Shrek

シュレック  (2001年7月)

ついに長年の禁を破り? CGアニメーション作品の「シュレック」を見に行った。アニメーションを劇場で見るのは、多分宮崎駿の「天空の城ラピュタ」以来だから、ほぼ15年ぶりくらいになる。だいたい20歳前後くらいからアニメーションにまったく魅力を感じなくなって、それっきり見なくなった。学生時代には中型のバイクを駆って、上板橋東映 (もうないだろうなあ) の「ガンダム」三部作オールナイトってのも見に行ったこともあるんだが。今となっては遠い昔のことのようだ。


以来今の今まで、どんなに話題になろうともアニメーションには食指が動かなくなった。たとえ「アラジン」が、「アンツ」が、「トイ・ストーリー」が、「ライオン・キング」が話題になろうとも、私にはまるで別世界の出来事だった。それがなぜ今になってアニメーションを見ようという気になったのか。


理由は幾つかあるが、第一の理由が、こないだたまたまTVをつけた時にやっていたディズニーの「ターザン」を見るともなく見ていて、非常に感心したことが一つ。元々私がアニメーションを見なくなった理由の一つに、なぜ実写で撮れるものをわざわざアニメーションにするのかわからない、というものがあった。こういうのが理由になるのが本当にアニメーション離れしている証拠なのだが、とにかく、要するにアニメーションを見る気にならんのだ。これがアニメ好きに言わせると、なぜアニメでできるものを実写で撮る必要があるのか、というふうになっちゃうんだろうが、これはもう本人の嗜好と言うしかないね。


しかし「ターザン」は、確かに実写では不可能でアニメーションでしかできないことをやっていた。あのスピード感、あのギャグ、あの視覚効果は、確かによくできたアニメーションには一見の価値があると思わせてくれた。もしかしたら私のこれまでのアニメーション嫌いは、いつの間にやら食わず嫌いになっていたのかも知れない。考えを改める時期に来ているのかも。


そして「シュレック」を見に行った第二の理由が、この映画が現時点における今年最大のヒット作で、子供だけでなく、大人もひっくるめて大ヒットしていることがある。なんせ、公開一月で興行収入2億ドルを突破、「パール・ハーバー」なんて目じゃないのだ。その「パール・ハーバー」の上を楽勝で行っている「ハムナプトラ2」ですら、「シュレック」には到底及ばない。スピルバーグの「A.I.」も全然追いつきそうもないし、公開間近の「ジュラシック・パーク3」や「猿の惑星」が、公開前からこりゃあ追いつくのは無理だと意気消沈してしまいそうなほどの勢いなのだ。


時にこの勢いだけでヒットしてしまう映画というのもあるが (「最終絶叫計画 (Scary Movie)」や現在公開中の「ワイルド・スピード (The Fast and the Furious)」なんてまさしくこのタイプ)、ヒットしているから必ずしも面白いというのが保証されるわけではない。しかし、「シュレック」はTVでやっている予告編を見ていると、それだけで結構笑わせてくれる。最初この映画の予告編を劇場で見た時は、主人公のシュレックにまったく魅力を感じなくて、なんでまたこんな変なのを主人公にしちゃったわけ? ドリームワークス何か勘違いしているんじゃない? と思ったものだが、何度も見るうちにそういう嫌悪感みたいなものも感じなくなった。むしろ愛嬌があるようにさえ見えてくる。こうなるとスタジオの術中に落ちたも同然なのだが、時には自ら相手の術中に落ちるのも映画見の醍醐味の一つでもあるので、ここは一つ、騙されたと思って見に行くかと、実に久し振りのアニメーション観賞に出かけたのであった。


皆から疎んじられている緑色の鬼シュレックは、森の外れに一人で住んでいた。本当は心の片隅に寂しい気持ちが渦巻いているのだが、傍若無人に振る舞うことでそういった気持ちを振り払っていた。ある時、そのシュレックの住む小屋の周りに、ありとあらゆるお伽噺の主人公が詰めかける。背は低いが気位だけはやたら高いファークアド王に追い出されてしまったのだ。彼らを元の居場所に帰すためには、ドラゴンが守る城に幽閉されているフィオナ姫を助け出して、王様と結婚させなければならない。シュレックは嫌々ながらも重い腰を上げる‥‥


主人公シュレックの声を担当しているのは、「オースティン・パワーズ」のマイク・マイヤーズ。そのシュレックに付かず離れず案内役を買うロバに、現在「ドクター・ドリトル2」が公開中のエディ・マーフィ。その他フィオナ姫にはキャメロン・ディアス、ファークアド王にジョン・リスゴーとう吹き替え陣。実はこの中では、シュレックを吹き替えるマイヤーズが一番これといって特色もなく、主人公でありながらそれほど印象に残らなかった。最もはまっているのはやはりマーフィで、彼のロバは本当に笑える。現代的お姫さま風のディアスも結構よく、うまい具合に嫌らしさを出しているリスゴーもなかなかのものだ。


リスゴーと言えば、彼が主演しているNBCのシットコムの「サード・ロック・フロム・ザ・サン (3rd Rock from the Sun)」は、割りあい面白いのにもかかわらず、NBCが新シーズンになる度にスケジュールを移動して新しい時間帯で編成するために、いつの間にやらいつやってるのかわからなくなった視聴者からもういいやと愛想を尽かされて視聴率が落ちた挙げ句、先シーズン限りでキャンセルされてしまった。私は結構好きだったんだけどねえ。


それにしても、本当にCGアニメーション製作の技術は上がった。実は来週、実写並みのスーパーリアルCGと評判の「ファイナル・ファンタジー」が公開されるのだが、この分だと本当に数年後には生身の俳優は必要なくなるかも知れない。特に難しいはずの重量感だとか水の質感、密生する草の描写技術など大したもので、その草の一本一本が揺れてたりするのを見ると、それを描くためにかかった手間ひまを考えてくらくらしてしまう。ここまでやるんだったらむしろ実写の方がよっぽど楽だろうに、と思うのはやはりアニメーションに命を賭けてない部外者のセリフなんだろう。アニメーション関係者は、今に本当にアニメーションが実写に取って代わる日を夢見ているのかも知れない。まあ、確かにシュレックの顔が実写だと、あれじゃあいくらなんでも愛嬌ある顔にするのは難しいだろうなという気はする。


しかし、なぜアニメーションでわざわざ「マトリックス」のパロディをかます必要があるのか。あれ、アニメーションでやっても意味なんかまるでないだろうに。と思いながらも、やっぱり笑っちゃうんだよなあ。作ってる方も、その、だから何なんだ的な路線を狙ってるんだろう。結構思うように操られて笑ってしまったような気がする。なんでもアニメーションが大きなヒットになるには作品の中に大人向けのギャグと子供向けのギャグの両方を入れる必要があるそうで、観客の反応を見ていると、大人と子供が違うところで笑っているのがわかるそうだ。そういえば確かにそうだったような。


一応子供が主要ターゲット層になっているから、1時間30分で終わってしまったところにも感動した。ほら見ろ、90分あれば物語なぞ語れてしまうのだ。「シュレック」なんて結構波乱万丈のストーリーだったぞ。もちろん時々ただむやみに長い物語を見たいという気分になることもあるが、こういう、90分きっかりできっちり終わる作品は、やはり捨て難い。あれ、もうおしまい? もっと見たかったのに、的な気分で劇場をあとにする気分を久し振りに味わった。


実は「シュレック」の映像化の話は5年前からあったそうで、その時はシュレックの声を担当する予定だったのは、今は亡きクリス・ファーリーだった。この話を聞いた時、私はなるほど! と思った。声の吹き替え陣の中で、シュレックを担当するマイヤーズの印象だけが弱かったわけが、これで納得である。ファーリーだったら、まさしくうってつけだったに違いない。しかし、いかんせん製作に何年もの地道な月日がかかるアニメーションでは、でき上がった時、既にファーリーはこの世の人ではなかった。しかし利点もあって、後任に決まったマイヤーズは、まだ「オースティン・パワーズ」がヒットする前で、お姫さま役のディアスも「チャーリーズ・エンジェル」どころか、「メリーに首ったけ」すらまだ公開していない、はっきり言って新人だった。だから彼らのギャラはものすごく抑えられている。今彼らと契約を結ぼうとしたら、当時の100倍の金額を提示しなければならないだろう。


この夏、ディズニーは新作アニメーションの「アトランティス」を公開しているのだが、興行成績では「シュレック」の足元にも及ばない。3、4年ほど前から、スピルバーグが中心のドリームワークスやワーナー・ブラザース、20世紀FOXといったスタジオが、それまでほぼディズニーの寡占状態にあったアニメーションの世界に基盤を築かんと、大挙してアニメーション製作に取り組んでいる。ディズニーはパイを食われるのが嫌なために、最初、わざと他のスタジオが公開するアニメーションの公開当日に合わせて、「人魚姫」等の過去のディズニー・クラシックを再公開したりしていた。当初は、これが子供に夢を与える作品を製作しているスタジオのやることか、大人げないと散々叩かれてたりしてたのだが、これだけ他のスタジオがアニメーションを製作し始めると、たとえディズニーといえどもその数に見合うだけの過去の作品もないため、いつの間にやら黙認みたいな形になった。これからが本当のアニメーション戦線が始まると言えるだろう。


ところで「シュレック」製作のドリームワークスは、スピルバーグの他にデイヴィッド・ゲフィン、ジェフリー・カッツェンバーグというアメリカのエンタテインメント界の大立者3人が共同で始めたスタジオである。音楽界出身のゲフィンはともかく、カッツェンバーグは何あろうディズニーの重役だった。しかしカッツェンバーグはディズニーを辞める時大いに飛ぶ鳥跡を濁しており、もらうはずだったボーナスをもらってないとディズニーを訴えていたのはまだまだ記憶に新しい出来事だ。その後カッツェンバーグはディズニーからいくらかもらったはずなのだが、それでも恨みは残っていると見えて、「シュレック」ではディズニー映画のキャラクターがあとからあとから出てきてパロられている。ピノキオ、7人の小人、ピーターパン等がまるでディズニー映画そのままのキャラクターで出てくるのだ。


たとえそもそものオリジナルがディズニー以前からあったとしても、これだけ視覚的にディズニーのキャラクターそのままだと、訴訟沙汰にならないでいいのだろうかと他人事ながら心配にもなる。そんなことで著作権の侵害とか名誉棄損だと訴えられていたら、ドリームワークスとしても話にならない。それでドリームワークスは、「シュレック」公開前にディズニー首脳を招いて内輪での上映会を開いたそうだ。ディズニー側からは文句は出なかったそうである。きっと我々のあずかり知らないところで業界内部のパワー・ゲームが炸裂したのだろうということは、想像に難くない。







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