Shadow in the Cloud


シャドウ・イン・ザ・クラウド  (2021年9月)

先頃、第二次大戦時にナチの収容所で看守をしていた、現在100歳になる男の裁判がドイツで始まるという報道があった。こういっちゃなんだが、既に先が見えている人間の裁判を始めることになんか意義があるかという気もしないでもないが、当事者が生きている限り責任追及を辞めないという単純性、率直性も、いっそ潔いと言えないこともない。そういうお国柄だからこそナチも生まれたんだなという気もする。 

 

さて、「シャドウ・イン・ザ・クラウド」は、第二次大戦を舞台にしているとはいえ、社会派というわけではなく、単純に戦争中という設定を借りたアクションだ。今、戦争をテーマにした社会派というと、やはり第二次大戦ではなく、アフガニスタン紛争を題材にすることになろう。 

 

実際、私がこの作品に興味を持ったのは、なによりも主演のクロイ・グレイス・モレッツが目に止まったからだ。モレッツはどっちかっつうと演技派に分類される若手だと思うが、癖のある可愛さで、本人も自覚しているのだろう、これまで王道というよりは捻った印象の作品に多く出ている。 

 

なかでもモレッツの印象を決定づけているのは、やはりホラーになるだろう。実質的デビュー作は「悪魔の棲む家 (The Amityville Horror)」だし、注目されるきっかけとなったのは「モールス (Let Me In)」だ。それら以外にも「ダーク・シャドウ (Dark Shadows)」、「キャリー (Carrie)」、「サスペリア (Suspiria)」等、リメイクのホラーが多い。 

 

一方でモレッツは、「キック・アス (Kick-Ass)」みたいなヒット・アクションにも出ている。今回の「シャドウ・イン・ザ・クラウド」は、ホラーとアクションという、モレッツのセールス・ポイントを最大限に活かそうとしているものと思える。 

 

とはいえ、話が始まると、第二次大戦こそ背景となっているが、実際の舞台はニュージーランドだ。そういやニュージーランドやオーストラリアって、実は連合国だった。なんか南半球の国が第二次大戦の舞台として出てくると、不思議な気がする。 

 

1943年というと、それまで押していた日本を含めた枢軸国が連合国側に巻き返され、一進一退を続けている時だ。映画ではそういう状況下でニュージーランドの飛行場を飛び立った爆撃機が、日本の零戦を気にかけながら飛行を続ける。しかし彼らを襲うものは零戦だけではなかった‥‥というお話。 

 

それはともかく気になるのは、話の肝となる、モレッツ演じる主人公ギャレットが軍事機密として運ぶかばんの中身だ。私は最初、色々と想像して、まさかxxxってことはないよな、と、一番あり得なさそうで自分自身で却下していたものが本当にそうだったのには、驚いたというよりも脱力した。まあしかし、超常ホラーだからそのくらい許されるんだろう。 

 

実際の話、ホラーに戦争アクションに最後には生身のアクションまで炸裂するなんでもありの展開は、モレッツ・ファンには堪えられないと思われる。よくも悪くもモレッツのために製作されたような映画なのだった。 

 

演出のロザンヌ・リアンは中国系ニュージーランダーの女性だそうで、だから舞台がニュージーランドだったか。ニュージーランド出身の女性フィルムメーカーというと、なにはともあれ真っ先に思い浮かぶのはジェイン・カンピオンだが、それよりも現在では中国系女性映像作家ということで、カンピオンよりもクロイ・ジャオを連想する者の方が多いに違いない。というわけでジャオのマーヴェル・コミック映像化の「エターナルズ (Eternals)」の予告編が今TVでがんがんかかり始めているのだが、うーん、マーヴェルか、基本的にもうあまり乗り気ではないんだがどうしよう、と思案中なのだった。 

 














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1943年、ニュージーランド、オークランドの軍飛行場。女性軍人のガレット (クロイ・グレイス・モレッツ) は、重要機密書類の入ったかばんをサモアに届けるという任務のため、駐機していた爆撃機に乗り込む。むさい男たちばかりの乗組員たちは下卑たあまり嬉しくない態度でガレットを迎え、場所がないからと危険なボール・ターレットに無理やり押し込まれたガレットは、置き場所がないため、注意するよう念押ししてかばんをクエイド (テイラー・ジョン・スミス) に託す。離陸した機の銃座でガレットは、敵機だけではなく、人間ではない何ものかをも目にする‥‥ 


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