放送局: ブラヴォー (Bravo)

プレミア放送日: 4/3/2008 (Thu) 23:00-0:00

製作: マジカル・エルヴス・プロダクションズ

製作総指揮: ダン・カットフォース、ジェイン・リップシッツ、ガンナー・ウェターバーグ

ジャッジ: ヴィンセント・パターソン、ナンシー・オメアラ、ジェリー・ミッチェル

ホスト: エリザベス・バークリー


内容: 勝ち抜きダンス・リアリティ。優勝賞金は10万ドル。


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現在、ケーブル・チャンネルのブラヴォーと聞いて人が即座に思い浮かべる番組はというと、これはもう、10人中9人までは勝ち抜きデザイナー・リアリティの「プロジェクト・ランウェイ (Project Runway)」であろうということは賭けてもいい。一時飛ぶ鳥落とす勢いのあった「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ (Queer Eye for the Straight Guy)」は、ゲイの男性5人組によるストレートの男性のメイクオーヴァー・ショウだったはずなのだが、いつの間にやら女性もその対象になるようになったために、看板の偽りをなくすために単に「クイア・アイ」と改称せざるを得なくなるなど、現在では既に新エピソードは放送されていない。また、スピンオフのゲイの女性による「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガール (Queer Eye for the Straight Girl)」も製作されたが、こちらはほとんど泣かず飛ばずで終わった。


あとはなぜだか根強い人気がある、ラグナ・ビーチの甘やかされた奥様方を追った「リアル・ハウスワイヴズ・オブ・オレンジ・カウンティ (The Real Housewives of O.C.)」が、スピンオフの「リアル・ハウスワイヴズ・オブ・ニューヨーク・シティ (Real Housewives of NYC)」までできるくらい人気番組になってしまった。これはどちらかというと、以前FOXの「ザ・シンプル・ライフ (The Simple Life)」がパリス・ヒルトンとニコール・リッチーのトンデモ行動見たさで視聴者がチャンネルを合わせたためにヒットしてしまったように、怖いもの見たさ、というかトラッシュ番組路線でそれなりの人気を獲得しているものだろう。


この「リアル・ハウスワイヴズ」、およびそこそこ人気のある「ワーク・アウト (Work Out)」を別にすると、やはり現在のブラヴォーは、「プロジェクト・ランウェイ」を筆頭とする勝ち抜きリアリティで持っているという印象が強い。勝ち抜きシェフ・リアリティの「トップ・シェフ (Top Chef)」、勝ち抜きインテリア・デザイン・リアリティ「トップ・デザイン (Top Design)」、勝ち抜きヘア・デザイナー・リアリティ「シア・ジーニァス (Sheer Genius)」、勝ち抜きモデル・リアリティ「メイク・ミー・ア・スーパーモデル (Make Me a Supermodel)」等で、そしてその列に連なる最新勝ち抜きリアリティが、この勝ち抜きダンス・リアリティの「ステップ・イット・アップ・アンド・ダンス」だ。


ただ、ブラヴォーの勝ち抜きリアリティの場合、あまりオリジナリティがなく、他局のヒット・ショウの体裁を真似た二番煎じであることが多く、実はそれほど誉められない。現在のブラヴォーの屋台骨を背負って立っている「プロジェクト・ランウェイ」にしてからが、ちょっと視点を逆にしてみたCWの「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル (America’s Next Top Model)」の焼き直しという印象は免れ難いし、男女モデルを一緒にして選ぶ「メイク・ミー・ア・スーパーモデル」もそれは同様だ。


「トップ・シェフ」もフード・ネットワークの「ザ・ネクスト・フード・ネットワーク・スター (The Next Food Network Star)」もしくはFOXの「ヘルズ・キッチン (Hell’s Kitchen)」のパクり、「トップ・デザイン」はHGTVの「デザイン・スター (Design Star)」の焼き直しであるなど、オリジナルとの類似は歴然としている。「ステップ・イット・アップ・アンド・ダンス」の場合、これは誰が見てもFOXの「アメリカン・ダンスアイドル (So You Think You Can Dance)」を手本にしていることは火を見るより明らかだ。


それでもブラヴォー勝ち抜きリアリティがそこそこに人気があるのは、そこにブラヴォーらしいテイストを付加することに成功しているからに他ならない。一言で言うとその特色は、激しい競争ということに集約されるかと思う。どの番組にも、自分が一番と信じて疑わない自信家や、人を蹴落としても自分が一番になろうとする上昇志向の人間等の、強力なキャラクターを持つ参加者が必ず何人かおり、そのことが参加者内に競争、葛藤、軋轢を生む。つまり、そのことがドラマを生み出しており、番組を面白くしている。


「ネクスト・フード・ネットワーク・スター」や「デザイン・スター」では、勝ち抜きリアリティ・ショウといっても全員フェア・プレイで、番組が終わった後は皆友人、みたいなアット・ホームな雰囲気が漂っていたりするのだが、ブラヴォー・リアリティではそれは皆無とは言わないまでも、少なくとも表に出てくる特色ではない。つまりブラヴォー勝ち抜きリアリティは、テイストとしてはCBSの「サバイバー」にこそ最も近いと言える。


ブラヴォーでモデル/シェフ/デザイナーの勝ち抜きリアリティ・ショウという時、他のチャンネルの番組と比較して、比重は「モデル/シェフ/デザイナー」というよりも「勝ち抜き」の方にかかっている。だからインテリア・デザイナー勝負で参加者にデザインをさせずに勝ち負け決めてしまって本末転倒のように思える時もあるが、参加者内における葛藤、パワー・ゲーム、生の感情の発露を楽しむという点では、確かにブラヴォー・リアリティは面白い。


因みに現在放送中の「トップ・シェフ」の第4シーズンでは、腕はいいが徹底して負けず嫌いのアジア系のデイルが一人で番組を面白くしていることは論を俟たない。これが「ヘルズ・キッチン」なら、最も強いキャラクターを持っているのは参加者ではなく、ホスト・シェフのゴードン・ラムジーだ。また、先頃終わった「プロジェクト・ランウェイ」の第4シーズンでは、やはりこれまた強力キャラクターのクリスチャンが番組を面白くしていた。クリスチャンはほとんど全国的に名が売れたために、その後ABCの「アグリー・ベティ (Ugly Betty)」にゲスト出演するなど、かなり注目された。


さらに勝ち抜きリアリティに限らず、ブラヴォーのリアリティ・ショウは「ワーク・アウト」にせよOC版/NY版の「ハウスワイヴズ」にせよ、出てくる主要人物のキャラクターが強力であるため、目を離せない点があるということに異議を挟む者はあるまい。だからこそ冷静に見るとトラッシュTVでしかない「ハウスワイヴズ」なんて番組が、それなりに話題になって視聴者を獲得しているのだ。


そのブラヴォーの最新勝ち抜きリアリティ「ステップ・イット・アップ・アンド・ダンス」は、全米から選りすぐった12人のダンサーをLAに集め、勝ち抜きで優勝者を決める。一つ屋根の下に集められたダンサーたちは明日からのコンペティションを前に今夜はクラブに行ってせいぜい羽を伸ばしてくるようにとホストのエリザベス・バークリーに言われてやってきたはいいものの、やはりそれはダンサーをリラックスさせるためなどではまったくなく、クラブ内で踊っていた者たちはいきなり番組関係者以外は帰れと言われる。ダンサーたちはさも当然のようにその場で躍って予備的な振るい落としにかけられ、ウィニング・チーム (勝ち組) とルージング・チーム (負け組) の2チームに分けられる。翌日の本当のコンペティションで、ルージング・チームから追放される者が出るのだ。


因みにゲスト・コレオグラファーとしてそのチームの振り分けを行い、その後のダンス・ルーティンの振り付けを行ったのは、マドンナやクリスティーナ・アギレラ等の振り付けで知られるジェイミー・キングだ。キングは2チームにスパイス・ガールズの曲に合わせて別々の振り付けをする。その段階で既に怪我人が出る。どこかにぶつけたものだと思うが、ニコールのすねが青黒く腫れ上がって、痛そうで、あれではいくらなんでも踊れまい。しかし番組はニコールの回復を待ってなぞいられない。もちろん病院に行って医者に見てもらった方がいいだろうが、そこでドクター・ストップがかかれば彼女はそれまでだ。しかもあの腫れ上がり方を見るに、その可能性は非常に高い。


さらに練習に入ると、ウィニング・チームにいてキングのお眼鏡にかなったはずのジェシカが、実はその他のダンサーに較べて見劣りがする、というか飲み込みが遅く、他のダンサーたちの足手まといになっているのが見てとれる。自分が皆の邪魔になっていることがショックで泣き出してしまうジェシカ。しかしコンペティションは始まったばかりなのだ。そして練習の成果を見せるコンペティションが始まり、ゲスト・ジャッジとして姿を見せたのはスパイス・ガールズのスケアリー・スパイスことメルBだ。だからスパイス・ガールズの曲を使っていたのか。ジェシカはここでもバークリーから、ウィニング・チームにいなければ追放されたのはあんただったときついことを言われる。


一方、やはり医者に行ったニコールは、戦線離脱を決心する。ジャッジの一人ジェリーから、あんたはやれると言われたのを断って最終的に自分で決断したのだが、しかし、ジャッジもいい加減素人判断で人をけしかけるのはやめてもらいたいと思ってしまった。ここで無理して後で一生後悔するのは本人なんだから。結局この回追放されたのはアドリアーナ。それまでにはニコールがリタイアすることはもう決まっていたから、私はこの回は追放者なしということにして、毎週一人ずつ減らしていくものだとばかり思っていたのだが、それはそれ、これはこれということで、必ず一人はパフォーマンス次第で落としていくつもりのようだ。けど、そうするとどこかで必ず予定より人が少なくなるはずだから、どこかで追放者なしのエピソードが挟まるかもしれない。


番組第2回のテーマはキャバレー・ダンスで、ボブ・フォッシの「キャバレー」や「シカゴ」のような扇情的なキャバレー・ダンスに挑戦する。チーム毎に舞台を模してキャバレー・ダンスを踊るのだが、こういう群舞的な展開は、個人とペアのダンスだけに限られる「アメリカン・ダンスアイドル」にはなく、あってもせいぜい番組オープニングでさわりだけ、みたいな風でしかない。だからこういうやり方は新鮮で面白かった。結局落とされたのは、自分が最もエロティックに踊れると自信満々だったどこから見てもゲイの黒人ダンサー、ジェイムズ。こういう自信過剰の者に限ってボロを出すのが早い。


ただし、番組としてはそれなりに面白いのだが、私としては参加者のダンスのレヴェルは、本家の「ダンスアイドル」の方が僅かではあるが高いと思う。だからこそ「ダンスアイドル」では本選の10人程度に絞り込まれるまでのオーディションの模様を収録したパートでも充分楽しませるが、「ステップ」にはオーディションのエピソード自体がない。これは「アメリカン・アイドル」がその応募者の層の厚さによって予備オーディションからも充分楽しませるが、「アイドル」を真似て雨後の竹の子のように現れた二番煎じ勝ち抜きアイドル発掘番組群が、結局「アイドル」の面白さの足元にも及ばずに消えていったことを想起させる。


また、「ダンスアイドル」ではダンサーたちは結構皆仲がいい。同じものを目指している者たちという連帯感が見てとれる。「アイドル」もそうだが、その点ではこれらの番組は参加することに意義がある的なオリンピック的なものを感じさせる。一方、参加者の勝ちたい意識を重点的に前面に押し出す「ステップ」は、総合的なダンスのレヴェルでは一歩譲るとしても、ブラヴォー得意の勝ち抜きでの葛藤を見る人間ドラマとして楽しませてくれる。私としてはやはりダンスを見るためにチャンネルを合わせているわけだから、まずここはいいダンスを見せてもらい、その上で人間ドラマもあればなおいいと思うのだが、「ステップ」の方が面白いという者もいるだろう。番組ホストはエリザベス・バークリーで、彼女は今シーズンの「CSI: マイアミ」で、デイヴィッド・カルーソ演じる主人公ホレイショの冷酷な前妻という役どころで出ていたのを見たばかりだ。


さて、恒例でここまで見てきた段階で私の予想を言うと、女性ではダンスに迫力があって根性を見せるジャニールが、ちょっと肉がつきすぎの嫌いもあるが本命という気がする。ミシェル (モチ) は私はいま一つ線が弱いと思っているのだが、女房は彼女の方がいいという。実際ジャッジのコメントを聞いていると、ジャニールよりモチの方が受けはいいようだ。一方、男性ダンサーはマッチョを気取りすぎるか、あるいは逆にスノッブなゲイ過ぎるかのどちらかが多い。さらにこのほど放送された敗者復活戦で、一度は落とされた気取り屋オスカーが復帰してきて、またゲイ密度が増した。とはいえ私が推すのは性格もよさげなニックかコーディだ。



追記 (2008年6月)

私が予想したジャニールがその後結構すぐに落ち、最終回に残った4人はニック、コーディ、ミゲールに紅一点のモチ。特にモチはどうも玄人受けするようで、よくジャッジが誉める。TVではわからないが生で見ると映えるというタイプは俳優でもよくいるが、彼女もそういうタイプなのかもしれない。最終回は群舞とソロと両方あったのだが、意外にも実は私の印象ではそれまでは特に推していたわけではないミゲールが結構よかった。とはいえコーディもニックも自分の持ち味を充分に発揮し、これでは誰が勝つのかまったくわからない。‥‥そして結局勝ったのはコーディ。むろん異論はない。よしよし、これで来週からは本戦に入るFOXの「アメリカン・ダンスアイドル (So You Think You Can Dance)」の第4シーズンに注力だ。







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Step It Up & Dance


ステップ・イット・アップ・アンド・ダンス   ★★1/2

 
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