、飼い主の鳩舎に帰ってくるまでのタイムを競う。でも、そしたら放した場所に近いところに鳩舎を持っている者が有利じゃないかと思うが、そうではなく、かかった時間を距離で割って、平均スピードで優劣を決める。


また、慣れない鳩は、本能で鳩舎近くまでは帰ってきても、鳩舎の中に入らず、ただ上空を旋回していたりする。降りてくるまで1時間近くかかることもあるそうで、それならまだしも、降り切れずにどこかに行ってしまったりする鳩もいるらしい。それでも、いったん鳩を放してしまったら、地上で人間ができることは何もない。殴って言い聞かせることもできないのだ。


こないだこの辺をクルマで通った時、「リングサイド」の後ろの、「タイソンズ・コーナー (Tyson’s Corner)」と名づけられた鳩舎近辺に注意していた。そしたら、タイソンズ・コーナーが白い布で覆われていた。もしかしたら撮影が終わったので鳩舎を閉じたのかと思ったが、そのそばに、たぶん鳩のケアテイカーとして紹介されていたフニーと思われる人物が立っていた。もし鳩舎を閉じていたら彼がそこにいる必要はないと思われるが、空を見渡しており、これはもしかして鳩の帰りを待っているのかという気がした。番組の第2シーズンに備えているとか???








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