出演:
ジェイソン・モラン・アンド・ザ・バンドワゴン
ブラッド・メルドー
エリック・ルイス


セントラル・パーク、および近郊の公園で開催される毎夏の無料コンサート・シリーズの一環。この種の催しでは、規模といい集客力といい、ニューヨーク・フィル・ハーモニックがセントラル・パークだけでなく、近郊の公園を回る無料コンサートが最も知名度があると思うが、あまり知られてこそいないが実力のあるアーティストを世界中から呼ぶこのサマーステージ・シリーズも、特に音楽通に人気のあるイヴェントだ。何千人も観客が集まるわけではないので、比較的演奏者の近くに席を陣取れるのもいい。

私はいつぞや本当に偶然、このイヴェントを開催中に、どういった理由でだったかは忘れたがセントラル・パークを歩いていて、喜納昌吉とチャンプルーズが演奏しているところに出くわして唖然としたことがある。まさかこんなところで昔懐かしい地元の人間が演奏しているシーンに出くわすとは思ってもいなかった。

さて今回、私がこのイヴェントに足を運んだのは、特に「ピアノス・イン・ザ・パーク」と題され、ジャズ・ピアニストを揃えたこの日のメンツに、ブラッド・メルドーの名を発見したからに他ならない。私はジャズ・ピアノ、それもリリカルな感じのピアノが好きなのだが、そういうファンが辿る基本的なコースとして、だいたいビル・エヴァンス、キース・ジャレット、チック・コリア辺りをよく聴いた。そういった人間が現在メルドーをよく聴いているのは、ほとんど当然の帰趨と言えよう。

特にレトロスペクティヴではない、今現在のプレイヤーであるメルドーをリアル・タイムに聴くことは、本当に、実に今の自分にしっくり来る。とにかくはまるのだ。同時代のアーティストの感性が最もしっくりくるのはやはり当然だろう。

というわけで、ここ数年、私の音楽リスニングはメルドーを基調にして組み立てられている。だいたい夜オフィスから帰ってきてから、あるいは週末の朝起きて、まずメルドーを聴いてそれから他の音楽を聴き、またメルドーを聴く、というパターンがここ数年定着している。おかげでほとんどジャズに関心がないうちの女房も、ピアノのタッチだけで、これメルドーっぽいね、とか言ったりするようになった。メルドーばかり聴いているから、門前の小僧になったようだ。

そのメルドーがプレイする、しかもタダ。この機会を逃すほど私は甘くはなかった。他にも幾日間にもわたって様々なアーティストのステージがあるのだが、今回はただメルドー一人のみに最初から焦点を絞る。しかもその日はメルドー以外にも、ジェイソン・モラン、エリック・ルイスといったやはり中堅 (らしい。この辺はよくわからない) のピアニストもプレイするのだが、ほとんど知らないため、とにかく気持ちはただメルドー一人に向かう。

最初はモラン、次にメルドーという順番でプレイしたのだが、メルドーがプレイする時は、夕暮れのまだ明るい時間から、だんだん陽が翳り、暗くなるまでという時間帯で、要するにメルドーが一番ドラマティックかつロマンティックな、最もいい時間帯をもらっていると言える。我々は地べたに直接座ったのだが、まだ昼間の熱気が地面にこもっているのが、陽が落ちて気温が落ちてくるとともに、ひんやりといい感じになってくる。ビール片手に、昼間の仕事の疲れをとりながら、いい気持ちになって屋外で好きな音楽を生で聴く。空を見上げると旅客機が飛行機雲を後に残しながら飛び去って行く。うーん、仕合わせ。

近年メルドーは、ニック・ドレイクやレイディオヘッド等のカントリー・ポップス系の音楽をよく弾くのだが、それは今回も変わらない。「ライヴ・イン・トーキョー」ではレイディオヘッドの「パラノイド・アンドロイド」がメインに据えられていたが、今回も同様に「パラノイド・アンドロイド」が、当然アレンジは違うがクライマックスと言えた。その他にもモンクやコルトレーン等、基本的に「ライヴ・イン・トーキョー」と似たような選曲だったが、やっぱり音楽って、聴く環境、こちらの調子や体調にもよって変わってくるし、なによりもこういうセッティングでは、弾く本人の気持ちも変わってくるだろう。

実際、弾き初めてしばらくすると、ちょっとスピーカーがハウリングを起こしたのだが、いきなりメルドーは弾くのをやめると、観客席後方のミキサーに向かって、抑えて抑えてと手振りで示し、観客の笑いを誘っていた。こういう開放感こそが屋外コンサートの醍醐味だろう。約1時間ちょっとのメルドーのステージが終わると、今度はルイスのステージが待っていたのだが、既に満腹な気持ちに浸っていた我々夫婦は、もう充分堪能したと会場を後にしたのだった。すまん、ルイス、あんたはまたの機会に。




 

Central Park SummerStage 05    セントラル・パーク・サマーステージ 05

Pianos in the Park    ピアノス・イン・ザ・パーク

セントラル・パーク、ラムジー・フィールド   (2005年8月5日)

 
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