近年、ヴァンパイア・ドラマを筆頭にSF/ホラー/ファンタジー・ドラマが増えたなとは思っていたが、とかく今秋の新シーズンはそれ系のドラマが多い。映画の「トワイライト (Twilight)」や「ハンガー・ゲーム (The Hunger Games)」、TVのCWの「ザ・ヴァンパイア・ダイアリーズ (The Vampire Diaries)」やHBOの「ゲーム・オブ・ザ・スローンズ (Game of the Thrones)」の成功も一役買っているのだろうとは思うが、たぶん時代が不安定であることが、この種の別世界のファンタジー・ドラマを人が欲している最大の理由ではないだろうか。最近、ほとんど週一くらいの割り合いで銃の乱射事件が起きているような気がする。
ざっと見渡しただけでも、今シーズン編成されたこの種のホラー・ファンタジー系ドラマは、「スリーピー・ホロウ」を皮切りに以下のようなものがある。特に若者向けネットワークのCWの新番組はこんなのばかり、しかも出ているのが皆似たり寄ったりの美形俳優で、私みたいなおっさんには一見しただけでは区別できなかったりする。
ジ・オリジナルズ (The Originals) CW
ウィッチズ・オブ・イースト・エンド (Witches of East End) ライフタイム
ザ・トゥモロー・ピープル (The Tomorrow People) CW
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ワンダーランド (Once Upon a Time in Wonderland) ABC
レイン (Reign) CW
レイヴンスウッド (Ravenswood) ABCファミリー
ドラキュラ (Dracula) NBC
これらの番組の多くに共通するのが、だいたいよく知られた原作・オリジナルがあるか、そのスピンオフ番組であるということだ。「スリーピー・ホロウ」は言わずと知れたワシントン・アーヴィングの原作があるし、ティム・バートン/ジョニー・デップの映画化もある。というか、ヘッドレス・ホースマンはアメリカではクラシックのホラー・フィギュアであり、日本で言えばお岩さんのようなものだ。アメリカでは誰でも知っている。
「オリジナルズ」は「ヴァンパイア・ダイアリーズ」のスピンオフで、「ウィッチズ・オブ・イースト・エンド」も原作がある。「トゥモロー・ピープル」はかつての英国製ドラマのリメイクだし、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ワンダーランド」はABCの「ワンス・アポン・ア・タイム (Once Upon a Time)」と「不思議の国のアリス (Alice in Wonderland)」を合体させてみたものだ。「レイヴンスウッド」は「プリティ・リトル・ライアーズ (Pretty little Liars)」のスピンオフだし、「ドラキュラ」はもちろん不朽のクラシックを発展させたものに他ならない。等々、オリジナルと言えるのは「レイン」だけだ。
「スリーピー・ホロウ」の場合、クラシック原作の映像化というよりも、舞台設定だけを借りて現代に展開させている。それも18世紀の主人公が21世紀の現在に息を吹き返してヘッドレス・ホースマンと対峙するという、かなり突拍子もない設定だ。
これで思い出すのは、2008年にFOXが放送したニコライ・コスター-ワルドー主演の「ニュー・アムステルダム (New Amsterdam)」だ。こちらは17世紀ニューヨークの人間が不死の力を得て現代ニューヨークで刑事をしているというこれまた突拍子もない設定だったのだが、私はわりと面白く見ていた。まだよく覚えているので2、3年くらい前の番組だっけと思っていたら、既に5年も前の話だった。
スリーピー・ホロウも、一見アメリカのどこにであるような郊外の町には違いないが、マンハッタンまでクルマで1時間かからない、ニューヨーク州の町だ。「ニュー・アムステルダム」も「スリーピー・ホロウ」も番組そもそものオープニングは、何百年も前にネイティヴ・ア メリカンだか南軍だかと戦う主人公が、呪いをかけられるなり傷を負うなどするそもそもの発端を描き、そして話は現代に飛ぶという、番組の始まり方もそっくりだ。
主人公のイカボッド・クレインを演じるトム・マイソンがまた、コスター-ワルドーと雰囲気が似ている。過去の人間が、不死にせよ復活したにせよ現代で過去の知識を活用して事件解決に役立てる。クレインの場合は長い間眠っていたために知識の集積ではなく、200年以上前の知識のままだ。そのためもちろんクルマもスマートフォンも初めて見る。言葉ですら時代めいて現代の我々が話すのとは違う。まあ、すぐに順応したようだが。
スリーピー・ホロウのシェリフ、アビー・ミルズは、実は妹と一緒に幼い頃、森の中で異形の者を目撃していた。しかし話を信じてはもらえないだろうとわかっていたアビーは口を閉ざし、あらぬことを口にし続けた妹は、精神を病んだ者として病院に隔離される。しかし今になってアビーは、ヘッドレス・ホースマンが職場のパートナーを殺したのを目撃する。そしてクレインが口にする、誰もが世迷い事として一笑に付す変事が事実であることを知っているのは、アビーだけだっ た。アビーは半信半疑ながら、クレインと共に行動を開始する。
アビーの上司アーヴィングは、基本的にそういう超常現象的なものを信用していない。普通に警察で働く者なら当然の態度だ。しかしアビーを信用して、ある程度自由に動かせている。また、クレインの死んだ妻カトリーナは、魔女として火炙りにされた。そのため天国へも地獄へも行けず、クレインの夢の中に現れ、ヒントやアドヴァイスを与える。ヘッドレス・ホースマンは何者かの手先として行動し、世界の滅亡を企んでいるというのだ‥‥
バートン/デップの「スリーピー・ホロウ」では、クレインがやたらとガジェット好きの発明家然として周囲を煙に巻いていた。しかし当時の知識しか持っていないクレインを現代に連れてくると、ガジェットに囲まれた文明生活についていけないのだった。
それにしても惜しいのは、イカボッドという世にも珍妙な名前を持っているのに、クレインという名字でしか呼ばれない主人公で、 最初の方はミスタ・クレインと、よりにもよってミスタ付きで呼ばれてしまう。 イカボッド、と呼び捨てにしてくれるのは、たまに夢の中に登場する死んだ妻しかいない。やはりこういう唯一無二の名前は、是非イカボッド、とファースト・ネイムで呼んでもらいたい。彼には今後周囲の者からイカボッドと呼ばれるように、現代社会に溶け込んでもらいたいものだ。