Total Request Live  トータル・リクエスト・ライヴ

放送局: MTV

プレミア放送日: 9/14/1998 (Mon) 15:30-16:30

ラスト・エピソード放送日: 11/16/2008 (Sun) 20:00-23:00

製作: MTV

ホスト: デミアン・フェーイ、カーソン・デイリー


内容: 10年間続いたMTVのミュージック・ショウの最終回。


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ミュージック・テレヴィジョン (Music Television) を略したのがチャンネル名であるはずのMTVには、現在、音楽番組はほとんど残っていない。代わってティーンエイジャー向けのカルチャー発信チャンネルと自らアイデンティティ付けしたMTVの現在の最大の人気番組は、リアリティ・ドラマの「ザ・ヒルズ (The Hills)」だ。


「ヒルズ」は、元々はMTVがこの路線を邁進するきっかけとなった人気リアリティ・ドラマの、「ラグナ・ビーチ (Laguna Beach)」」からのスピンオフ番組だ。それがいつの間にやら本家を超える人気番組となり、現在ではさらに「ヒルズ」に出演していたキャラクターを起用した、さらに新たなスピンオフ・リアリティの「ブロマンス (Bromance)」、および「ザ・シティ (The City)」も始まっている。


因みに「ラグナ・ビーチ」は、一時期人気のあったFOXの「ジ・O.C. (Orange County)」にあやかり、そのオレンジ・カウンティの海沿いの高級住宅地に住む若い男女の生態を、脚色も加えて撮影したリアリティ・ショウだ。「ザ・ヒルズ」は「ラグナ・ビーチ」に出演していたローレン・コンラッドを主人公とし、「シティ」はそのコンラッドの友人の女性がLAを離れ、ニューヨークで新しい生活をする様をとらえる。


「ブロマンス」にいたっては、コンラッドの元ボーイ・フレンドの友人の座を賭けて勝ち抜きで争うリアリティ・ショウだ。それなりに若者の間では注目されているこれらの番組を見たいという気持ちにまったくなれない私は、既にティーンエイジャーたちとは話せない中年世代ということを痛感せざるを得ないのだが、つまらないものはつまらないとしか言いようがない。ああ、世代の断絶。


因みに「ブロマンス (Bromance)」とは「ブラザー (Brother)」+「ロマンス (Romance)」の造語で、若い世代では実際に使われている (らしい。) 要するに最近流行の言葉で言えば、BFF (Best Friends Forever) の男性版だ。しかし稀代の名物女、パリス・ヒルトンがBFFを勝ち抜きで選ぶ様を番組にする「マイ・ニューBFF」くらいだとまだ笑って見ていられるのだが、「ブロマンス」になってしまうと、男がマブダチを得るのにTVの勝ち抜きリアリティなんか利用するな、とふつふつと怒りのような感情が湧き上がってくるのだった。てめえ、男なら、TVで友人を公募するくらいなら、一生友人なんか要らないというくらいの気概を見せろ! ああもう腹の立つ!


さて、かなり脱線したが、そういう現在のMTVにおいて、最後の牙城とも言える音楽番組が、「トータル・リクエスト・ライヴ (Total Request Live)」こと「TRL」なのだった。むろん変貌したMTVとはいえ、深夜は今でもミュージック・ヴィデオをやっているが、日中見られる番組としては、「TRL」をおいて音楽番組は他にない。ニューヨークのタイムズ・スクエアから平日毎日生放送の「TRL」は、その希少性もあってか2000年代前半はかなり高い人気を誇っていた。しかしそれも時代の波には勝てず、近年では視聴率はジリ貧だった。ライヴが売りの「TRL」が、近年では録画になって撮り溜めしたものを垂れ流すようになり、定時枠から外されるようになった。そしてついにMTVは番組の終了を決定した。


「TRL」は基本的にティーンエイジャーが対象の生番組だから、放送時間は彼彼女らが学校を終えて家にいる、いわゆる放課後の時間帯だ。この時間に普通に働いている成人男女が家にいることなぞほとんどないから、私が時たま番組を見る時は、だいたい再放送だ。それでも、つい一昔前まではプライムタイムにあったりした再放送が近年ではほとんどなくなるなど、番組の人気が低下しているのは、私のような特に番組のファンというわけではない者にもはっきりとわかった。


「TRL」の番組としての人気の変遷は、かなりの部分ブリトニー・スピアーズのそれと一致する。番組の人気が上がり始めた頃、安定期、下がり始めた頃というのは、スピアーズのキャリア上の人気推移とかなり重なるのだ。実際、「TRL」は当初、スピアーズを何度もスタジオに呼ぶことでスピアーズ共々人気を獲得した。もちろんスピアーズと時を同じくして活躍したイン・シンクやクリスティーナ・アギレラとかも、「TRL」に何度も足を運ぶことで露出度を高めた。一時期の東京放送の「ベストテン」のような番組が、「TRL」という存在だった。若い子は本当に毎日のように番組を見ていたという印象がある。


その「TRL」の初代ホストが、現在NBCの深夜トーク「ラスト・コール (Last Call)」でホストを担当しているカーソン・デイリーだ。デイリーは「TRL」で音楽業界に築き上げた人脈を活用し、「ラスト・コール」のゲストとして呼ぶことで、音楽色の強い新たな深夜トークを成功に導いた。「ラスト・コール」は毎夜1時半からという、さすがに普通の仕事人が毎日そこまで起きていて見るにはきついというかぎりぎりの時間帯での放送なのだが、若い音楽好きにはアピールしている。


因みに現在のメイン・ホストであるデミアン・フェーイは、こちらも深夜トークの「レイト・レイト・ショウ」の前ホストのクレイグ・キルボーンが辞めた時、その後釜を狙い、実際最有力候補の一人だった。しかしフェーイは最終選考まで残りながら、最終的にホストの座をクレイグ・ファーガソンに奪われている。


「TRL」最終回は、そのフェーイに、最後ということでまたデイリーも呼んで、二人して進行役を務める。この日は夕方ではなくプライムタイムに久しぶりの生放送、しかも3時間枠、さらにこの「TRL」を叩き台として世に出たアーティスト等をスタジオに呼んで、おしゃべりしたりパフォーマンスさせたりしながらの進行だ。スタジオに入りきれなかった観衆が、スタジオ前のタイムズ・スクエアに所狭しと群がっており、「TRL」全盛期の盛り上がりを久しぶりに見た気がする。


放送が始まり、まず初っ端にビヨンセが登場、いきなり「イフ・アイ・ワー・ア・ボーイ (If I Were a Boy)」、「シングル・レイディズ (Single Ladies)」、そして「クレイジー・イン・ラヴ (Crazy in Love)」を連続で歌う。最近、年の瀬の音楽関係の表彰セレモニー中継なんかを見ると、必ずと言っていいほど目玉はビヨンセのパフォーマンスだったりするが、それはここでも同じ。曲もほとんどの場合で「イフ・アイ・ワー・ア・ボーイ」と「シングル・レイディズ」だったりする。今回はさらに昔のヒットの「クレイジー・イン・ラヴ」までつく大盤振る舞いという感じだ。


しかし実はビヨンセの最新ヒットの「イフ・アイ・ワー・ア・ボーイ」を聴くと、私は結構違和感を感じてしまう。だいたい、結婚したばかりで人気といい私生活といい、今が仕合わせの絶頂にいるはずのビヨンセが、なんで「もし私が男の子だったら彼女の言うことを聞いてやるんだ、なぜなら失った時の辛さを知っているから」、なんてバラッドを切々と歌うんだ。あんたに哀しまれたり切なくなられたりしたら、世の中の他のすべての女性の立つ瀬がないじゃないか、などと思ってしまうのだ。当分はビヨンセにバラッドを歌うことを禁止させるべきではないのか。一方、打って変わって「シングル・レイディズ」では、よくあのナンバーをハイ・ヒールを履いたまま歌って踊れるもんだと感心する。途中の振りなんてダンスというよりはスクワットで、あれは臀筋強くないと立ち上がってこれないぞ、しかしバック・ダンサーもようやる。


などと、かなりビヨンセに紙面を費やすのはわけがある。実はビヨンセだけでなく、「TRL」には、かつての人気ボーイ・バンド、イン・シンクもよく出ていた。そして当然、そのリード・ヴォーカルのジャスティン・ティンバーレイクも、この最後の「TRL」に呼ばれてスタジオ入りしている。というと、ここでアメリカに住んでいるTV好きの人間ならピンとくるかと思うが、この二人、その前夜に放送されたNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」で、ビヨンセが「シングル・レイディズ」のミュージック・ヴィデオを撮るというスキットに、ティンバーレイクがバック・ダンサーとして参加するという形で共演しているのだ。


ティンバーレイクがハイレグのレオタードを着てビヨンセにケツ振り当てまくるという言語道断のダンスに、爆笑、というよりも唖然とした者の方が多いと思うが、しかしあれはキョーレツだった。翌日のほとんどの媒体でのホットな話題だった。で、二人また揃っていることだし、なんかまたやってくれないかと期待してみたりしたわけだが、結局二人は同じくゲストといっても同時にスタジオ内で顔を揃えるわけではなく、残念ながら「SNL」再現はならなかった。考えたら当然か。


番組はその後も、ビヨンセ、ティンバーレイクをはじめとして、番組ゆかりの人間がゲストとしてばしばし登場する。なんでもゲスト登場の回数が最も多いのは、ディディの37回だそうで、当然彼はまた現れて、感極まって涙を流し、デイリーから、嘘泣きか、あんたは演技がうまいからなと言われていた。その他にも、キッド・ロック、テイラー・スウィフト、マイリー・サイラス、クリスティーナ・アギレラ等の、今をときめく面々が続々と登場、あるいは中継で姿を見せる。乗っていた飛行機が墜落し、九死に一生を得たブリンク182のトラヴィス・バーカーも中継で顔を出す。エミネムも電話ではあるが声を聞かせ、今アルバム作りの真っ最中であることを明かし、デイリーの執拗なプッシュにもかかわらず、その内容に関しては口にしなかった。


パフォーマンスは上記のビヨンセを筆頭に、フォール・アウト・ボーイ、ルダクリス、50セント/スヌープ・ドッグ、バックストリート・ボーイズ等々。もちろん総集編のような内容だから、過去放送したものから印象的なシーンをピックアップしてまた見せる。この中での白眉は、やはり何を血迷ったか、超ぴちぴちのショート・パンツにぶかぶかのTシャツという格好でいきなり現れ、思わず絶句してどうしたんだ、どうしたんだと反復反応するしか脳のないデイリーを相手に、そのTシャツをめくってまったく見たくもない白ムチのたるんだ足をみせびらかしていた、ほとんどラリっているとしか思えないマライア・キャリーだろう。それにしてあのマライアは本当にいったいなんだったのか。


番組は要所要所で、この10年のミュージック・ヴィデオ・ベスト・テンのカウント・ダウン総集編も発表する。その順位は:



1. ブリトニー・スピアーズ "...Baby One More Time"

2. エミネム "The Real Slim Shady"

3. バックストリート・ボーイズ "I Want It That Way"

4. イン・シンク "Bye Bye Bye"

5. クリスティーナ・アギレラ "Dirrty"

6. キッド・ロック "Bawitdaba"

7. ビヨンセ・フィーチャリング・ジェイ-Z "Crazy in Love"

  1. 8.アッシャー・フィーチャリング・ルダクリス&リル・ジョン "Yeah!"

  2. 9.ブリンク-182 "What's My Age Again"

  3. 10. アウトキャスト "Hey Ya!"



その栄えある第1位に選ばれたブリトニー・スピアーズこそ、「TRL」と共に成長した、最も「TRL」と関係が深いアーティストだと思うが、結局彼女は番組に姿を現さなかった。出演を打診されたのは確実だが、最近はシンガーとしてよりもスキャンダル・メイカーとしての注目度の高いブリトニー、また世間に登場してパパラッチに追い回されることにうんざりしているということもあろう。デイリーから私生活について訊かれたら嫌だなと思ったのかもしれない。番組と共に一時代を築いた最大のスターが番組と袂を分かち、番組自体も最終回を迎え、そうして時代は次の時代へと変わっていく。








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Total Request Live


トータル・リクエスト・ライヴ   ★★1/2

 
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