Sunshine State

サンシャイン・ステイト  (2002年7月)

マイク・マイヤーズの「オースティン・パワーズ: ゴールドメンバーズ」は思ったよりも人気があるようで、どこもかしこもこの作品の話で持ち切りである。私は「1」しか見てなく、ほとんど笑えなかったのでそれきりこの作品には興味がなくなってしまったのだが、「ゴールドメンバーズ」に対する巷の反応を見ると、ほとんどの者が見に行く気でいるようだ。まあ、少なくとも予告編は面白そうに見えたのは確かではあるが、それは「1」だってそうだった。要するに皆、笑える作品に飢えているのだろう。


とはいえ私はやはり食指が動かなく、結局ジョン・セイルズの新作、「サンシャイン・ステイト」を見に行くことにする。セイルズは一定のレヴェルには達している作品を定期的に発表しているわりには、いかにもインディっぽい地味な作風が災いしていつも新作は限定公開ばっかりで、どうしても巷の話題になるようなヒット作には恵まれない。ここはセイルズに新作を撮り続けてもらうためにも、微力ながらも協力を惜しんではいられない。


フロリダの海岸沿いの町に、デズリー (アンジェラ・バセット) が結婚したばかりの夫レジー (ジェイムズ・マクダニエル) を連れて帰ってくる。15歳の時に母と相容れず、妊娠して逃げるように町を出たデズリーの、何十年ぶりかの帰郷だった。町では海岸沿いの家を買い取って再開発しようとする業者が出入りしており、町の者と対立していた。モーテル兼レストランを経営するマーリー (イーディ・ファルコ) も、開発業者の一人、ジャック (ティモシー・ハットン) に最初はけんか腰で挑むが、根が惚れっぽく、男運の悪いマーリーは、こともあろうにジャックといい関係になってしまう。他にも町に活気を取り戻そうとする当局のフランシーン (メアリ・スティーンバージェン)、その夫のアール (ゴードン・クラップ) 等、様々な人間が入り乱れて、海沿いの町は近頃ちょっと騒がしい‥‥


いかにもセイルズらしい話なんだが、今回は何人もの俳優を惜し気もなく使用した群像劇で、見ようによってはセイルズの作品というよりも、ロバート・アルトマンの作品にも見えなくもない。まあ、アルトマンならもうちょっと作品に毒が含まれてくるだろうが、セイルズ作品では、登場人物は基本的に善意の人であるのが特長である。これは悪役として設定されている人物でもそうであって、根っから悪人というのはセイルズ作品にはまずほとんど登場しない。それは今回も変わらないのだ。


しかし、たとえいい人であろうと、ではその人が幸せになる運命にあるかというと、必ずしもそうとは限らない。善人であろうとたまには間違いは犯すし、人を傷つけたりもするし、ついてないこともある。要するにそれが普通の人生なのだ。「サンシャイン・ステイト」の登場人物たちも、それぞれが少なくともその時点ではそれが一番よかろうと思われる選択をしても、ではその通りに物事は進むかというと、そういうことはない。ある者は何十年ぶりに田舎に帰って、折り合いの悪かった母と仲直りできるかというとそうは簡単に人の心は変わってなく、ある者は自殺しようと思ってもままならず、ある者は一人の男と出会い、この男こそ私を愛してくれる人と思っても、だいたいはそう思ったようには事は運ばないのだ。


しかし、ではそういう人生の行き止まり、八方塞がりにいるように見える人間がすべて悲観的かというと、そうもまた見えないのがセイルズらしいところである。結局、人生うまく行かないところもあるけれど、それもまた人生。山あれば谷あり、辛いこともあるけれど、捨てたもんでもない。まあ、明日があるさ、みたいな、達観、というか、人生に対する優しさみたいなところが溢れている視点こそが、セイルズ作品の特長である。特に今回は舞台がフロリダ (「サンシャイン・ステイト」というのはフロリダの俗称である) ということもあって、そういう、南の地方に特有の、ケ・セラ・セラみたいな気だるい雰囲気が作品に充満している。


入れ替わり立ち替わり様々な人物がスクリーンに登場する群像劇であるが、強いて主人公を挙げるとなれば、数十年ぶりに結婚したばかりの夫を連れて田舎に帰ってくるデズリーと、何代もその地でモーテル/レストラン業を営んでいるが、男運にはまったく恵まれないマーリーということになろう。特にマーリーに扮するイーディ・ファルコは、HBOのTVシリーズ「ザ・ソプラノズ」でのギャングの妻、「OZ」の女性刑務官という、男勝りの強面の役でキャリアを築いてきてるので、こういう、弱い面を見せる役でも見事にこなせるのに感銘を受けた。というか、だからこそこういう役が逆に印象に残るのであるが、うまい役者であることは元々知っていても、やはりうまいなあと思わせる。しかし、ファルコの下半身って、結構肉がついてたんですね。


ファルコに限らず、TV出身の役者が多いのもこの作品の特徴だ。特に目立つのが、ジェイムズ・マクダニエルとゴードン・クラップというABCの「NYPDブルー」ペアで、二人が一緒にスクリーンに映る場面がないかとなんとなく期待していたんだが、それはなかった。どちらかというとTVより映画で活躍していることの方が多いアンジェラ・バセットにしても、最近の作品はエミー賞にもノミネートされているABCの「ローザ・パークス・ストーリー」だし、ティモシー・ハットンはA&Eの「ニーロ・ウルフ」にレギュラー出演しているし、メアリ・スティーンバージェンもCBSのミニシリーズ「リヴィング・ウィズ・デッド」で見たばかりだし、ミゲル・ファーラーもNBCの「クロッシング・ジョーダン」に出てるしと、現在アメリカTV界で活躍している連中が大挙して出演している。


苦情を言わせてもらえれば、こういう群像劇で、一人一人を描き込んでたらどうしてもそうなってしまうのはしょうがないというのはわかってはいるのだが、しかし、やはり軽目のアンサンブル・ドラマという印象の作品の内容からすると、ほぼ2時間半という作品の長さは、長過ぎる。まあアルトマンの群像劇「ゴスフォード・パーク」も2時間20分あったのだが、あのくらいの密度の濃さがあって初めて、時間を気にしないで作品に没頭できる。別に「サンシャイン・ステイト」が面白くないわけではないが、しかし、こういう軽めの作品が2時間を超えると、やはり長いと感じる。アルトマンでも3時間の「ショート・カッツ」は、はっきり言って苦痛だった。


しかし、まあ、それでもたまにこういう作品を見るのは、非常にいい気分転換になる。セイルズって、本当にアメリカの良心を代表するような映画作家だ。セイルズ作品を見た後は、必ずせつないというか、ほのぼのしんみりって感じを味わわせられるが、それは今回も同じだった。とはいえ甘口というわけでもない。いずれにしても、彼のようなインディ映画作家が新作を撮り続けているのを見ると、非常に勇気づけられる。しかしこの作品も、地味だから97年の「メン・ウィズ・ガンズ (Men with Guns)」同様、日本では公開されないまま終わるのだろうか。彼のメンタリティは日本人の嗜好に合うと思うんだが。どこかの配給会社がセイルズ特集回顧上映でもやって強力にプッシュすれば、わりと高い確率でセイルズ・ブームが起きるんじゃないかという気がするんですけど。







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