Snow White and the Huntsman


スノーホワイト  (2012年6月)

とある時のとある国で。囚われの身となっていたラヴェンナ (シャーリーズ・セロン) がマグナス王によって救い出される。絶世の美女であったラヴェンナは、美しさに魅入られた王の妃として迎えられるが、しかしラヴェンナは、実は魔法を用い、最初から国の乗っ取りを目論んでいた。王は殺され、継娘のスノーホワイト (クリスティン・スチュワート) も塔に幽閉される。時が経ち、独房の中であっても美しく成長したスノーホワイトは、ラヴェンナの美貌を脅かす存在となり、魔法の鏡の予言によって、ラヴェンナはスノーホワイトを殺す決心をする。しかしスノーホワイトは隙を見て逃げ出し、ラヴェンナは妻を亡くしたばかりの猟師エリック (クリス・ヘムズワース) を追っ手として差し向ける。エリックは魔の森でスノーホワイトを捕まえるが、自分の間違いに気づき、スノーホワイトと一緒に逃走を図る。道中、7人の小人たちを加え、スノーホワイトと仲間たちはラヴェンナへの逆襲を画策する‥‥


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こないだジュリア・ロバーツ主演の「白雪姫と鏡の女王 (Mirror Mirror)」を見たばかりと思ったら、今度もまた「白雪姫」ものの「スノーホワイト」だ。昨年は「赤ずきん (Red Riding Hood)」があり、TVでもABCの「ワンス・アポン・ア・タイム (Once Upon a Time)」、NBCの「グリム (Grimm)」等、近年グリム童話をオリジナルとする、あるいは着想を得た話がいくつも製作されている。


ただしこれらは、グリム童話が今注目されているというよりは、「ハンガーゲーム (The Hunger Games)」等も交えた、疑似的な中世時代をバックグラウンドにするファンタジー・アクション・ブームの一つの流れという印象が強い。とはいえ今回、「白雪姫」というまったく同じオリジナルを持ち、ジュリア・ロバーツとシャーリーズ・セロンという2大女優が魔法を使う妃という同じ役を演じる「白雪姫と鏡の女王」と「スノーホワイト」が、かなり注目されていたのもわかる。


おなじ白雪姫でも、ロバーツが妃を演じるとコメディになり、セロンが妃を演じるとドラマになる。両方ともゴージャスな衣装やセット、CGのイメージが見せ所なんだが、こうもアウトプットが変わる。それにしても同一人物を片方は「白雪姫」、もう片方は「スノーホワイト」と統一がとれていないのは、なんとかなんないものか。それとも違っている方が今風でいいのか。しかしそうなると、「白雪姫」のロバーツの方が多少古いという印象を与えるのは否めない。ロバーツもヴェテランなのだな。


今回の「スノーホワイト」でまず印象に残るのが、これまでは、魔女とか悪の王妃とかいう一般名称でしか呼ばれなかった王妃に、ラヴェンナという固有の名前がついたこと。言うなれば、王妃は今回初めて人格を手に入れたと言える。それまでの脇から主演級への抜擢だ。悪を倒すには、まずその者の本当の名を唱えなければならないというのは大昔からの鉄則だ。名前があって初めて倒すべき相手になる。


また、名前というと、映画の原題「スノーホワイトと猟師」にある人物、猟師も気にかかる。この猟師はいったい何者なのか。スノーホワイトと対等に表記されているからには、彼はもう一方の主役であるはず。しかし白雪姫に猟師が出てきた記憶なぞないが。それとも今回は猟師が王子様の代わりになるのか。


映画が始まると、スノーホワイトの騎士的存在の、幼馴染みのウィリアムが登場する。どうやら彼が王子様役のように見えるのだが、しかし、そうすると、猟師というのはいったいなんだ? その猟師、エリックが登場するのは、成長したスノーホワイトが幽閉されていた塔から脱出してからだ。彼は魔の森を知っている人間として、スノーホワイトをとらえる者としての任務を請け負わされる。


ここでまた、新たな疑問が浮上する。猟師エリックは、妻が死んでやけ酒を飲んでくだを巻いているところをラヴェンナの手下たちによって取り押さえられるのだが、もしエリックが今回の王子様役としたら、なにもわざわざ妻帯者で、その妻が死んだばかりという設定にする必要はなかろう。観客の視点から見ると、スノーホワイトの王子様役としてわざわざ感情を移入させにくくしている。ということは、たぶん猟師が王子様役ということもなさそうだ。ではやはりウィリアムか。思い切り捻って、たぶんこの後出てくるだろう7人の小人のうちの誰かということはあり得るか? うーむ、わかりにくい。


一方、わかりやすいのは悪役として設定されているラヴェンナで、演じるセロンは美しさにますます凄みがついた。これまでは殴られても立ち向かっていくという役どころが多く、美人で負けず嫌いという印象だったセロンが、貫録がついて権力を持つ側になった。セロンは殴られるとよけいに映える美貌の持ち主であり、冒頭の登場の仕方はまさしくその辺を踏まえていたのだが、実は今回はすぐに虐める側に回る。それはそれでやはり美しいのには変わりはなく、ゴージャスな衣装に身を包むと、「白雪姫」のロバーツとはまた異なる妖艶さで、見る者を楽しませる。


ただしあのミルク風呂は、今のアメリカ人だと、十中八九、アニー・リーボヴィッツがウーピ・ゴールドバーグを撮ったローリング・ストーンの表紙となった有名なミルク風呂を思い出すのは間違いなく、実はどれだけ効果があったかは疑問。演出のルパート・サンダースは若手のようだから、もしかしたらゴールドバーグの写真を知らなかったことも考えられる。おかげでイメージとしてはかなり印象的なシーンに、コメディックなオブラートがかかった。


「白雪姫」でもそうだったが、近年は実際には小人ではない俳優が小人を演じることが多い。むろんこの傾向は、ピーター・ジャクソンの「ロード・オブ・ザ・リング (The Lord of the Rings)」以来だろう。実際に特に背が高いわけではないとはいえ、ホビット役がはまったイーライジャ・ウッド以来、性格俳優が小人を演じる機会が多く、それは「白雪姫」でもそうだったし、「スノーホワイト」もそうだ。微妙に背を小さく見せる撮影技術の進歩はすごい。


今回はボブ・ホスキンス、イアン・マクシェイン、レイ・ウィンストン、トビー・ジョーンズといった癖のある面々が小人役なのだが、そのあまりのはまり具合に妙に納得する。ジョーンズなんて元々でかくないし、本当は元々この大きさで、他の映画に出ている時にトリックを使ってでかく見せているのではと錯覚しそうになるくらいだ。


結局冒頭の疑問なのだが、これは日本でも同時公開されているのでほとんどの者は見ているだろうからタネをばらしてしまうと、猟師は主演格ではあるが、王子役でもない。ではウィリアムがやはり王子役だったかというとそうでもない。二人ともスノーホワイトを守る騎士役ではあるが、恋愛対象にはなりきれない。これはもしかしたら、スノーホワイトを演じるクリスティン・スチュワートが、別の大ヒット作「トワイライト (Twilight)」においてヴァンパイアと契りを結んだことと関係があるかと思ってしまう。たとえ王子でもヴァンパイアには勝てないと思ったとか。


たぶん、スノーホワイトは、今後、女王として国を束ねていくと思われ、どうやらそこに王子は必要ないらしい。女性はシングルでもやっていけるのだ。撮影技術の進歩よりも、その設定にこそ最も今という時代を感じる。


そうそう、忘れてはならない毒りんご、「白雪姫」ではあまりにもぞんざいに扱われた毒りんごが、今回はちゃんと立派なイメージの一つとして利用されている。その眠りからスノーホワイトを目覚めさせるのは、やっぱり王子様のキスではなかったわけだが。









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