Spider-Man: Homecoming


スパイダーマン: ホームカミング  (2017年7月)

今回のスパイダーマンは、アンドリュウ・ガーフィールドがスパイダーマンに扮するシリーズの最新第3作というわけではない。今回からまた新しい「スパイダーマン」シリーズになる。 

 

スパイダーマンというと、サム・レイミ演出で、トビー・マグワイヤがスパイダーマンに扮したシリーズが、コメディ・タッチでいかにもはまっていて記憶に残る。それに較べると、ガーフィールドがスパイダーマンに扮したシリーズは、ガーフィールドの真面目そうな印象が強過ぎて、作品としては悪くなくても、人気の点ではイマイチだったようだ。 

 

だいたいこの種のスーパーヒーローものは3作ずつ作って代替わりするから、2作で終わってしまったガーフィールド版スパイダーマンは、たぶん興行的には特に満足できるものとは言えなかったに違いない。あるいは、ガールフレンドの父親が死んでしまうという意外な展開からして、最初から2作で終わる可能性も織り込んでおいたのかもしれないとも思える。 

 

しかし調べてみると、最も大きな理由は、アベンジャーズを絡めたマーヴェル・コミックスのマーヴェル・シネマティック・ユニヴァースにスパイダーマンを参入させることが本決まりになったため、3作で終わりでなく、今後もずっと途中で辞めることなくスパイダーマンを演じてくれる俳優が必要になったためらしい。ガーフィールドは明らかに今後はスパイダーマンというキャラクターに縛られずに俳優業に精を出すだろうから、シネマティック・ユニヴァースには留まっていないだろうし、なんといっても現在30歳を超えているのは、今後を考えると大きなネックになると思われる。 

 

というわけで、新スパイダーマンを、今回からトム・ホランドが演じている。というか、シネマティック・ユニヴァースの前作、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ (Captain America: Civil War)」で、既にトム・ホランド=スパイダーマンが登場している。話としては、今回の「ホームカミング」は、「シビル・ウォー」からの続きになっており、既に新スパイダーマン・シリーズは始まっていた。 

 

だいたい、この種のスーパーヒーローものは、主人公を演じる役者が代替わりすると、一通りそもそもの発端をおさらいする。なぜスーパーマンが地球にやってきたのか、なぜバットマンがバットマン足り得るのか、スパイダーマンはどうしてああいう能力を持ち得たのか、という発端は、新しいシリーズが始まる毎に見せる。若いファンはその辺をまだ知らない者も多かろう。 

 

今回、新しいスパイダーマンになったのになんでおさらいしないで発端を省くんだろうと一瞬思ったのだが、既に観客は「シビル・ウォー」でアベンジャーズの一員として戦うスパイダーマンを見ているから、それも当然だ。もう既にスパイダーマンはスパイダーマンなのだ。 

 

さらにスパイダーマンことピーター・パーカーのプライヴェイトにも、多少の変更が見られる。その最たるものが、ガールフレンドのMJあるいはグウェンの不在だろう。マグワイヤ版ではMJ、ガーフィールド版ではグウェンと、ガールフレンドは変わったわけだが、少なくともグウェンはマグワイヤ版にもガーフィールド版にも登場していた。それが二人ともいなくなり、代わりにピーターが片恋慕しているミシェルというまったく新しいヒロインが登場する。MJもグウェンも、きれいさっぱりいなくなった。 

 

親友のハリーもいない。メイ叔母さん (マリサ・トーメイ) はいるが、ベン叔父さんはいない。今まで通りニューヨークのクイーンズに住んではいるが、これまでのような一軒家ではなく、アパート住まいだ。これはダウンサイジングか。ついでに言うと、ピーターの通っている学校はサブウェイの駅のすぐそばに広大な敷地を有している。決して裕福ではないピーターが通う学校だから公立のはずだが、あれだけ恵まれた敷地や設備を持つ高校は、少なくともクイーンズにはない。ピーターは一応頭はよさそうだから、ブルックリン辺りのできる子を集めた公立校に行っているのかと思う。しかしミシェルの家なんかはまるでウエストチェスター辺りにあるような大きな一軒家だ。 

 

例えばマグワイヤが街中を走り回る時、実際に当時私が住んでいたクイーンズのアパートの近所がスクリーン上に現れ、それだけで親近感が増したものだ。ガーフィールド版ですらいかにもクイーンズの橋の近くという雰囲気を醸し出していたが、今回はそういう地元くささがまったくない。 

 

これはたぶん、今回から作品がシネマティック・ユニヴァースに組み込まれたこととも関連があるだろう。リアルなクイーンズではなくて、アベンジャーズが活躍する異世界なのだ。実際の話、今回はスパイディはワシントンDCに遠征はしても、お約束のはずのマンハッタンの高層ビルの合い間をびゅんびゅん飛び回る描写はない。 

 

そうではなく、マンハッタンから出航しているフェリー上でのアクションが、今回最もニューヨークを感じさせるシーンになっている。それだって、だったら、その航行ルート沿いの自由の女神をアクションに絡めるのが常套だろうし、誰もが考え期待すると思うのだが、それをしていないというのは、意図的に外しているとしか思えない。ワシントンDCのモニュメントがあれだけフィーチャーされているのに、ニューヨークですぐそばにあるはずの自由の女神が、ほとんど背景に映らない。要するに、やはりスパイダーマンは、ニューヨークのヒーローからシネマティック・ユニヴァースへと活躍の場所を移動したということだろう。 

 

ホランドは、最初見た時からなんか見たことあるような気がする奴と思っていたが、舞台の「ビリー・エリオット (Billy Elliot)」出身と聞いて納得。要するに映画でビリーを演じたジェイミー・ベルに感じがよく似ている。 

 

悪役としては、元DCコミックスのバットマンを演じていたマイケル・キートンが、マーヴェル・コミックスのスパイダーマンに登場する。バットマンもスパイダーマンも、それぞれDCとマーヴェル作品の中で異質だ。大金持ちでネクラでしつこいバットマンと、貧乏で学生で抜けているスパイダーマンは、スーパーヒーローとしての資質では対極のところにいる。その両方に出てくるキートンってやっぱり一癖ある。 

 

しかも今回のバルチャーって、「バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡) (Birdman: or (The Unexpected Virtue of Ignorance))」で空飛んでたりした姿にかなり近い。今回は悪役とはいえ家族思いだったりするし、スーパーヒーローだろうがヴィランだろうが結構一筋縄では行かないキャラクターばかりだ。それにしてもマーヴェルではアベンジャーズ、DCではジャスティス・リーグとスーパーヒーローの共闘が常態になりつつあるだけでなく、マーヴェルとDC間で、演じている俳優によるまさかの意外な隠し玉連携がここへ来て明らかになった。さすがスーパーヒーロー、簡単にこちらの予想を覆してくれる。 

 









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アイアンマン/トニー・スターク (ロバート・ダウニーJr.) の誘いでアベンジャーズの一員になれそうなスパイダーマン/ピーター・パーカー (トム・ホランド) だが、その後一向にトニーからの連絡はなく、やる気は満々なのにスーパーヒーローとしての使命を持て余し気味だ。いざ個人的に出陣と出張っても、着替えを入れたバックパックは盗まれ、学校では冴えない男の殻を破れず、仄かに恋い焦がれるマドンナのミシェル (ゼンデイヤ) に声をかけられない。一方、かつて自分の事業のいいところを政府とトニーに横取りされたという恨みを持ち続けるバルチャー/エイドリアン・トゥームス (マイケル・キートン) は、悪事を働き続けていたが、スパイダーマンに邪魔をされ、仕返しを誓う‥‥


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